【カルメン】簡単なあらすじと相関図

「カルメン」は、偉人の大絶賛率が高いオペラです。ニーチェ、ドビュッシー、サン=サーンス、チャイコフスキーに絶賛されています。その中でもチャイコフスキーが言った「カルメンは地球上で、最も有名なオペラになるだろう。」まさに現在その通りになっていますね。

カルメンの音楽はテレビで使われることが多く、どこかで聴いたことのあるメロディがオペラ中に登場します。初心者でも楽しめるオペラです。

目次

オペラ「カルメン」の相関図

カルメンの人物相関図
オペラ「カルメン」の相関図

オペラ「カルメン」の登場人物

カルメンジプシー女メゾソプラノ
ドン・ホセ衛兵の伍長テノール
エスカミーリョ闘牛士バリトン
ミカエラホセの幼なじみソプラノ
スニガ衛兵隊長・中尉テノール
フラスキータジプシー女ソプラノ
メルセデスジプシー女ソプラノ
ダンカイロ密輸業者バリトン
レメンダード密輸業者テノール

オペラ「カルメン」の基本情報

  • 題名 Carmen カルメン
  • 作曲 ジョルジュ・ビゼー
  • 初演 1875年3月3日 パリ オペラ・コミック座
  • 原作 プロスペル・メリメ「カルメン」
  • 台本 リュドヴィク・アレヴィ、アンリ・メイヤック
  • 言語 フランス語
  • 上演時間 2時間40分(第1幕55分 第2幕45分 第3幕40分 第4幕20分)

オペラ「カルメン」の簡単なあらすじ

ジプシーの女カルメンは、気まぐれに伍長ドン・ホセに花を投げつける。女同士の取っ組み合いの中で、ホセはカルメンを捕まえる。カルメンはホセを誘惑して逃げ出し、ホセはカルメンの代わりに牢屋に入ることになる。

1ヵ月後、カルメンは酒場でホセが牢獄から戻るのを待っていた。そこに立ち寄ったトレアドールのエスカミーリョは、カルメンに恋をしてしまう。

カルメン

あなたが私を愛するのは自由よ。でも、私があなたを愛するとは思わないで。

エスカミーリョ

ああ!じゃあ、待ってみようか。希望を捨てないで。

ホセがカルメンに会いに来る。ホセの情熱的な愛の歌。ホセはスニガとけんかをする。ホセは軍を去り、カルメンと共に密輸入に加わる。

数ヵ月後、密輸組織と真夜中の岩山。二人はすでに仲が悪い。エスカミーリョがカルメンを訪ねてくる。ホセとエスカミーリョは決闘になる。母の病気を知ったホセは家に戻る。

カルメンとエスカミーリョは互いに愛し合っていた。ホセが現れ、カルメンを殺す。

ドン・ホセ

誰か僕を逮捕して!愛する女性を殺した!

オペラ「カルメン」の解説

カルメン 地図

セビリャは、スペインの大航海時代(15世紀半ば~17世紀半ば)の拠点となった町です。8世紀にイスラム勢力に支配されたことがあり、ヨーロッパ文化とイスラム文化が混じり合う、独特の町。

カルメンの時代設定は、19世紀初めのセビリャ。大航海時代に栄華を誇った町も、今は昔といったところ。

ホセの出身地は、ナバラ王国

ホセの出身地は、ナバラ王国だった地域。オペラの中で、ホセは「ナバラの生まれ」であることをよく言います。

ドン・ホセ

僕はナバラ生まれだ。ナバラの人間は嘘をつかない。

  • 公式に、ナバラ王国がスペイン王国に併合されたのは、1833年
  • メリメの小説「カルメン」の発表は、1845年
  • オペラ「カルメン」の初演年は、1875年

オペラや小説の時点では、ナバラ王国の併合はつい最近の出来事でした。国がなくなったとしてもドン・ホセは「自分は、ナバラの人間だ」という思いが強かったのでしょう。

オペラ「カルメン」第1幕のあらすじ

前奏曲

セビリャの煙草工場前の広場

衛兵たちがたむろする中、ホセの幼なじみ、ミカエラが訪ねてくる。

ミカエラ

すみません。ドン・ホセはいますか?

