「カルメン」は、偉人の大絶賛率が高いオペラです。ニーチェ、ドビュッシー、サン=サーンス、チャイコフスキーに絶賛されています。その中でもチャイコフスキーが言った「カルメンは地球上で、最も有名なオペラになるだろう。」まさに現在その通りになっていますね。
カルメンの音楽はテレビで使われることが多く、どこかで聴いたことのあるメロディがオペラ中に登場します。初心者でも楽しめるオペラです。
オペラ「カルメン」の相関図

オペラ「カルメン」の登場人物
カルメン | ジプシー女 | メゾソプラノ |
ドン・ホセ | 衛兵の伍長 | テノール |
エスカミーリョ | 闘牛士 | バリトン |
ミカエラ | ホセの幼なじみ | ソプラノ |
スニガ | 衛兵隊長・中尉 | テノール |
フラスキータ | ジプシー女 | ソプラノ |
メルセデス | ジプシー女 | ソプラノ |
ダンカイロ | 密輸業者 | バリトン |
レメンダード | 密輸業者 | テノール |
オペラ「カルメン」の基本情報
- 題名 Carmen カルメン
- 作曲 ジョルジュ・ビゼー
- 初演 1875年3月3日 パリ オペラ・コミック座
- 原作 プロスペル・メリメ「カルメン」
- 台本 リュドヴィク・アレヴィ、アンリ・メイヤック
- 言語 フランス語
- 上演時間 2時間40分(第1幕55分 第2幕45分 第3幕40分 第4幕20分)
オペラ「カルメン」の簡単なあらすじ
ジプシーの女カルメンは、気まぐれに伍長ドン・ホセに花を投げつける。女同士の取っ組み合いの中で、ホセはカルメンを捕まえる。カルメンはホセを誘惑して逃げ出し、ホセはカルメンの代わりに牢屋に入ることになる。
1ヵ月後、カルメンは酒場でホセが牢獄から戻るのを待っていた。そこに立ち寄ったトレアドールのエスカミーリョは、カルメンに恋をしてしまう。

あなたが私を愛するのは自由よ。でも、私があなたを愛するとは思わないで。



ああ!じゃあ、待ってみようか。希望を捨てないで。
ホセがカルメンに会いに来る。ホセの情熱的な愛の歌。ホセはスニガとけんかをする。ホセは軍を去り、カルメンと共に密輸入に加わる。
数ヵ月後、密輸組織と真夜中の岩山。二人はすでに仲が悪い。エスカミーリョがカルメンを訪ねてくる。ホセとエスカミーリョは決闘になる。母の病気を知ったホセは家に戻る。
カルメンとエスカミーリョは互いに愛し合っていた。ホセが現れ、カルメンを殺す。



誰か僕を逮捕して!愛する女性を殺した!
オペラ「カルメン」の解説


セビリャは、スペインの大航海時代(15世紀半ば~17世紀半ば)の拠点となった町です。8世紀にイスラム勢力に支配されたことがあり、ヨーロッパ文化とイスラム文化が混じり合う、独特の町。
カルメンの時代設定は、19世紀初めのセビリャ。大航海時代に栄華を誇った町も、今は昔といったところ。
ホセの出身地は、ナバラ王国
ホセの出身地は、ナバラ王国だった地域。オペラの中で、ホセは「ナバラの生まれ」であることをよく言います。



僕はナバラ生まれだ。ナバラの人間は嘘をつかない。
- 公式に、ナバラ王国がスペイン王国に併合されたのは、1833年
- メリメの小説「カルメン」の発表は、1845年
- オペラ「カルメン」の初演年は、1875年
オペラや小説の時点では、ナバラ王国の併合はつい最近の出来事でした。国がなくなったとしてもドン・ホセは「自分は、ナバラの人間だ」という思いが強かったのでしょう。
オペラ「カルメン」第1幕のあらすじ
前奏曲
セビリャの煙草工場前の広場
衛兵たちがたむろする中、ホセの幼なじみ、ミカエラが訪ねてくる。



すみません。ドン・ホセはいますか?
兵士
衛兵の交替で、ホセはもうすぐ来るはず。俺たちと一緒に待てば?



