「フィガロの結婚」は人気オペラで美しいアリアをたくさん聴くことができます。ただ、物語が複雑、登場人物が多すぎるので、私は初心者にはお勧めしないオペラです。フィガロの結婚を見る友人にアドバイスするのはこの二つです。フィガロは主役ではない、作品で注目する人物は、伯爵、伯爵夫人、スザンナである。これを知っておくと、ある程度簡単に見ることができます。
フィガロの結婚、オペラ:人物相関図
4組のカップルに注目して、内容を把握するといいぞ。
フィガロの結婚、オペラ:登場人物
アルマヴィーヴァ伯爵 | 伯爵 | バリトン |
伯爵夫人 | 伯爵夫人 | ソプラノ |
スザンナ | 女中 | ソプラノ |
フィガロ | 召使 | バス |
ケルビーノ | 小姓 | ソプラノ |
マルチェリーナ | 女中頭 | メゾソプラノ |
バルトロ | 医者 | バス |
バルバリーナ | 庭師の娘 | ソプラノ |
バジーリオ | 音楽教師 | テノール |
アントーニオ | 庭師 | バス |
ドン・クルツィオ | 裁判官 | テノール |
- 原題:Le nozze di Figaro
- 言語:イタリア語
- 作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
- 台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
- 原作:ピエール・オーギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェの戯曲「フィガロの結婚」
- 初演:1786年5月1日 ウィーン ブルク劇場
- 上演時間:2時間55分(第1幕50分 第2幕45分 第3幕40分 第4幕40分)
フィガロの結婚、オペラ:簡単なあらすじ
フィガロとスザンナは結婚を間近に控えている。伯爵は二人に部屋を用意する。フィガロは喜ぶが、スザンナはフィガロに、伯爵が自分を口説こうとしていることを告げる。それを聞いたフィガロは、伯爵の裏をかき、結婚を認めさせようと画策する。しかし、この計画には落とし穴があり、伯爵夫人は窮地に立たされる。伯爵夫人とスザンナは、伯爵に罰を与えるために新たな計画を実行する。計画は成功する。伯爵は伯爵夫人に謝り、彼女から許しを得る。
フィガロの結婚、オペラ:解説
フィガロの結婚では「貴族」対「庶民」の「階級の対立」が描かれています。原作「フィガロの結婚」の戯曲を書いたボーマルシェは「筆でフランス革命を起こした」と言われるほどの人物。オペラは検閲のために軽い内容ですが、原作の戯曲はもっと風刺の効いた作品でした。
フィガロの結婚、オペラ:第1幕のあらすじ
アルマヴィーヴァ伯爵邸の一室
中央に椅子があるだけの、何もない部屋。伯爵家に仕えるスザンナとフィガロが、部屋を見ている。
伯爵がこの部屋をくれたんだ。
この部屋は気に入らないわ。
なぜ?伯爵の部屋に近くて、使用人として働くのに便利だろう。
なぜって?私はスザンナで、あなたが間抜けなのよ。
もしも奥様が夜中にお前を呼べば、ディンディン、2歩で行けるだろう。ご主人が呼べば、ドンドン、私は3つのジャンプで行けるさ。
「二重唱」Se a caso madama la notte ti chiama
伯爵様があなたを呼び出して、ディンディン、遠くにやった後、ドンドン。この部屋に悪魔が彼を連れてくるわ。伯爵はあちこちで浮気をしているのよ。新たに目をつけたのが、あなたのスザンナよ!
伯爵夫人の呼び出しのベルが鳴る。スザンナは部屋を出て行く。
伯爵様、踊りたければ私がギターを弾きましょう。宙返りも教えて差し上げましょう。機転を利かせ、ここでは突き刺し、あそこで、からかう。あなたの計画をひっくり返してやろう。
「伯爵様、踊りになりたければ」Se vuol ballare Signor Contino
「伯爵様、踊りになりたければ」Se vuol ballare|フィガロの結婚
印象に残りやすい楽しい曲です。ベートーヴェンがこの曲を変奏曲にしています。
フィガロは伯爵を思うままにさせないと決意し、策を練りに出かける。
二人がいなくなった部屋に、女中頭のマルチェリーナと医師のバルトロが現れる。
フィガロを諦めないわ。この契約書があるんですもの。
契約書…フィガロはマルチェリーナに借金をしており、借金を返せなければ彼女と結婚するという契約書。
バルトロ
お前に協力するよ。フィガロの策略のせいで、わしが結婚しようと狙っていた女(伯爵夫人)を、別の男(伯爵)に盗られたんだからな。
フィガロの策略…ロッシーニのオペラ「セビリアの理髪師」でこのエピソードがわかります。
バルトロ
復讐だ。それは賢明な人だけに許された楽しみだ。バルトロの名はセビリア中に知られている、フィガロよ、覚えていろ。
バルトロは息巻いて出て行く。マルチェリーナが一人になったところに、スザンナが部屋に戻ってくる。
(スザンナに聞こえるように、独り言)フィガロは、若い女と結婚したがっているけど、フィガロは貧乏なのよね。本当に結婚できるかしら。
(ひどい言い方!馬鹿にしているわ!)