兵士
衛兵の交替で、ホセはもうすぐ来るはず。俺たちと一緒に待てば?

ミカエラ

出直します。

ミカエラが去る。

子供たち
交替の衛兵たちと一緒に行進だ。吹けよ、トランペット。小さな兵士が行進するぞ。

「子供たちの合唱」Avec la garde montante

伍長のドン・ホセがやってくる。

兵士
お前を訪ねて、女の子がやってきたぞ。

ドン・ホセ

女の子…ミカエラだな。

中尉がやってきて、ホセと立ち話を始める。

中尉
おい、ホセ。私は連隊に着任したばかりで、このあたりのことは知らない。この大きな建物は何だ?

ドン・ホセ

煙草工場です。中には、葉巻を巻く女工たちが大勢います。昼になると、彼女たちはこの広場に出てきます。女工たちを見るために男が集まりますよ。ガラが悪い女ばかりなので、僕は興味ないですけど。

中尉
ああ、君にはさきほど訪ねてきた女の子がいるからな。彼女は、ナバラの衣装を着ていたそうだな。君は、ナバラの出身か?

ドン・ホセ

他の兵士に聞いたのですね。僕はナバラ出身です。けんか騒ぎを村で起こして、ナバラから離れて軍に入りました。父は早くに死に、母は孤児の女の子を引き取り育てたのです。それが先ほどの女の子です。彼女は、うちの母親から離れようとしないし、もうすぐ17になりますので…

中尉
それなら、君は他の女を見ることはできないな。

工場の昼休みの時間になった。くわえ煙草をして女工たちが工場から出てくる。兵士や男たちが、その様子を見ている。

若い男たち
鐘が鳴ったぞ。女工たちが出てくる!カルメンがいないぞ。来た!来た!カルメンだ!!カルメン、いつになったら、俺たちを好きになってくれるのか?

「合唱・鐘が鳴った」La cloche a sonné

女工たちの中で目立つ女、カルメン。

カルメン

いつになったら、好きになるか、ですって?そんなのわかりゃしないわ。恋は野の鳥なのよ。飼い慣らすことなんてできないわ。

「ハバネラ」(「恋は野の鳥」)L’amour est un oiseau rebelle

歌詞と対訳

「ハバネラ」(「恋は野の鳥」)L’amour est un oiseau rebelle|カルメン

私に惚れられた男は、ご用心!と歌う。

若い男たち
カルメン、お前を見に来たよ。優しくしてくれよ!

「合唱」Carmen! sur tes pas, nous nous pressons tous

たくさんの男たちがカルメンに色目を使う中、気のないそぶりのドン・ホセに気がついたカルメン。

カルメン

あんた、何してんのよ?

ドン・ホセ

針金で鎖を作っているのさ。

カルメン

あはは!それで私の魂を突き刺すつもりなの?

カルメンは、彼に向かって花を投げつける。鼻歌を歌いながら、工場に入っていく。

ドン・ホセ

なんだ。あの女。僕が彼女に目もくれないから、あんなことをしたんだな。猫と女は呼んでも来ないっていうもんな。

うまく投げたな。眉間に当たったぞ。(花を拾う)

キツイ香りの花だ。魔女がいるなら、ああいう女だろう。

ホセの幼なじみ、ミカエラが再び、訪問。

ミカエラ

村から来たの。お母さんの使いで。

ドン・ホセ

ミカエラ!聞かせてくれ、母の話を。

「二重唱」Parle-moi de ma mère

ミカエラ

あなたのお母さんからの手紙よ。それとお母さんからのキスよ。(ホセにキス)

