「魔笛」はモーツァルトが最後に完成させた、傑作オペラです。
「魔笛」は一見おとぎ話のようでありながら、第1幕と第2幕で、善人と悪人が逆転、オペラに登場する意味ありげな「3」の数字と、興味を引かれる要素が多いオペラです。
誘拐されたパミーナを救おうとする、王子タミーノ、お供のパパゲーノ、誘拐された娘・パミーナの3人に注目して見ると、魔笛を簡単に見ることができます。
魔笛の見どころ、聴きどころとして有名な「夜の女王のアリア」は、次のところで出てきます。
- 夜の女王のアリア…第1幕・第1場
「恐れずに、若者よ」O zitt’re nicht, mein lieber Sohn! - 夜の女王のアリア…第2幕・第3場
「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」
Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen
オペラ「魔笛」の相関図

オペラ「魔笛」の登場人物
タミーノ | ある国の王子 | テノール |
パミーナ | 夜の女王の娘 | ソプラノ |
パパゲーノ | 鳥刺し・鳥を捕獲する人 | バリトン |
ザラストロ | 神殿の大祭司 | バス |
夜の女王 | パミーナの母 | ソプラノ |
パパゲーナ | 老婆の姿で現れる若い娘 | ソプラノ |
モノスタトス | ムーア人 | テノール |
弁者 | バリトン | |
3人の侍女 | ||
3人の童子 |
オペラ「魔笛」の基本情報
- 題名 魔笛 Die Zauberflöte
- 作曲 モーツァルト
- 初演 1791年9月30日 ウィーン アウフ・デア・ヴィーデン劇場
- 原作 クリストフ・マルティン・ヴィーラントの童話集「ドゥシニスタン」の「ルル、または魔笛」
- 台本 ヨハン・エマニエル・シカネ-ダー他
- 言語 ドイツ語
- 上演時間 2時間30分(第1幕70分 第2幕80分)
オペラ「魔笛」の簡単なあらすじ
第1幕
架空の古代エジプト。夜の女王は、ザラストロにさらわれた娘パミーナの救出を王子タミーノに依頼する。彼の仲間は陽気なパパゲーノ。

わかりました。パミーナを救いましょう。
無事にパミーナを見つけたタミーノとパミーナは恋に落ちます。
第2幕
タミーノは試練に挑む。パパゲーノも一緒に挑戦する。彼の試練の褒美は、パパゲーノという娘。



可愛い娘に会うために、どうしてこんなひどい目に遭わなければならないのか。
娘を誘拐された被害者のはずの夜の女王は、亡き夫がザラストロに与えた太陽の力を取り戻すため、娘パミーナにザラストロを殺すように命じる。



ザラストロを殺さないなら、私はもうあなたの母親ではありません。永遠にあなたと縁を切るわ!



恐ろしいことはできない。
それを知ったザラストロは、復讐ではなく、愛から彼女を許すと言う。
タミーノとパパゲーノは試練を乗り越える。ザラストロの世界を襲いに来た夜の女王は、光の力によって倒される。人々は太陽の世界の美しさと知恵を讃える。
オペラ「魔笛」の解説
第1幕と第2幕で、善人と悪人が逆転します。


第1幕
- 善…娘を誘拐された、夜の女王
- 悪…誘拐した、ザラストロ
第2幕
- 善…人々を英知の世界へ導く、ザラストロ
- 悪…娘にザラストロの殺害を命令・娘を男に差し出そうとする、夜の女王
オペラ「魔笛」第1幕のあらすじ
第1場
序曲
岩山
架空の古代エジプト。日本の狩衣を着た王子・タミーノ。蛇に追われて逃げ惑う。



助けてくれ!!もうダメだ!
タミーノが気絶する。女性三人が現れて、蛇を倒す。
3人の侍女
(全員で)私たちの力よ。彼を救ってあげたわ。
一人目
あら、よく見るとかっこいい。
二人目
本当に!女王様にお見せしよう。私がここに残るわ。
三人目
いえいえ、私が残ります。…皆、残りたいのね。それなら彼はここに残して、3人で女王様のもとに行きましょう。
3人の侍女が立ち去り、タミーノは目を覚ます。そばで蛇が死んでいる。



私は無事なのか?誰かがやって来るぞ、隠れよう。



鳥を捕まえるのが、俺の仕事!陽気で元気なんだ。可愛い女の子と結婚したいな。
「私は鳥刺し」Der Vogelfänger bin ich ja
隠れていたタミーノは出てきて、パパゲーノに声をかける。お互いに自己紹介。タミーノは「遠い国の王子様」、パパゲーノは「夜の女王と侍女たちに、捕まえた鳥を渡して食べ物の交換をしてもらい、暮らしている」と言う。



それで、この蛇を殺したのは君なのかい?