出直します。
ミカエラが去る。
子供たち
交替の衛兵たちと一緒に行進だ。吹けよ、トランペット。小さな兵士が行進するぞ。
「子供たちの合唱」Avec la garde montante
伍長のドン・ホセがやってくる。
兵士
お前を訪ねて、女の子がやってきたぞ。



女の子…ミカエラだな。
中尉がやってきて、ホセと立ち話を始める。
中尉
おい、ホセ。私は連隊に着任したばかりで、このあたりのことは知らない。この大きな建物は何だ?



煙草工場です。中には、葉巻を巻く女工たちが大勢います。昼になると、彼女たちはこの広場に出てきます。女工たちを見るために男が集まりますよ。ガラが悪い女ばかりなので、僕は興味ないですけど。
中尉
ああ、君にはさきほど訪ねてきた女の子がいるからな。彼女は、ナバラの衣装を着ていたそうだな。君は、ナバラの出身か?



他の兵士に聞いたのですね。僕はナバラ出身です。けんか騒ぎを村で起こして、ナバラから離れて軍に入りました。父は早くに死に、母は孤児の女の子を引き取り育てたのです。それが先ほどの女の子です。彼女は、うちの母親から離れようとしないし、もうすぐ17になりますので…
中尉
それなら、君は他の女を見ることはできないな。
工場の昼休みの時間になった。くわえ煙草をして女工たちが工場から出てくる。兵士や男たちが、その様子を見ている。
若い男たち
鐘が鳴ったぞ。女工たちが出てくる!カルメンがいないぞ。来た!来た!カルメンだ!!カルメン、いつになったら、俺たちを好きになってくれるのか?
「合唱・鐘が鳴った」La cloche a sonné
女工たちの中で目立つ女、カルメン。



いつになったら、好きになるか、ですって?そんなのわかりゃしないわ。恋は野の鳥なのよ。飼い慣らすことなんてできないわ。
「ハバネラ」(「恋は野の鳥」)L’amour est un oiseau rebelle
「ハバネラ」(「恋は野の鳥」)L’amour est un oiseau rebelle|カルメン
私に惚れられた男は、ご用心!と歌う。


若い男たち
カルメン、お前を見に来たよ。優しくしてくれよ!
「合唱」Carmen! sur tes pas, nous nous pressons tous
たくさんの男たちがカルメンに色目を使う中、気のないそぶりのドン・ホセに気がついたカルメン。



あんた、何してんのよ?



針金で鎖を作っているのさ。



あはは!それで私の魂を突き刺すつもりなの?
カルメンは、彼に向かって花を投げつける。鼻歌を歌いながら、工場に入っていく。



なんだ。あの女。僕が彼女に目もくれないから、あんなことをしたんだな。猫と女は呼んでも来ないっていうもんな。
うまく投げたな。眉間に当たったぞ。(花を拾う)
キツイ香りの花だ。魔女がいるなら、ああいう女だろう。
ホセの幼なじみ、ミカエラが再び、訪問。



村から来たの。お母さんの使いで。



ミカエラ!聞かせてくれ、母の話を。
「二重唱」Parle-moi de ma mère



あなたのお母さんからの手紙よ。それとお母さんからのキスよ。(ホセにキス)



母さんに会いたいな。故郷に帰りたい。
(煙草工場をにらんで)危うく、悪魔に引っかかるところだった。母さんが守ってくれたんだ。
僕からも母さんにキスを返してくれ。(ミカエラにキス)さあ、手紙を読もうかな。



待って。その手紙は、私がいなくなってから読んでちょうだい。手紙の返事は、あとで聞きに来るわ。
ミカエラは去って行く。ホセは、母からの手紙を読む。



(母からの手紙)「ミカエラはいい子だよ。お前がよければ、あの子を嫁にもらってくれ。」
そうだな。母さんの言う通りにしよう。ミカエラを嫁にするんだ。ジプシー女(カルメン)なんか目じゃないさ。
ホセが花を捨てようとしたとき、煙草工場内で、騒動が起こる。女工たちが広場に出てきて、兵士たちに仲裁を求めている。「カルメンと女工が、大げんかをしている」と言う。
中尉
ホセ、煙草工場に行って様子を見てこい。
ホセが様子を見に行って、戻ってくる。



カルメンが、けんか相手の女工の顔に十字の傷を負わせていました。相手の傷は浅いので、軽症のようですが。すべて事実です。ナバラの人間は嘘をつかない!!
中尉
カルメン、何か言い分はあるか?