ドン・ホセ

母さんに会いたいな。故郷に帰りたい。

(煙草工場をにらんで)危うく、悪魔に引っかかるところだった。母さんが守ってくれたんだ。

僕からも母さんにキスを返してくれ。(ミカエラにキス)さあ、手紙を読もうかな。

ミカエラ

待って。その手紙は、私がいなくなってから読んでちょうだい。手紙の返事は、あとで聞きに来るわ。

ミカエラは去って行く。ホセは、母からの手紙を読む。

ドン・ホセ

(母からの手紙)「ミカエラはいい子だよ。お前がよければ、あの子を嫁にもらってくれ。」

そうだな。母さんの言う通りにしよう。ミカエラを嫁にするんだ。ジプシー女(カルメン)なんか目じゃないさ。

ホセが花を捨てようとしたとき、煙草工場内で、騒動が起こる。女工たちが広場に出てきて、兵士たちに仲裁を求めている。「カルメンと女工が、大げんかをしている」と言う。

中尉
ホセ、煙草工場に行って様子を見てこい。

ホセが様子を見に行って、戻ってくる。

ドン・ホセ

カルメンが、けんか相手の女工の顔に十字の傷を負わせていました。相手の傷は浅いので、軽症のようですが。すべて事実です。ナバラの人間は嘘をつかない!!

中尉
カルメン、何か言い分はあるか?

カルメン

(返事をせずに、歌い出す)切られても、焼かれても、何も言わないよ。神様だって怖くないさ。

「切られようと焼かれようと」Coupe-moi, brûle-moi

中尉
生意気な。ホセ、この女を縄で縛れ。牢屋に入れてやる。牢屋の中で歌えばいいさ。私は命令書を書いてくる。ホセは女を連行しろ。

中尉は立ち去る。ホセとカルメンがふたりきりになる。ホセはカルメンを見ないようにし、カルメンはホセをじっと見つめる。

カルメン

逃がしてよ。私はあんたの同郷よ。ジプシーに誘拐されてここにいるの。同じ故郷の女に優しくしないの?

ドン・ホセ

嘘をつくな。君はジプシーそのものだ。

カルメン

ばれたか。でも、あんたは私を逃がすわ。だって、私を好きなんだもの。私が投げた花を持っているでしょ。

ドン・ホセ

何を言っているんだ。もう話しかけるな。

牢入りを逃れるために、カルメンは、ホセを誘惑し始める。

カルメン

セビリャの城壁近くに、酒場があるわ。そこで踊って飲んで騒ぐのよ。でも、ひとりじゃつまらない。新しい恋人が欲しいわ。

「セギディーリャ」(「セビリャの城壁の近くに」)Près des remparts de Séville

歌詞と対訳

「セギディーリャ」(「セビリャの城壁の近くに」)Près des remparts de Séville|カルメン

カルメンは自分を縛る縄をほどかせるために、ホセを誘惑。

カルメン

私は考えているの。私を愛してくれるひとのことを。彼が愛してくれるなら、私も愛するかも!

ホセは誘惑に負け、カルメンを縛った縄をゆるめる。

ドン・ホセ

カルメン。まるで酔ったみたいな気がするよ。もし僕がいいなりになったら、その約束を守るのか?僕が愛したら、愛してくれるのか?

「二重唱」Carmen, je suis comme un homme ivre

カルメン

(ホセにささやくように、歌い出すセビリャの城壁近くに、酒場があるわ。

中尉が命令書を持って戻ってきた。カルメンは縛られていふりをしている。カルメンは兵士たちに連行される。

中尉
命令書だ。しっかりと見張れ。

カルメン

(ホセに小声で)あんたを突き飛ばして逃げるわ。うまく倒れて。

ホセを突き飛ばし、カルメンは逃げ去る。

間奏曲「アルカラの竜騎兵」

舞台上で表現されないが、ホセは、カルメンを逃亡させた罪で、牢に入ることになってしまう。

オペラ「カルメン」第2幕のあらすじ

セビリャ、町外れの酒場

酒場では夕食が終わり、テーブルがちらかっている。兵士たちとジプシー女たちが楽しそうにしている。その奥では、ジプシーの男たちがギターを演奏。

カルメン

ギターが鳴れば、ジプシーの女が立ち上がる。音楽に合わせ、踊るわ。ジプシーの男が力強く演奏すれば、女たちは激しく踊る!