マルチェリーナとスザンナは言い争いになって、マルチェリーナは怒って部屋を出て行く。次にやってきたのは、伯爵の小姓ケルビーノ。
スザンナ、聞いてよ。僕とバルバリーナがふたりでいるところを伯爵に見られて、暇を出されたんだ。
美しい伯爵夫人の取りなしがないと、遠くに行くことになってしまう。君にも会えなくなるんだ。僕のスザンナ!
伯爵は、バルバリーナをナンパしに彼女の部屋に行き、ケルビーノに出くわしました。バルバリーナに手を出そうとしているのを見られたために、ケルビーノを自分の屋敷から追い出そうとしています。
ちなみにスザンナと気安く話していますが、ケルビーノは貴族。
私に会えなくなるですって!それではあなたが好きなのは、伯爵夫人ではないってこと?
ケルビーノは、スザンナの持っているリボンに気がつく。
そのリボンは何?
伯爵夫人のリボンよ。
ケルビーノは奪い取ってしまう。
リボンを返さない代わりに、この歌を歌うよ。屋敷の女たち、すべてに伝えてくれ。
僕が自分でも、もうわからない。どんな女にも僕の気持ちが動き、どんな女にも胸を高鳴らせる。寝ても覚めても、愛を誰かと語りたい。一人なら、自分に愛を語るのさ。
「自分で自分がわからない」Non so piu cosa son, cosa faccio
「自分で自分がわからない」Non so piu cosa son, cosa faccio|フィガロの結婚
どんな女でも僕の心は動いてしまう。どうしたらいいんんだ。と困惑するケルビーノ。
ケルビーノとスザンナが話していると、伯爵が入ってくる。とっさに、ケルビーノが椅子の後ろに隠れる。(椅子しかない部屋なので、隠れる場所が椅子だけ。)
スザンナ。夕暮れに庭で一緒に過ごせば、君に何でもあげよう。
部屋の外から、音楽教師の声が聞こえてくる。部屋に入ってくる様子がする。伯爵が椅子の後ろに隠れようとするので、スザンナはケルビーノを椅子に座らせて自分の部屋着を掛けて隠す。
伯爵とケルビーノが隠れている部屋に、音楽教師が入ってくる。
なんのご用です?
音楽教師(バジーリオ)
君に忠告だよ。伯爵と寝るのはそんなに悪いことではないぞ。あと、ケルビーノを教育しなさい。ケルビーノが伯爵夫人を熱烈な目で見ているのが噂になっているぞ。
隠れていた伯爵が怒って出てくる。
何だと!
音楽教師(バジーリオ)
私はまずい場所に来てしまったようだ。
なんという破滅。
音楽教師は、伯爵とスザンナに対して変な勘ぐりをし、スザンナは気分が悪くなる。
私の妻に色目を使うとは、絶対にケルビーノを追い出すぞ。
昨日、バルバリーナの部屋を訪れたら、挙動不審だから部屋中を探したら、ケルビーノがいたんだ。こんなふうに…ああ!!