(返事をせずに、歌い出す)切られても、焼かれても、何も言わないよ。神様だって怖くないさ。
「切られようと焼かれようと」Coupe-moi, brûle-moi
中尉
生意気な。ホセ、この女を縄で縛れ。牢屋に入れてやる。牢屋の中で歌えばいいさ。私は命令書を書いてくる。ホセは女を連行しろ。
中尉は立ち去る。ホセとカルメンがふたりきりになる。ホセはカルメンを見ないようにし、カルメンはホセをじっと見つめる。



逃がしてよ。私はあんたの同郷よ。ジプシーに誘拐されてここにいるの。同じ故郷の女に優しくしないの?



嘘をつくな。君はジプシーそのものだ。



ばれたか。でも、あんたは私を逃がすわ。だって、私を好きなんだもの。私が投げた花を持っているでしょ。



何を言っているんだ。もう話しかけるな。
牢入りを逃れるために、カルメンは、ホセを誘惑し始める。



セビリャの城壁近くに、酒場があるわ。そこで踊って飲んで騒ぐのよ。でも、ひとりじゃつまらない。新しい恋人が欲しいわ。
「セギディーリャ」(「セビリャの城壁の近くに」)Près des remparts de Séville
「セギディーリャ」(「セビリャの城壁の近くに」)Près des remparts de Séville|カルメン
カルメンは自分を縛る縄をほどかせるために、ホセを誘惑。





私は考えているの。私を愛してくれるひとのことを。彼が愛してくれるなら、私も愛するかも!
ホセは誘惑に負け、カルメンを縛った縄をゆるめる。



カルメン。まるで酔ったみたいな気がするよ。もし僕がいいなりになったら、その約束を守るのか?僕が愛したら、愛してくれるのか?
「二重唱」Carmen, je suis comme un homme ivre



(ホセにささやくように、歌い出す)セビリャの城壁近くに、酒場があるわ。
中尉が命令書を持って戻ってきた。カルメンは縛られていふりをしている。カルメンは兵士たちに連行される。
中尉
命令書だ。しっかりと見張れ。



(ホセに小声で)あんたを突き飛ばして逃げるわ。うまく倒れて。
ホセを突き飛ばし、カルメンは逃げ去る。
間奏曲「アルカラの竜騎兵」
舞台上で表現されないが、ホセは、カルメンを逃亡させた罪で、牢に入ることになってしまう。
オペラ「カルメン」第2幕のあらすじ
セビリャ、町外れの酒場
酒場では夕食が終わり、テーブルがちらかっている。兵士たちとジプシー女たちが楽しそうにしている。その奥では、ジプシーの男たちがギターを演奏。



ギターが鳴れば、ジプシーの女が立ち上がる。音楽に合わせ、踊るわ。ジプシーの男が力強く演奏すれば、女たちは激しく踊る!
「ジプシーの歌・響きも鋭く」Les tringles des sistres tintaient
カルメンと女たちは、激しく踊る。カルメンを見ていた中尉に、酒場の主人が声をかける。
酒場の主人
中尉、そろそろお帰りになっては?すでに閉店時間ですから。なぜか、うちの酒場が目をつけられているようなんですけど・・・
中尉
そうだ。この酒場は、密輸のアジトとにらんでいる。まだ、軍に戻るには早いな。女たちを芝居に連れて行こう。カルメン、行かないか?



行かないわ。
中尉
怒っているのか?一ヶ月前に、お前を牢屋に入れようとしたから。お前を逃がした伍長は、格下げになって、軍の懲罰房に入ったよ。



格下げになったって?
中尉
か弱い女が、男を突き飛ばして逃げるなんて、おかしいからな。一ヶ月牢に入り、今日出てきたところさ。



そう。よかったわ。
酒場が急に賑やかになる。闘牛士のエスカミーリョが、ファンたちを引き連れて入ってきた。
人々
闘牛士万歳、エスカミーリョ万歳。
中尉
闘牛士か。こっちの席に呼ぼう!!君たちの勇気に乾杯だ!