「ジプシーの歌・響きも鋭く」Les tringles des sistres tintaient

カルメンと女たちは、激しく踊る。カルメンを見ていた中尉に、酒場の主人が声をかける。

酒場の主人
中尉、そろそろお帰りになっては?すでに閉店時間ですから。なぜか、うちの酒場が目をつけられているようなんですけど・・・

中尉
そうだ。この酒場は、密輸のアジトとにらんでいる。まだ、軍に戻るには早いな。女たちを芝居に連れて行こう。カルメン、行かないか?

カルメン

行かないわ。

中尉
怒っているのか?一ヶ月前に、お前を牢屋に入れようとしたから。お前を逃がした伍長は、格下げになって、軍の懲罰房に入ったよ。

カルメン

格下げになったって?

中尉
か弱い女が、男を突き飛ばして逃げるなんて、おかしいからな。一ヶ月牢に入り、今日出てきたところさ。

カルメン

そう。よかったわ。

酒場が急に賑やかになる。闘牛士のエスカミーリョが、ファンたちを引き連れて入ってきた。

人々
闘牛士万歳、エスカミーリョ万歳。

中尉
闘牛士か。こっちの席に呼ぼう!!君たちの勇気に乾杯だ!

エスカミーリョ

こちらこそ、お招きありがとう。兵士と闘牛士は同じようなもの。戦いに身を捧げているから。興奮の闘牛場の中で、牛と戦うんだ。

「闘牛士の歌」Votre toast, je peux vous le rendre(Toreador)