伯爵が椅子の上の部屋着をめくると、ケルビーノがいる。伯爵は怒り、音楽教師はおもしろがる。
(あいつは私がスザンナを口説いているのを聞いたんだな。)
フィガロが、村人たちを連れて部屋に入ってくる。皆で、初夜権を廃止した伯爵を褒め称える。伯爵は、フィガロを忌々しく思いながらも、威厳のある領主のようにふるまう。
兵に欠員があるので、お前を任命する。すぐに出発しろ。ケルビーノ、最後だと思ってスザンナを抱きしめるといい。
ケルビーノが、スザンナを抱きしめる。
さあ、握手しよう。さようなら、ケルビーノ。(小声で、後で話をしようと声をかける。)
愛らしい蝶も、もう美しい女の周りを飛び回れない。さあ、君は兵士たちの中に行くんだ。いかつい男たちに囲まれ、熱いときも寒いときも、名誉のために行進だ。
「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」Non più andrai, farfallone amoroso
「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」Non più andrai, farfallone amoroso|フィガロの結婚
フィガロの結婚、オペラ:第2幕のあらすじ
伯爵夫人の居間
三つの扉があり、ベッド、ひとつの窓がある豪華な部屋。(この幕では、扉がポイントになる。主となる扉、女中が通る扉、衣装部屋の扉)
伯爵夫人が、夫の愛が冷めていることをひとり嘆いている。
愛の神よ、安らぎを与えておくれ。もし無理なら死んでしまいたい。
「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」Porgi, amor, qualche ristoro
「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」Porgi, amor, qualche ristoro|フィガロの結婚
伯爵夫人の死にたいと思うほどの苦しみが、この後「フィガロの結婚」を進行させるポイントになります。
スザンナが部屋に入る。フィガロが陽気にやって来る。
ご心配無用ですよ。私に計画があります。
奥様が私どもの結婚式の時間に秘密の恋人と密会するとみせかけるのです。伯爵をだます手紙を私が書きましょう。伯爵が困惑し、悩んでいる間に、私どもの結婚の時間がくる、というわけです。婚礼の時間になれば、奥様のいる前では結婚に反対できないでしょう。
スザンナはすぐに伯爵を夕方に庭で待つように伝えるんだ。そこにはスザンナの代わりに女装したケルビーノを行かせよう。ケルビーノは、まだ軍に出発していないんだ。僕が引き留めたから。
(スザンナに)どう思う?
悪くない計画です。とりあえずフィガロに任せましょう。
伯爵は今狩りに出かけているから、手紙を出すのに丁度いいだろう。ケルビーノをすぐに寄こします。
フィガロがでていく。
伯爵夫人とスザンナがいる部屋に、ケルビーノが入ってくる。
あなた、歌を歌うそうね。歌ってみなさい。スザンナはギターで伴奏して。
恋とはどんなものか。知っているご婦人がたは教えてください。僕には新しい経験なので、わからないのです。
「恋とはどんなものかしら」Voi che sapete
「恋とはどんなものかしら」Voi che sapete|フィガロの結婚
恋とはどんなものなのか、伯爵夫人やスザンナだけでなく、すべての女性に教えて欲しいと歌います。
二人はケルビーノの歌を褒める。フィガロの作戦通り、ケルビーノを女装させようとする。着替えさせるので、スザンナは、夫人の部屋の、主となるひとつの扉の鍵を掛ける。伯爵夫人がケルビーノの辞令を見る。
伯爵が書いたケルビーノの辞令には、印がないわ。
ケルビーノを女装させながら、伯爵夫人とスザンナは大盛り上がり。
(伯爵夫人に小声で)ご覧ください。何という魅力なの。女たちが彼を愛するのも無理はないわ。
夫人はケルビーノが自分のリボンを腕に巻いているのに気がつく。ケルビーノが怪我をしているので、別の布で巻き直そうとする。そして夫人は新しいリボンをスザンナに用意させる。
(すでに巻いていたリボンだけでなく)もうひとつリボンがあれば、もっと早く治りましたのに。
スザンナが、ケルビーノ用のマントを取りに、別の扉を通り、夫人の部屋から出る。夫人は「そんなご利益はないわよ」と軽くあしらうが、ケルビーノは兵に入ることを考え泣いてしまう。伯爵夫人はケルビーノの涙をハンカチで拭いてあげる。
夫人の部屋の外から、伯爵の怒鳴り声が聞こえてくる。
なぜ、部屋に鍵が掛かっているのか?
伯爵夫人は慌てて、ケルビーノは衣装部屋に隠れる。(先ほど、スザンナは部屋から出たのでいない。)伯爵夫人が部屋の鍵を開けて、伯爵を招き入れる。
今まで鍵をかけることがなかったのに、なんでだ。いや、いい。この手紙を見ろ。衣装部屋から物音がしたぞ、誰かいるのか。(浮気相手の男がいるのだろう!)