こちらこそ、お招きありがとう。兵士と闘牛士は同じようなもの。戦いに身を捧げているから。興奮の闘牛場の中で、牛と戦うんだ。
「闘牛士の歌」Votre toast, je peux vous le rendre(Toreador)
闘牛場の熱気と、闘牛士が牛と戦う様子を歌います。


カルメンは、エスカミーリョのグラスに酒を注ぐ。



名前は何だい?今度闘牛場で牛を倒すときに、君の名前を叫ぶよ。



私の名前は、カルメンよ。私を愛するのはどうぞご自由に。でも、私に愛されることは期待しないで。



ああ!では、待つとしよう。希望を捨てずに。
中尉
カルメン。俺と一緒に来ないんだな。まあいいさ。またここに戻ってくるよ。闘牛士さん。あんたの飲みの仲間に加えてくれ。



光栄ですよ。
エスカミーリョは、兵士たち、闘牛士の仲間やファンたちを引き連れて酒場を出て行く。
酒場には客がいなくなった。カルメンとジプシーの男女(男ふたり、女ふたり)が話をしている。
ジプシーの男
うまい儲け話がある。女の仲間が必要だ。もちろん、女たちは入ってくれるよな。
「五重唱」Nous avons en tête une affaire



私は無理よ。恋をしているから。
ジプシーたちが話し合っていると、酒場の外から、ホセの声が聞こえてくる。



(ホセの声)アルカラの竜騎兵だ。名誉のために戦うぞ。
ジプシーたちは、酒場からホセを見る。女たちは「彼はイケメンね」と言っている。
ジプシーの男
あの男も、俺たちの仲間に入れるんだ。



そうできたらいいけど、無理よ。彼は真面目だから。
ジプシーの男
男に惚れたからという理由で、お前が密輸の仲間にならないなんてありえないよ。親分は納得しないだろう。
ジプシーの男たちは酒場を出ていく。それを追いかけるジプシー女たち。カルメンが一人で酒場にいると、ホセの声が聞こえてくる。



(ホセの声)アルカラの竜騎兵だ。愛しい女のもとに行くぞ。
酒場にホセが訪ねてきた。カルメンは、喜んで迎える。



やっと来てくれたのね!私が脱走できるように、やすりと金貨を送ったのに。やすりで牢を壊せるし、金貨で服を買って、軍服から平服に着替えられたのに。



僕は軍人だ。恥ずかしい真似は出来ない。やすりは使わずに大切に思い出として取っておく。この金貨は持ってきたよ。
カルメンは、金貨でご馳走を準備させる。



私のことを恨みに思っているんじゃないの?牢に入り、伍長の位も剥奪されて。



そんなこと、どうでもいいんだ。君を愛しているから。



ジプシーは恩を忘れないのよ。さあ、たくさん食べてちょうだい。そういえば、あなたの中尉が酒場に来たのよ。踊ってあげたわ。中尉が、私を好きだって口説いてくるの。



カルメン、何だって!!



やきもちね。あなたのために踊りを見せてあげるわ。
カルメンが踊り始めると、遠くで軍のラッパの音が響いてくる。



ラッパの音だ。軍に戻らないと。
ホセは、カルメンの腕を取って踊りをやめさせる。軍に帰ろうとすると、カルメンは激怒。



そんなに帰りたいなら、さっさと帰れば。あんたの愛なんて、信じられないわ。



ひどいな。信じてくれ。
お前が投げたこの花を、軍の懲罰房に入っている間、ずっと持っていたんだ。枯れても、甘い花の香りが漂っていた。暗闇の中で、花の香りを嗅いでいたんだ。
恨んだり呪ってやろうと思った。その後、自分を責めたさ。残った望みはひとつ。お前に会いたい。カルメン、愛している!!
「花の歌・お前が投げたこの花は」La Fleur que tu m’avais jétée
ホセは、カルメンの投げた花を取り出して、愛を伝える。
「お前が投げたこの花は」La Fleur que tu m’avais jétée|カルメン
ホセの思い詰めた、カルメンへの愛。





いいえ、好きじゃないのよ。もし私が好きなら、私から離れないわ。私についてくるべきなのよ。



いや、軍には戻る。永遠にさよならだ。
カルメンは説得するが、ホセは、軍に帰ろうとドアに向かう。カルメンに気がある中尉が酒場に戻って来た。
中尉
カルメン!戻ってきたぞ。ホセ!何でお前がいるんだ。出て行け!