なんだって?!(うわ、蛇が死んでる。)ああ、そうだよ。素手で殺したんだ。俺は力持ちなんだぞ。
3人の侍女がその場に現れる。
3人の侍女
パパゲーノ!!夜の女王様が、あなたにこれを下さったわ。ワインの代わりにお水を。砂糖の代わりに石を。イチジクの代わりに金の錠前を。
なんの罰かわかるわね。あなたが嘘をつくからよ。
パパゲーノは、口に金の錠前をつけられて、しゃべることができない。
3人の侍女
若者よ。あなたを助けたのは私たちですよ。
これは、夜の女王様の「娘パミーナの絵姿」です。あなたが絵姿に心を動かされれば、幸福と名誉を手に入れられるでしょう。
それでは私たちはしばし去ります。反省しなさい、パパゲーノ。
3人の侍女は去っていく。絵姿を見るタミーノ。



なんと美しい絵姿。心は火のように燃えている。これが恋なのか、そうだ、愛なのだ。
「なんと美しい絵姿」Dies Bildnis ist bezaubernd schön
ふたりの前に、戻ってきた3人の侍女。
3人の侍女
勇気を出して下さい。夜の女王様は「あなたが娘を救ってくれる」とおっしゃっていました。娘のパミーナ様は、悪魔に連れ去られているのです。この近くにある、用心深く守られた城の中に。



わかりました。パミーナを救いましょう。(物々しい音が響く)この音は何だ?
3人の侍女
落ち着いて。女王様のおでましです。
山が左右に開き、玉座に座った夜の女王が現れる。



恐れずに、若者よ。あなたは清く美しい心を持っています。あなたのような若者が、私の心を慰めてくれるのです。
「恐れずに、若者よ」O zitt’re nicht, mein lieber Sohn!
私は悩み苦しんでいます。なぜなら我が娘が盗まれてしまったから。悪党は逃げ去ったのです。まだ目の前にあの時の光景が浮かびます。娘を助けたくとも、私の力は弱すぎるのです。娘を助けに行くなら、あなたは娘の救世主になるでしょう。
「私は悩み苦しんでいる」Zum Leiden bin ich auserkohren
夜の女王と3人の侍女は、去って行く。



今の出来事は、夢か、幻か?



フムフム、フムフム(口の錠前を指さす)
「五重唱」Hm! hm! hm! hm!



助けてあげたいが、私にその力はないんだ。
3人の侍女が戻ってきた。
3人の侍女
女王様がお許しになったわ。パパゲーノ。(口の錠前を外す)王子様よ。女王様から贈り物です。この「魔法の笛」はあなたを守ってくれるでしょう。
タミーノに魔法の笛が手渡される。



さて、ここらで立ち去ろう。
3人の侍女
お待ちなさい。あなたは、お供として彼と一緒に行くのよ。



嫌だ。パミーナは恐ろしい男に捕まっていると言っていたじゃないか。そんなところに行きたくない。
3人の侍女
王子様が守ってくれるわ。パパゲーノには「銀の鈴」をあげます。「魔法の笛」と「銀の鈴」が、あなたたちを守ります。



パミーナが捕まっている城には、どうやって行けばいいのですか?
3人の侍女
3人の童子が、城に導いてくれますよ。さようなら。また会いましょう。
3人の侍女に見送られて、タミーノとパパゲーノは出発する。
第2場
ザラストロの城の中
豪華なエジプト風やトルコ風の部屋。奴隷たちが噂話をしている。「パミーナが逃げたらしい」「モノスタトスが怒って探している」「モノスタトスに酷い扱いを受けているから、パミーナには無事に逃げて欲しい」
モノスタトス
おい、鎖を持ってこい。パミーナを鎖で縛るぞ!
モノスタトスによって、鎖で縛られたパミーナが部屋の中に連れられてきた。
モノスタトス
可愛い娘さん。さあ部屋に入るんだ。