(フィガロが書いた手紙だわ。)衣装部屋にはスザンナがいます。
二人が夫人の部屋の中にある、衣装部屋の前で話している。スザンナが、夫人の部屋に戻ってきた。スザンナはふたりに見えないように隠れる。
(衣裳部屋に向かって)スザンナ、出ておいで。
「三重唱」Susanna, or via, sortite
花嫁衣装を着ているのです。衣装部屋は開けませんよ。
(隠れて)なんの騒動?ケルビーノはどこにいったの?
お前が開けないならば、鍵以外の方法で部屋を開ける!
伯爵は、夫人の部屋の扉に鍵を掛けて、誰も出られないようにする。夫人を連れて、伯爵が出て行く。スザンナとケルビーノが、部屋に閉じ込められる。
早く開けて、開けてちょうだい。
どうしたらいいんだ。
ふたりであちこちの扉を開けようとする。
スザンナとケルビーノ
すべての扉に鍵がかかっている。
ちょっと外を見てみよう。ここは庭に面しているな。
飛び降りるには高すぎるわ。
奥様に迷惑をかけるわけにはいかない。
ケルビーノは、部屋にあるひとつの窓から飛び降りて出て行く。スザンナが衣装部屋に入る。夫人と伯爵が戻る。伯爵は、すべての扉が閉まっているのか、確認している。
衣装部屋を開けるのはやめてください。実はいたずらをしようとして、中にケルビーノがいるのです。
(あいつに至る所で出くわすのが、私の運命になりそうだ。)あいつは、まだ軍に出発していないのか!!
(あいつに至る所で出くわすのが、私の運命になりそうだ。)
「フィガロの結婚」では重要な台詞ではないですが、続編の「罪ある母」に関係のある台詞です。伯爵夫人とケルビーノが不倫をして、夫人が子供を身ごもるので、後々も関わり合うのです。一方で、伯爵も多くの浮気をしており、婚外子がいて、その子の後見人になっています。
フィガロの結婚の続編「罪ある母」のあらすじはこちらから
不届きな少年、出てきなさい。
疑うことはありません。あの子に女の子の服を着せただけですから。
夫人が、衣装部屋の鍵を渡す。伯爵が鍵を開けると、スザンナがいる。ふたりは、スザンナがいるのを見て驚く。伯爵は衣装部屋に入り、スザンナしかいないのを確認する。
とんでもない、間違いをしてしまった。申し訳ない。このような悪ふざけは酷いぞ。ケルビーノがいると言ったり、隠し事があるようなそぶりで…それに、このひどい手紙は何なんだ。
伯爵夫人とスザンナ
フィガロが書いた手紙です。でも、謝罪をする者が、他の者を責めるなんて出来ませんよ。
フィガロがやってくる。
スザンナ、結婚式の準備ができたぞ。さあ行こう。
ちょっと待て、フィガロ。この手紙は何だ。
そのような手紙は知りません。
伯爵夫人とスザンナ
フィガロ、知恵を絞っても、無駄よ。私たちが話してしまったもの。お芝居は終わりよ、それよりも私たちは言うことがあるでしょう。
伯爵夫人とスザンナ、フィガロ
フィガロとスザンナの結婚を早く認めて下さい。
そこに、庭師が現れる。
庭師
伯爵様!夫人の窓から若い男が飛び降りて、植木鉢が割れました。
大騒ぎをするな。飛び降りたのは、私だよ。
なぜだ?
あなたが奥様の部屋で怒鳴っていたからですよ。
ケルビーノが逃げるときに、辞令の紙を落としていて、庭師が拾っていた。
庭師
それでは、落ちていた紙はお前のだな。
(庭師の紙を奪って)この紙は何か、言え。
伯爵夫人が紙を盗み見て、「辞令の紙」とスザンナに伝え、スザンナが「辞令の紙」とフィガロに伝える。
…ああ、ケルビーノから預かった、辞令の紙のことか。
なぜ、お前が預かるんだ?