歌詞と対訳

「闘牛士の歌」Toreadorカルメン

闘牛場の熱気と、闘牛士が牛と戦う様子を歌います。

カルメンは、エスカミーリョのグラスに酒を注ぐ。

エスカミーリョ

名前は何だい?今度闘牛場で牛を倒すときに、君の名前を叫ぶよ。

カルメン

私の名前は、カルメンよ。私を愛するのはどうぞご自由に。でも、私に愛されることは期待しないで。

エスカミーリョ

ああ!では、待つとしよう。希望を捨てずに。

中尉
カルメン。俺と一緒に来ないんだな。まあいいさ。またここに戻ってくるよ。闘牛士さん。あんたの飲みの仲間に加えてくれ。

エスカミーリョ

光栄ですよ。

エスカミーリョは、兵士たち、闘牛士の仲間やファンたちを引き連れて酒場を出て行く。

酒場には客がいなくなった。カルメンとジプシーの男女(男ふたり、女ふたり)が話をしている。

ジプシーの男
うまい儲け話がある。女の仲間が必要だ。もちろん、女たちは入ってくれるよな。

「五重唱」Nous avons en tête une affaire

カルメン

私は無理よ。恋をしているから。

ジプシーたちが話し合っていると、酒場の外から、ホセの声が聞こえてくる。

ドン・ホセ

(ホセの声)アルカラの竜騎兵だ。名誉のために戦うぞ。

ジプシーたちは、酒場からホセを見る。女たちは「彼はイケメンね」と言っている。

ジプシーの男
あの男も、俺たちの仲間に入れるんだ。

カルメン

そうできたらいいけど、無理よ。彼は真面目だから。

ジプシーの男
男に惚れたからという理由で、お前が密輸の仲間にならないなんてありえないよ。親分は納得しないだろう。

ジプシーの男たちは酒場を出ていく。それを追いかけるジプシー女たち。カルメンが一人で酒場にいると、ホセの声が聞こえてくる。

ドン・ホセ

(ホセの声)アルカラの竜騎兵だ。愛しい女のもとに行くぞ。

酒場にホセが訪ねてきた。カルメンは、喜んで迎える。

カルメン

やっと来てくれたのね!私が脱走できるように、やすりと金貨を送ったのに。やすりで牢を壊せるし、金貨で服を買って、軍服から平服に着替えられたのに。

ドン・ホセ

僕は軍人だ。恥ずかしい真似は出来ない。やすりは使わずに大切に思い出として取っておく。この金貨は持ってきたよ。

カルメンは、金貨でご馳走を準備させる。

カルメン

私のことを恨みに思っているんじゃないの?牢に入り、伍長の位も剥奪されて。

ドン・ホセ

そんなこと、どうでもいいんだ。君を愛しているから。

カルメン

ジプシーは恩を忘れないのよ。さあ、たくさん食べてちょうだい。そういえば、あなたの中尉が酒場に来たのよ。踊ってあげたわ。中尉が、私を好きだって口説いてくるの。

ドン・ホセ

カルメン、何だって!!

カルメン

やきもちね。あなたのために踊りを見せてあげるわ。

カルメンが踊り始めると、遠くで軍のラッパの音が響いてくる。

ドン・ホセ

ラッパの音だ。軍に戻らないと。

ホセは、カルメンの腕を取って踊りをやめさせる。軍に帰ろうとすると、カルメンは激怒。

カルメン

そんなに帰りたいなら、さっさと帰れば。あんたの愛なんて、信じられないわ。

ドン・ホセ

ひどいな。信じてくれ。

お前が投げたこの花を、軍の懲罰房に入っている間、ずっと持っていたんだ。枯れても、甘い花の香りが漂っていた。暗闇の中で、花の香りを嗅いでいたんだ。

恨んだり呪ってやろうと思った。その後、自分を責めたさ。残った望みはひとつ。お前に会いたい。カルメン、愛している!!

「花の歌・お前が投げたこの花は」La Fleur que tu m’avais jétée

ホセは、カルメンの投げた花を取り出して、愛を伝える。

歌詞と対訳

「お前が投げたこの花は」La Fleur que tu m’avais jétée|カルメン

ホセの思い詰めた、カルメンへの愛。

カルメン

いいえ、好きじゃないのよ。もし私が好きなら、私から離れないわ。私についてくるべきなのよ。

ドン・ホセ

いや、軍には戻る。永遠にさよならだ。

カルメンは説得するが、ホセは、軍に帰ろうとドアに向かう。カルメンに気がある中尉が酒場に戻って来た。

中尉
カルメン!戻ってきたぞ。ホセ!何でお前がいるんだ。出て行け!

ドン・ホセ

出て行かない!酷い目にあわせてやる!

ホセは、カルメンを巡り中尉とトラブルになってしまい、決闘寸前に。ジプシーの男たちが出てきて、中尉を縛り上げる。

カルメン

中尉さん、しばらく縄で縛らせてもらうわ。ホセ、これであなたも仲間入りね。

ドン・ホセ

仕方がないな。

上官に刃向かい、どうしようもなくなり、軍から離れて、カルメンと密輸団の仲間に入る。

間奏曲

オペラ「カルメン」第3幕のあらすじ

セビリャ近郊、山の中にある、密輸団のあじと

真夜中の岩山。ジプシーの男たちが荷物を抱えて山を登っている。

ジプシーたち
この商売は悪くないが、強い心が必要だ。上も下も危険がある。

「六重唱」Notre métier est bon

ジプシーの男
1時間ほどここで休め。お前たちはここにいろ。俺が道が安全なのか見てくる。密輸品が問題なく運べるようにな。

ジプシーたちが休憩を取っている。

ドン・ホセ

僕が怒鳴ったりして悪かった。仲直りしよう。もう愛していないのか?