あなたには優しい心がない。私を殺して。
パミーナが気絶する。部屋の窓からパパゲーノが入ってくる。パパゲーノ(鳥人間)とモノスタトス(肌が黒いムーア人)が出くわして、お互いに「ばけものだ」と驚き、ふたりとも部屋から逃げ出す。



(気絶したまま)お母様!!(目を覚ます)つらいわ。このような暮らしが続くなんて。
パパゲーノが部屋に戻ってくる。



驚くなんて、俺はバカだな。黒い鳥がいるんだから、黒い人間だっているのは当たり前だ。おや、絵姿にそっくりな娘だ。あなたは夜の女王様の娘だろう。
パパゲーノは、絵姿を見せる。



夜の女王!!お母様だわ。この絵姿は私よ。なぜここに?



夜の女王様が、ある王子様を気に入ったんだ。王子様は、あなたの絵姿を見て救出すると決めた。それで俺がお供として一緒に来ることになったんだ。でも、なかなかあなたに会えないから、一足先に俺だけここに来たんだ。さあ、行こう。



ええ、でも待って。あなたが悪人だったら…



俺が悪人だって?ひどいな。愛することを考えたら、そんなことを思わないはずさ。



そうね。あなたは優しい人ね。



そう言ってくれて嬉しいけど、恋人がいないんだ。



愛を感じる男性なら、優しい心を持っているわ。愛の喜びを知りましょう。
「二重唱・恋を知る殿方には」Bei Männern, welche Liebe fühlen



愛のときめきを分かち合うのが女のつとめ。男と女は手を取り合い、神の世界に行くのだ。
パミーナとパパゲーノは、部屋を出て行く。
第3場
森の中の3つの神殿
3人の童子が、タミーノに道案内をしている。
3人の童子
この道を進んでください。男らしく勝つのです。私たちの教えを聞いてください。心を落ち着かせ、忍耐強く、沈黙を守るのですよ。



賢い童子たちよ、ありがとう。3つの門があるな。門には「ここには知恵と労働、芸術がある」と書いてある。この門をくぐろう。
タミーノが門を通ろうとすると、どこからともなく「さがれ」と言う声が聞こえてくる。3つの門すべて通ることができなかった。弁者が現れる。
弁者
大胆なよそ者よ、どこに行く?何を求めているのか?



ここには、悪人がいるのでしょう?パミーナを救いにきました。娘を失った母に頼まれたのです。
弁者
勘違いしている。女に騙されているのだ。だが、沈黙を守らねばならない。今はこれ以上言えない。



パミーナは生きているのですか?
弁者
生きている。
弁者は去る。



パミーナは生きている!神々よ、あなたを称える音をならしましょう。
(魔法の笛を鳴らす)なんという不思議な笛の音だ。動物も喜ぶでしょう。ここには、パミーナがいない。彼女は大丈夫だろうか?
「なんという不思議な笛の音」Wie stark ist nicht dein Zauberton
(笛の音を鳴らす)返事がない。(もう一度鳴らす…パパゲーノが笛の音色で返事)パパゲーノがパミーナに会えたんだ!!
タミーノは、ふたりを探してその場を去る。入れ替わりに、パパゲーノとパミーナ。
パミーナとパパゲーノ
急ぎましょう。タミーノに早く会わないと、私たちは捕まってしまう。
「二重唱」Schnelle Füsse, rascher Muth



(タミーノの笛の音色…パパゲーノが笛で返事)タミーノの笛の音色だ!もうすぐ会えるぞ。
モノスタトスが奴隷たちを引き連れて、パミーナとパパゲーノを捕まえようとする。
モノスタトス
逃がさないぞ。鎖でつないでやる。奴隷たちよ、みんなで捕まえるんだ。



3人の侍女にもらった、この「銀の鈴」を使おう!!
鈴の音を鳴らすと、モノスタトスと奴隷たちが陽気に踊り出して、どこかに行ってしまう。奴隷たちがいなくなる。
パミーナとパパゲーノ
アハハ!どんな立派な男でも、銀の鈴を見つけることができれば、敵は簡単にいなくなる。そして、最高の平和の中で、敵を持たずに生きていけるだろう。友情の調和が不満を和らげてくれる。このような共感がなければ、この世に幸せはないのだ。
ふたりがホッとしていると、突然、勇ましい音楽が流れる。