なぜ預かったかというと…(苦し紛れに)あるものがなかったから。
夫人が「印よ」とスザンナに伝え、スザンナが「印よ」とフィガロに伝える。
印がなかったため。
伯爵は、辞令に印がないのに気がついて、紙を捨ててしまう。女中頭のマルチェリーナ、医師のバルトロ、音楽家がやってくる。伯爵は、彼らが来たのを喜ぶ。
この契約書があるわよ!!フィガロは、借金のかたに私と結婚する契約をしたのです。私は、裁判を起こしますよ。
フィガロ、伯爵夫人、スザンナはこの状況に当惑し、伯爵、マルチェリーナ、バルトロ、音楽家は、うまくいくに違いないとほくそ笑んでいる。
フィガロの結婚、オペラ:第3幕のあらすじ
伯爵邸、大広間
立派な椅子が二つに、婚礼の準備が整った部屋。伯爵がひとり、悩んでいる。
不可解な手紙(フィガロが書いた手紙)といい、何か変だ。
同じ舞台上で伯爵から見えない位置で、伯爵夫人とスザンナは、二人で今夜行う策略を練っている。
スザンナ。伯爵を夕方の庭に呼び出しなさい。フィガロには秘密にしてちょうだい。あなたの代わりに私が行きたいの。
フィガロには秘密で、計画を進めるのですね。
フィガロの計画…伯爵を庭に呼び出し、スザンナの代わりに女装したケルビーノが行く
夫人の計画…伯爵を庭に呼び出し、スザンナの代わりに伯爵夫人自らが行く
伯爵夫人は隠れて、スザンナが伯爵に声をかける。
あの申し出は有効ですか?持参金をもらえるなら…
あんなにつれない態度だったのに、ひどいぞ。
女は「はい」と言えるタイミングがあるのです。
伯爵は、スザンナの誘いを喜ぶ。ひとの気配がしてふたりは別々になる。スザンナのそばをフィガロが通りかかり、その後ろに伯爵がいる。
フィガロ!あなたは、弁護士なしで、裁判に勝つわ!
何のことだ?
フィガロは訝しがりながらも、スザンナを追いかける。その会話を聞いていた、伯爵。
勝つとはなんだ。私はどんな罠に陥れられたのだ?私はため息をついているのに、召使の幸せを見るのか。お前たちだけ幸せにしてなるものか。
「もうお前の勝ちだと言ったな」Hai già vinta la causa!
「もうお前の勝ちだと言ったな」Hai già vinta la causa|フィガロの結婚
伯爵は「フィガロの結婚」の中で一番地位のある人ですが、オペラの上ではこてんぱんにやられます。
一同がそろい裁判が始まる。
裁判官
契約書通り、フィガロはマルチェリーナと結婚するように。
私は貴族です。貴族なので、両親の承諾なしに結婚できません。幼い頃に泥棒に盗まれ、赤ん坊の時に身につけていた衣類は宝石や刺繍がされていました。腕にはアザがあります。
何ですって。アザは右腕にあるの?フィガロ!あなたは私の息子よ!あなたのお父さんは、バルトロよ。
一同が驚く中、フィガロ、マルチェリーナ、バルトロが抱き合って喜ぶ。
裁判官
親子なら結婚は成立しない。
頭が混乱してきた。
スザンナがやって来る。
伯爵様、金貨を持ってきました。私がフィガロの代わりに払います。
スザンナは、フィガロとマルチェリーナが抱き合っているので、ふたりが結婚をしたのかと誤解する。
なんてこと。彼女を花嫁にするの?
聞いてくれ。これには訳があって。
(フィガロを平手打ち)これでも聞きなさい。
スザンナ。私を母と呼んでくれ。私はフィガロの母なのだ。
スザンナ、フィガロ、マルチェリーナ、バルトロが抱き合って喜ぶ。伯爵や裁判官は、その場を離れる。4人は喜び、フィガロたちと一緒に、マルチェリーナたちも結婚することになった。
スザンナ、フィガロ、マルチェリーナ、バルトロ
私たちの喜びを見て、伯爵は死んでしまえばいい。
そのころ、ケルビーノは、バルバリーナと一緒にいる。バルバリーナはケルビーノに女装させようとしている。
伯爵夫人がひとり、悲しみを歌い、出て行く。
スザンナはまだかしら。今夜の計画がどうなるか不安だわ。甘さと喜びのある楽しかった思い出はどこにいってしまったの?