カルメン

もう前ほど愛していないわ。私に指図して、束縛するのをやめて。私は自由でいたいの。

ドン・ホセ

母さんは、きっと僕がまだ善人だと思っている。

カルメン

帰ればいいじゃない。止めないわよ。この仕事は向いていない。あんたはすぐに命を落とすわ。

ドン・ホセ

そういうお前だって命を落とすだろう。そんなに別れ話をするのなら

カルメン

私を殺すっていうのね!!(ホセは何も言わない)いいわ。これまでに「カード占い」で何度も出ているのよ。私たちが一緒に死ぬだろうって。

カルメンは、嫉妬深いホセにうんざりしている。ジプシー女ふたりと、カード占いをする。

ジプシー女二人
混ぜて切って。カードよ、未来を教えておくれ。

「三重唱」Mêlons! Coupons!

カルメン

今度は私がやるわ。また「死」のカード。私が先に死に、ホセが死ぬのね。

「カードの歌」Carreau, pique…la mort

道を見てきたジプシーの男が戻ってくる。

カルメン

どうだったの?

ジプシー男
たぶん行けるだろう。ホセはここに残って荷物を見ていてくれ。道は大丈夫だが、三人の税官吏がいたんだ。

カルメン

カルメンとジプシー女二人
税官吏なら任せておいて。ほかの男と同じように女と遊ぶのが好きだろう。先に私たちを行かせて。

「三重唱」Quant au douanier, c’est notre affaire

密輸の荷物を通すために、カルメンを含めたジプシー女たちが役人に色目を使うことになった。ホセは一人残って、岩山にある荷物を見張ることに。


人気のないところに、ホセの幼なじみミカエラが現れる。その横におびえた案内人がいる。

案内人
不気味な所でしょう。ここにいれば、ジプシーたちに会えますよ。それにしても、根性のあるお嬢さんだ。私は村に戻るよ。

ミカエラ

たいしたことじゃないわ。これくらい。

何を恐れることがありましょう。私が愛した男を取り戻してみせるわ。あの性悪女から。

「何を恐れることがありましょう」e dis, que rien ne m’épouvante

あの岩場にいるのは、ホセだわ。

ひとり、ホセを連れ戻す決意をする。発砲音を耳にして、岩陰に隠れて、様子をうかがう。


カルメンに会うため、エスカミーリョが訪ねてきた。ホセがエスカミーリョに向けて銃を撃ったが、外れていた。

ドン・ホセ

おい!お前は誰だ。

エスカミーリョ

まあ、落ち着いて。私はエスカミーリョ。闘牛士だ。カルメンに会いにやってきたんだ。前に会ったときは他に恋人がいると言われたが、そろそろ別れただろうと思って。

「二重唱」Je suis Escamillo

ドン・ホセ

カルメンはただではやれない。ナイフで決闘しろ。

エスカミーリョ

ああ、なるほど。君がカルメンの恋人か。

ホセとエスカミーリョはナイフを構えて戦う。すぐに、エスカミーリョのナイフがホセの心臓を刺せる状態になる。

エスカミーリョ

そのナイフの構えは、ナバラ出身だな。だが、その構え方では、勝てないぞ。

わかっただろう。君の命は私の思うがままだが、私の仕事は牛を刺すこと。人の心臓を刺さない。

ドン・ホセ

遊びじゃないんだ。死ぬまでやる!

戦いが再開される。エスカミーリョが足を滑らせて、ホセに刺されそうになったときに、密輸から戻って来たジプシー男やカルメンたちがホセを止めに入る。

カルメン

やめてホセ!

「やめてホセ」Holà, holà! José!