大変。ザラストロが来るわ。



恐ろしい。このまま逃げてしまいたい。
従者の行列。その後に続いて、6頭のライオンに引かれた車に乗ったザラストロが登場する。
人々
ザラストロ万歳。私たちが喜びをもって身をゆだねるのはこの方なのです。彼がいつまでも賢者として人生を楽しまれますように。
「合唱・ザラストロ万歳」Es lebe Sarastro!
ザラストロの前に出て、パミーナはひざまずく。後ろでパパゲーノは小さくなっている。



私は罪を犯しました。あなたの力から逃れようとしたのです。でも私に罪はありません。黒い男が私に言い寄るので仕方なくです。



立つのです。娘よ。お前はある男を愛している。愛を強要しないが、お前を自由にすることはできない。
モノスタトスが、タミーノを引き連れてやって来た。
モノスタトス
ザラストロ様。忍び込んでいた不届き者を捕まえました。



あなたがタミーノね!なんて素敵なの!



パミーナ!やっと会うことができた!
タミーノとパミーナはすぐに恋に落ちて、抱き合う。モノスタトスは、ふたりの姿を見て怒る。



モノスタトス。お前に褒美を与えよう。連れて行け。足の裏を77回叩くのだ。これも私のつとめだ。さて、ふたりを私たちの試練の神殿へ案内するのだ。
タミーノとパパゲーノは、頭巾を被らされる。ザラストロを称える従者たちの声が響く。
オペラ「魔笛」第2幕のあらすじ
第1場
行進曲「Marsch der Priester」 神官たちの行進
森とピラミッド
森の中に、大きなピラミッドがある。ザラストロと神官たちが集まっている。



神々は、パミーナとタミーノが結びつくのを決めれたのだ。私がパミーナを高慢な母から引き離した時と同じように、神々が決めたことだ。
タミーノは試練を乗り越え、私たちの叡智の神殿を守り、徳に報い、悪徳に罰を与える人間になるのだ。
弁者
タミーノは試練を乗り越えられるでしょうか。彼は王子です。無理ではないですか。



王子であっても、人間なのだ。人間なのだから試練に乗り越えられる。たとえタミーノが試練を乗り越えられなくても、私たちより早く神々のもとに行くだけだ。
イシスとオシリスの神よ。新しく結ばれる若いふたりを見守りたまえ。
「イシスとオシリスの神よ」O Isis und Osiris
第2場
神殿の庭
夜、落雷が遠くに聞こえる。崩れ落ちたピラミッドが見える。頭巾を被った、タミーノとパパゲーノが連れられてくる。頭巾を外して、神官たちは去って行く。



パパゲーノ、そばにいるのか?



もちろんいますよ。真っ暗で雷が鳴って、怖いんだ!
明かりを持って、弁者と神官がふたりのもとに来る。
弁者
若者よ。命の危険があるが、試練を乗り越えるつもりはあるのか?今なら引き返すことができるぞ。



パミーナを得られるなら、どんな試練も乗り越えられる。命の危険があっても!
弁者
お供の者よ、お前も試練に挑戦するのだな。パパゲーナという可愛い女を用意してある。



やらないよ!!命が大切さ。…でも、パパゲーナか。挑戦してみるか。
弁者
二人には、沈黙の試練に挑戦してもらう。
(弁者ふたりで)女のたくらみから身を守れ。賢い者でも騙されることがある。最後には見捨てられ、死と絶望が待っている。
「二重唱」Bewahret euch vor Weibertücken
弁者と神官が去り、タミーノとパパゲーノは残される。どこからともなく、3人の侍女が現れる。
3人の侍女
どうしたの?タミーノ、パパゲーノ。こんな恐ろしい所にいて、危ないわ。早く逃げましょう。あの男たちの戯言を信じないで。
「五重唱」Wie? Wie? Wie?



俺たち、危ないのか!!