「楽しい思い出はどこに」E Susanna non vien – Dove sono
「楽しい思い出はどこに」E Susanna non vien – Dove sono|フィガロの結婚
有名な伯爵夫人のアリアです。初演でバルトロとアントニオが同じ人物によって演じられたために、この場面で歌われます。本来は、フィガロの裁判前でした。
伯爵、庭師から「ケルビーノがまだ屋敷内にいる」と報告をうける。
伯爵夫人とスザンナがふたりで、深夜に伯爵を呼び出す手紙を書く。
今夜、やわらかな風が吹くでしょう。松の下で…これだけ書けば、夫もわかるでしょう。
「手紙の二重唱」Sull’aria…Che soave zeffiretto
今夜…風が吹く…松の下で…そうですね。あの方はおわかりになるでしょう。
「手紙の二重唱」Sull’aria…Che soave zeffiretto|フィガロの結婚
映画「ショーシャンクの空に」で使われた、有名な二重唱。
2組の結婚式
女装したケルビーノが現れる。伯爵がケルビーノを懲らしめようとする。
なぜお前は軍に出発しない?
伯爵様、お許しください。
バルバリーナ(ケルビーノの恋人)
伯爵様!あなたが私を口説くときになんでもくれると言うでしょ。ケルビーノを下さい。そうしたらあなたを愛しますわ。
あなた、どうするの?
(なぜこんなことになるんだ。)
結婚式で盛り上がる中、スザンナは、こっそり伯爵に「夫人と一緒に書いた手紙(夜中、庭に誘い出す手紙)」を渡す。フィガロは、伯爵に「どこかの女」が手紙を渡したことに気がつく。
フィガロの結婚、オペラ:第4幕のあらすじ
伯爵邸、夜の庭
真夜中の庭、小屋がある。バルバリーナがひとり。伯爵からスザンナに渡すように言われたものを落としてしまい、探している。
バルバリーナ(ケルビーノの恋人)
なくしてしまった…困ったわ。
通りがかったフィガロ。
どうしたんだい?
バルバリーナ(ケルビーノの恋人)
落としてしまったようなの。お殿様が、スザンナに渡すようにと言った「ピン」を。
(スザンナが密会相手だったのか。)ほら、ここにピンがあったよ。このピンで手紙を封印していたんだろう。それで、伯爵はなんて言っていたんだ?
バルバリーナ(ケルビーノの恋人)
伯爵はこう言ったわ。「松の木の封印だ、誰にも見られないように、と彼女に言いなさい。」それじゃあ、私はスザンナにピンを渡して、ケルビーノに会いに行くわ。
フィガロがショックを受けていると、マルチェリーナが現れる。
私は死んだ。
落ち着きなさい。まだ事情は分からないでしょう。
密会場所はわかっている。
フィガロはスザンナに怒って去って行く。
私は、スザンナを信じるわ。自分の利益に武装していない時は、情け知らずの男性たちによって不当に虐げられている、哀れな同性のために立ち上がるのよ。
「牝山羊と牝山羊は」Il capro e la capretta
マルチェリーナが去り、バルバリーナが現れる。ケルビーノと会うために小屋に入る。
フィガロ、バルトロ、音楽教師が現れる。フィガロが、スザンナと伯爵の密会を表沙汰にしようと、彼らを呼び出した。
私の花嫁と領主が密会しようとしているんです。ここにいてくださいよ。私は段取りをしてきます。口笛の合図で出てきてください。
フィガロは、彼らにそこにいるように言い、バルトロと音楽教師が残る。
音楽教師(バジーリオ)
権力のある者と戦っても、勝つのは彼らだ。
私も若い頃はフィガロと同じような情熱(権力者と戦う情熱)があったが、今はない。あるとき、冷静な女が私にロバの皮をくれた。嵐(権力者とのトラブル)が来ても、ロバの皮(愚かなふり)で身を守れることを知った。悔しい思いをしても、身を守れれば御の字だ。
「若い頃は」In quegl’anni, in cui val poco
バルトロと音楽教師が去り、フィガロがひとり。
素朴な顔で、あどけない瞳で、こんなことをするなんて。目を開け、不注意な男たちよ、女に気をつけろ。苦しめる魔女、おぼれさせる人魚、とげのあるバラ…これ以上言う必要はないだろう?誰でもよく知っている。
フィガロが隠れると、スザンナ、伯爵夫人、マルチェリーナが現れる。スザンナと伯爵夫人は、服を取り替えており、すでにお互いの変装をしている。マルチェリーナがふたりに小声で話すように、と注意する。3人は小声で話し、マルチェリーナから、フィガロがスザンナの浮気を疑っていることが知らされる。マルチェリーナは、小屋(バルバリーナが入った小屋)に入り隠れる。伯爵夫人は「肌寒いわ」と言って、その場を離れる。庭にいるのは、スザンナだけ。(と隠れているフィガロ)
不届き者(フィガロ)がこちらを伺っているわ。私を疑った報いを受けさせてやる!