エスカミーリョ

カルメンに命を救われるとは、嬉しいことだ。皆さんがた、今度セビリャでやる闘牛に招待しよう。

周囲は、ホセがエスカミーリョに飛びかかろうとするのを押さえる。エスカミーリョは悠然と去って行く。


ジプシーの男たちが、岩陰に隠れていた、ホセの幼なじみ・ミカエラを見つける。

ドン・ホセ

ミカエラ!君がなぜここに。

ミカエラ

あなたを迎えにきたのよ。お母さんが泣いているわ。小さな家で祈りながら、あなたの帰りを待っているわ。

カルメン

ホセ、早く帰りなさいよ。あんた、私たちの仕事に向いていないのよ。

ドン・ホセ

嫌だ。帰らないぞ。お前は新しい恋人のもとに行くだろう。絶対に帰らない。

ミカエラ

最後に一言言わせて。お母さんは今日か明日の命なの。息子に一目会いたいと言っているわ。

ドン・ホセ

母さんが!!わかった。喜べよ、カルメン。でも、僕はすぐに戻ってくるぞ。

ホセは、カルメンに未練を残しつつ、帰ることにする。

間奏曲「アラゴネーズ」

オペラ「カルメン」第4幕のあらすじ

セビリャの闘牛場前の広場

闘牛場の入り口が見える広場。闘牛試合がもうすぐ開催される。オレンジや扇の売り子たち、試合を見るために集まった観客で、混雑している。ジプシー女たちと中尉が、立ち話をしている。

ジプシー女
カルメンは、新しい恋人のエスカミーリョの応援にもうすぐ来るはず。そういえば、昔の恋人のホセはどうなったの?

中尉
ホセは、軍逃亡の罪で探されているぞ。母親の村に来たところを逮捕されそうになって、逃げたそうだ。もうすぐ捕まるだろう。

ジプシー女
私がカルメンなら、怖いわ。

ファンファーレが鳴り、闘牛士たちが入場していく。

人々
来たぞ、闘牛士のクアドリーリャだ。広場に出て来たぞ。次は大胆な男チューロだ。彼の勇気に栄光あれ。

「合唱」Les voici! voici la quadrille

入場をみて、群衆は盛り上がっている。エスカミーリョのそばには、美しく着飾ったカルメンがいる。

エスカミーリョ

カルメン、もうすぐ私の仕事ぶりを見て、誇りに思うだろう!

カルメン

エスカミーリョ。私は今までこれほど男を愛したことはなかったわ。

エスカミーリョは、闘牛場の入り口に入っていく。それを見送るカルメン。ジプシー女が声をかける。

ジプシー女
カルメン、ここにいたら危ないわ。ホセがいるらしいのよ。

カルメン

今、あそこにいるホセを見つけた。あんな男にひるまない。私から声を掛けてやるわ。

広場に人がいなくなり、カルメンとホセだけになる。

カルメン

あんたね。

「二重唱」C’est toi!

ドン・ホセ

僕だよ。

カルメン

あんたがいる。命に気をつけろ、と言われたわ。でも、平気よ。逃げる気はない。

ドン・ホセ

脅迫しにきたわけじゃない。もう一度やり直そう。過去を忘れて、どこか遠くの土地で。

僕はお前の命を助けたいし、僕の命を助けたい。一緒に逃げよう。二人の命を救うんだ。

カルメン

もう愛していないのよ!私は自分の心に嘘をつかないの。カルメンとホセの縁は切れたのよ。カルメンは自由に生きて、自由に死ぬの!!!

闘牛場から歓声が響き渡る。カルメンは、去ろうとする。

ドン・ホセ

どこへ行く?あの喝采を浴びる男のもとに行くんだな。行かせない!お前は僕についてくるんだ。あいつが好きなのか?

カルメン

そうよ!!死んでもエスカミーリョを愛しているわ。

ドン・ホセ

あいつの腕に抱かれて、僕を笑うんだな。行かないでくれ。脅迫なんかしたくないんだ。

カルメン

私を刺すか、このまま行かせるか決めてよ。いつまでこうやってないといけないのよ。いい加減決めて。

いらないわ。あんたに昔もらった指輪、あんたに返す!!

ホセからもらった指輪の投げつける。ホセは激高し、カルメンを刺し殺す。

ドン・ホセ

僕を逮捕してくれ!カルメンを殺した!大事な女を!

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