しゃべるな!パパゲーノ。沈黙だ。
タミーノとパパゲーノは沈黙を守る。大きな落雷が鳴り、3人の侍女は去って行く。入れ替わりに、弁者と神官が来る。
弁者
沈黙の試練を乗り越えた。毅然と男らしく、誘惑に打ち勝ったのだ。それでは、次の試練に向かおう。
タミーノとパパゲーノに頭巾を被せて、別の場所に移動する。



なんで可愛い女の子と出会うために、こんな酷い目にあわなくちゃいけないんだ。
第3場
夜の綺麗な庭
月が光る、綺麗な花が咲いている庭。東屋で、パミーナが眠っている。
モノスタトス
どんな悪いことをしたってんだ。足の裏を叩くなんて酷いじゃないか。可愛い娘だ。ちょっとくらいキスしていいだろう。
誰でも恋をすれば嬉しいものだ。いつまでも女なしで過ごすなんて地獄だよ。白い女ってきれいだな。彼女にキスしたい。お月様、隠れておくれ。それが無理なら目を閉じて。
「誰でも恋をすれば嬉しいものだ」Alles fühlt der Liebe Freuden
モノスタトスが足を忍ばせて、眠っているパミーナに近づく。落雷と共に、夜の女王が現れる。



さがれ!!



(目を覚ます)お母様!
モノスタトスは、物陰に隠れて立ち聞きする。



私がここに送った男はどうなった?このままでは親子の縁が切れてしまう。



彼は、神に仕える人に導かれることになりました。縁が切れるなんて、悲しい。お母様が守って下さるなら、どこにでも行きます。



私には、お前を守る力はもうないのよ。お父様が亡くなってから、私の力はなくなってしまった。
亡くなったお前の父は「個人の宝は私や娘であるお前に残す」と言ったわ。だけど、一番大切な「太陽の力」はザラストロに渡したの。
お前の父は「女は男に導かれるのが正しい」と言い残したのよ。



ザラストロは、高潔な人ですが。



「短剣」を手に取りなさい。お前はザラストロを殺し「太陽の力」を奪い取るのだ。
地獄の復讐に燃える。死と絶望が我が身を焼き尽くす。お前がザラストロを殺さないなら、もう親子ではない。永遠に縁を切ってやる!!
「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen
夜の女王は去り、夜の庭に残されたパミーナ。パミーナは、夜の女王が残した、短剣を手にして困っている。



殺すなんて。
物陰から出てくる、モノスタトス。
モノスタトス
聞いたぞ。「太陽の力」だと。あんな綺麗な子がザラストロを殺すのか。面白いことになるぞ。(パミーナの前に姿を見せる)
俺がやってもいいぞ。(パミーナの手から、短剣を奪い取る。)



聞いていたのね!!
モノスタトス
お前もお前の母さんも助かるだろう。だが、条件がある。俺を好きになれ。



嫌よ!!私の心は、タミーノのもの。
モノスタトス
それなら、お前を殺してやる!!
モノスタトスがパミーナを短剣で刺そうとしたところに、ザラストロが現れる。



モノスタトス。お前を罰したいが、その短剣がここにあるのは、パミーナの母親が悪女だからだ。罪は、夜の女王にある。それゆえに、お前を罰しない。去れ!!
モノスタトス
娘がダメなら、母親の方に行ってやる!!
モノスタトスは走り去る。



母を許して下さい。私がいなくなってから、辛い思いをしているのです。



分かっている。復讐心ではなく、愛の心が必要だ。神々は、若者に不屈の精神と勇気を与えるだろう。そして、お前は若者と結ばれるのだ。
この神聖な神殿では、復讐心を持つ者などいない。たとえ道を踏み外した者がいても、愛で導くのだ。互いに愛し合い、敵を許そう。
「この聖なる殿堂では」In diesen heil’gen Hallen
第4場
広間
弁者と神官によって、タミーノとパパゲーノが頭巾を被らずに、広間に連れられてくる。
弁者
沈黙を守るのだ。パパゲーノ。沈黙を破れば、雷が鳴るぞ。ラッパの合図が鳴ったら、この広間から出るのだ。
その場に残された、タミーノとパパゲーノ。



ああ!森の中にいれば鳥の声が聞こえるのに。



シッ!!