憧れの人の腕に抱かれるのね。とても楽しみよ。早くおいで、遅れるな、美しい喜びよ。小さな花が笑い、草がみずみずしい。ここではすべての人が愛の快楽に誘われるのよ。
「恋人よ、早くここへ」Giunse alfin il momento
「恋人よ、早くここへ」Giunse alfin il momento|フィガロの結婚
フィガロは、スザンナと伯爵が浮気をすると勘違い。それに気がついたスザンナのいたずら心とフィガロへの愛。
隠れているフィガロは、スザンナの歌を聞いて怒る。
ケルビーノが現れる。そこにはひとりで別の場所にいた伯爵夫人(スザンナの変装をした夫人)が。ケルビーノは、暗がりで見えないが、帽子からスザンナだ、と判断して声を掛ける。
スザンナ。…なぜ返事をしないの?(彼女をからかってやろう。)僕は君がどうしてここにいるのか、知っているんだよ。
伯爵夫人は、ケルビーノを追い払おうとするが、なかなか離れてくれない。伯爵が遠くからやって来る。遠くからなので、伯爵夫人(スザンナの衣装を着た)とケルビーノ(若い男)のシルエットしかわからない。
スザンナは、ここだな。…なぜ、彼女は男と会っているのだ?
スザンナとフィガロは隠れているが、伯爵が来たことに気がつく。ケルビーノと伯爵夫人は押し問答中。
(スザンナのふり)離れなさい。早く向こうに行ってちょうだい。
スザンナ、キスをしてよ。もうすぐ伯爵ができることを僕ができないなんて。
ケルビーノが夫人にキスしようとするのを、伯爵が間に入って、ケルビーノのキスを受ける。伯爵だと気がつき、ケルビーノは逃げ去る。残ったのは、伯爵と伯爵夫人(スザンナの服を着た)、それを別々の場所で見守る、フィガロとスザンナ。
スザンナ、持参金の他に、ダイヤモンドの指輪を与えよう。
(スザンナのふり)なんでもいただきますわ。
フィガロが、わざと音を立てて歩き存在を知らせる。
誰だ?
(隠れたまま怒った声で)人間だよ。
伯爵と伯爵夫人(スザンナの衣装を着た)は、別々に去る。その場には、フィガロとスザンナ(伯爵夫人の服を着た)がいる。
静かな夜だ。だが、浮気者たち(伯爵とスザンナ)を捕まえてやる。おや、伯爵夫人。ちょうどよいところに。
(声色を変えるのを忘れて)もっと小声でお話なさい。でも、彼ら(伯爵とスザンナ)に復讐をしたいわね。(私の浮気を疑ったフィガロを驚かしてやりたいわ。)
(スザンナの声だ!)復讐ですって?(彼女は、俺を驚かそうとしている、それなら俺も。)
ひとつ方法がありますよ。伯爵夫人がお望みになるなら、私の心は燃え上がっておりますよ。
スザンナがフィガロに平手打ち。
仲直りだ。私の最愛の人。愛する声だとわかっていたよ。私の心にいつも刻み込まれているよ。
私の声?
私の愛しい声だよ。
二人は仲直り。伯爵が通りかかる。フィガロとスザンナは、伯爵夫人のためにひと芝居をする。
伯爵夫人、あなたは私の恋人です。
(伯爵夫人のふり)フィガロ、あなたの好きなように。
フィガロと私の妻が浮気をしている!
伯爵がふたりに怒鳴る。スザンナは小屋に逃げる。伯爵がフィガロを捕まえ、その場に屋敷中の人が集まってくる。
武器を持って集まれ。フィガロが私を裏切り、辱めたのだ。
小屋から、ケルビーノ、バルバリーナ、マルチェリーナ、スザンナが出てくる。伯爵は、スザンナを伯爵夫人だと、まだ思っている。
不実な女め。
(伯爵夫人のふり)お許しください。
全員
お許しください。
皆が伯爵にひざまずく。小屋からスザンナの服を着た、伯爵夫人が出てくる。
私が皆さんのためにお許しを得ましょう。
伯爵は、夫人の姿を見てすべてに気がつく。
伯爵夫人、許しておくれ。
私は従順ですから、はいと答えましょう。
夫人は謝罪を受け入れ、全員が喜び合い幕が下りる。