ひとりでしゃべるならいいだろ。のどが渇いた!ここの人たちは水一滴もくれないんだ。
ふたりの前に、老婆が水を持ってやって来る。お調子者のパパゲーノは、気安く声をかけてからかう。



お婆さん、水をくれるのか?もてなしてくれるんだな。ここに座れよ。年はいくつなの?恋人は?
老婆
年は、18だよ。10歳上の恋人なんだ。恋人の名前は、パパゲーノっていうの。ここにいるわ。



なんだって。じゃあ、あんたの名前は…
老婆が口を開こうとしたときに、雷が鳴る。老婆は去って行く。



もう懲りた。何もしゃべらない…
広間の天井から、3人の童子が食事がたくさん用意されたテーブルと共に、降りてくる。
3人の童子
タミーノ、パパゲーノ。またお会いしましたね。ザラストロから「魔法の笛」と「銀の鈴」をお返しするようにと言われてきました。



タミーノ、食べないのかい?すごく美味しいぞ。お酒もうまい!
3人の童子は去り、タミーノは「魔法の笛」を吹き始める。笛の音色を聞いて、パミーナが広間にやって来る。



ここにいらしたのね!音色が聞こえて、導かれてきたのよ。神の導きね。会えたのに、なぜタミーノは悲しそうなの?なぜ何も言わないの?



(ため息)ああ!!(去ってくれと合図する)



パパゲーノ、教えて。タミーノはどうしたの?



フムフム。(食べ物を口に頬張って、去ってくれと合図)



私にはわかる。愛が消えてしまったのね。愛の喜びは戻ってこない。タミーノ、見て下さい。この涙はあなたのために流れています。
「私にはわかる、消え去ったのね」Ach ich fühls, es ist verschwunden
パミーナは去って行き、食事中のパパゲーノと無言で悲しむタミーノ。



タミーノ、俺だってしゃべらないことができるんだ。
「広場を去るように知らせる」ラッパの合図が鳴る。



合図だな。俺はもう少ししてから行くよ。ご馳走があるし。



(ちゃんとついてくるんだぞ、と合図)
タミーノが広間から出ていき、パパゲーノがのんびりしていると、突然出てきたライオンに驚いて叫び声を上げる。戻って来たタミーノが「魔法の笛」でライオンを退治。タミーノとパパゲーノが広間から出て行く。
第5場
ピラミッドの広間
弁者と神官たちが集まって、儀式をしている。ザラストロが登場。タミーノが続いて入る。



王子よ。これまでの試練で、男らしく沈黙を守った。これから先も、危険な道を行かねばならない。最後に、パミーナに挨拶をしなさい。
頭巾を被った、パミーナが連れられてくる。



愛する人よ、もうお会いできないのですか?



再会を喜びあうことはできます。



私を信じて下さい。あなたと同じ思いです。この試練を乗り越えて、あなたに会います。



あなたを心配するあまり、落ち着くことができません。再び心安らかに、会えますように。



今、彼は行かなければならない。
タミーノとパミーナは、それぞれ別の場所に向かう。
パパゲーノがタミーノを見失って、迷子になっている。



タミーノ、どこにいるんだ。置いていかないで!俺はどこにいるんだ。ああ、こんな所に来るんじゃなかった。
さまよっていると、どこからともなく雷の音と「去れ」と言う声が響く。半泣きのパパゲーノの前に、弁者が現れる。
弁者
お前は、永遠に暗い土地でさまようはめになるところだった。神々が許してくれたのだ。



もういいんだよ。俺みたいなヤツは、世の中にたくさんいるさ。今はワインが飲みたい。
弁者
よかろう。ワインだ。



うまい、幸せだ。3人の侍女にもらった「銀の鈴」を鳴らそう。俺が欲しいのは、ただひとつ恋人か女房だ。優しい人がいれば、それだけで幸せさ。でも、可愛い子はたくさんいるのに、誰も愛してくれない。
「娘か可愛い女房が一人」Ein Mädchen oder Weibchen wünscht Papageno sich!
弁者がいなくなり、パパゲーノの前に、老婆が杖をついてやってくる。
老婆
さあ、二人で暮らすと誓うんだ。手を出すんだよ。何をぐすぐすしているんだい。早く決めないと、一生ここにいることになるよ!



一生ここに閉じ込められるって?!ああ、約束するよ。(可愛い子を見つけるまでな。)
パパゲーノが老婆の手を取ると、老婆が、パパゲーノと同じ衣装の若い娘・パパゲーナに変身する。パパゲーノが驚いていると、雷が鳴り、弁者がパパゲーナを連れて行く。
弁者
パパゲーナ、さがるのだ。まだ早い。パパゲーノ。引き下がらないなら、罰を与えるぞ。



引き下がるくらいなら、罰の方がいいや。…うわああ。
パパゲーノは、奈落に落ちていく。
第6場
小さな庭
3人の童子
まもなく朝を告げるための太陽が、黄金の道を照らすだろう。暗い迷信は消え去り、すぐに賢者が勝利する。
大変だ。パミーナが悲しみのあまり正気を失っている。
パミーナは、母・夜の女王からもらった短剣を手に、正気を失っている。



(短剣を見て)あなたが私の花婿なのね。私の悲しみを終わらせるのよ。愛に苦しむより死んだ方がいいの。
3人の童子
おやめなさい。タミーノが悲しみますよ。彼はあなたを愛しているのですから。



それなら、なぜタミーノは私と話をしてくれないの?
3人の童子
理由は言えません。さあ、いらっしゃい。タミーノのところに行くのです。
第7場
二つの大きな山
二つの大きな山。一つの山は火が噴いていて、もう一つの山には滝が見える。裸足のタミーノ。試練への挑戦のために扉の前に立っている。パミーナが「タミーノ!」と呼ぶ声が聞こえてくる。



彼女と話していいですか?(許可が出る)手を取り、一緒に神殿に行こう。夜と死を恐れない女性こそ、我々の世界に相応しい。



一緒に行きます。どんなところも、あなたと一緒に。母が渡した「魔法の笛」を吹いてください。その笛は、亡くなった父のものです。その笛の音色が、私たちを守ってくれるでしょう。
タミーノとパミーナは、二人で試練に挑戦する。火をくぐり、水の中を通る。(火の試練・水の試練)すべての試練が終わり、タミーノとパミーナは光に包まれる。
第8場
小さな庭
パパゲーノはひとり、うなだれている。



パパゲーナ、彼女に会いたい。パパゲーナ!ああ、返事がない。呼んでも来てくれない。絶望だ。もう死んでしまおう。俺が首をつる前に、誰か止めてくれ。数を数えよう、ひとつ、ふたつ、みっつ。…誰も止めないんだ。もういい!
「パパゲーナ」Papagena! Papagena!
3人の童子
やめなさい。パパゲーノ。「銀の鈴」を鳴らすのです。そうしたら、あの子が出てくるよ。



そうだな!俺がバカだった。「銀の鈴」があったんだ。鳴らそう。
パパゲーノの前に、若い娘の姿のパパゲーナが姿を見せる。ふたりは愛を歌い合い、幸せになる。
パパゲーノとパパゲーナ
パ、パ、パ。何よりの喜びだ。神様の配慮により、愛する子供たちが与えられる。可愛い子供たちを。小さなパパゲーノ。小さなパパゲーナ。
最高の感情だ。幸せな両親の祝福を受けて、その周りで小さな子供たちが遊ぶ。親も同じ喜びを感じている。その似ている姿を喜ぶのだ。これ以上の幸せがあるだろうか?
「二重唱・パ、パ、パ」Pa – Pa – Pa
第9場
夜の世界
暗闇の中でモノスタトスが手引きして、夜の女王と3人の侍女が神殿に入り込もうとしている。
モノスタトス
神殿はこちらです。そっと忍び込みますよ。約束はお忘れなく。



モノスタトス。約束は守るわ。娘のパミーナはあなたのものよ。
3人の侍女
夜の女王様、復讐が果たされますように。
第10場
太陽の世界
雷が鳴り、暗い舞台が明るい光に包まれる。ザラストロを中心に、タミーノとパミーナ、弁者、神官などがそろっている。



私たちの力は破れた。永遠の夜に沈むだろう。
夜の女王と3人の侍女、モノスタトスが消えていく。



太陽は夜を追い払い、力を打ち砕いたのだ。
人々(合唱)
清められた者たちよ、万歳。オシリスの神よ、イシスの神よ、感謝します。美と叡智が永遠の冠として輝くだろう。
「合唱」Heil sey euch Geweihten!