出て行かない!酷い目にあわせてやる!
ホセは、カルメンを巡り中尉とトラブルになってしまい、決闘寸前に。ジプシーの男たちが出てきて、中尉を縛り上げる。



中尉さん、しばらく縄で縛らせてもらうわ。ホセ、これであなたも仲間入りね。



仕方がないな。
上官に刃向かい、どうしようもなくなり、軍から離れて、カルメンと密輸団の仲間に入る。
間奏曲
オペラ「カルメン」第3幕のあらすじ
セビリャ近郊、山の中にある、密輸団のあじと
真夜中の岩山。ジプシーの男たちが荷物を抱えて山を登っている。
ジプシーたち
この商売は悪くないが、強い心が必要だ。上も下も危険がある。
「六重唱」Notre métier est bon
ジプシーの男
1時間ほどここで休め。お前たちはここにいろ。俺が道が安全なのか見てくる。密輸品が問題なく運べるようにな。
ジプシーたちが休憩を取っている。



僕が怒鳴ったりして悪かった。仲直りしよう。もう愛していないのか?



もう前ほど愛していないわ。私に指図して、束縛するのをやめて。私は自由でいたいの。



母さんは、きっと僕がまだ善人だと思っている。



帰ればいいじゃない。止めないわよ。この仕事は向いていない。あんたはすぐに命を落とすわ。



そういうお前だって命を落とすだろう。そんなに別れ話をするのなら。



私を殺すっていうのね!!(ホセは何も言わない)いいわ。これまでに「カード占い」で何度も出ているのよ。私たちが一緒に死ぬだろうって。
カルメンは、嫉妬深いホセにうんざりしている。ジプシー女ふたりと、カード占いをする。
ジプシー女二人
混ぜて切って。カードよ、未来を教えておくれ。
「三重唱」Mêlons! Coupons!



今度は私がやるわ。また「死」のカード。私が先に死に、ホセが死ぬのね。
「カードの歌」Carreau, pique…la mort
道を見てきたジプシーの男が戻ってくる。



どうだったの?
ジプシー男
たぶん行けるだろう。ホセはここに残って荷物を見ていてくれ。道は大丈夫だが、三人の税官吏がいたんだ。



カルメンとジプシー女二人
税官吏なら任せておいて。ほかの男と同じように女と遊ぶのが好きだろう。先に私たちを行かせて。
「三重唱」Quant au douanier, c’est notre affaire
密輸の荷物を通すために、カルメンを含めたジプシー女たちが役人に色目を使うことになった。ホセは一人残って、岩山にある荷物を見張ることに。
人気のないところに、ホセの幼なじみミカエラが現れる。その横におびえた案内人がいる。
案内人
不気味な所でしょう。ここにいれば、ジプシーたちに会えますよ。それにしても、根性のあるお嬢さんだ。私は村に戻るよ。



たいしたことじゃないわ。これくらい。
何を恐れることがありましょう。私が愛した男を取り戻してみせるわ。あの性悪女から。
「何を恐れることがありましょう」e dis, que rien ne m’épouvante
あの岩場にいるのは、ホセだわ。
ひとり、ホセを連れ戻す決意をする。発砲音を耳にして、岩陰に隠れて、様子をうかがう。
カルメンに会うため、エスカミーリョが訪ねてきた。ホセがエスカミーリョに向けて銃を撃ったが、外れていた。



おい!お前は誰だ。



まあ、落ち着いて。私はエスカミーリョ。闘牛士だ。カルメンに会いにやってきたんだ。前に会ったときは他に恋人がいると言われたが、そろそろ別れただろうと思って。
「二重唱」Je suis Escamillo



カルメンはただではやれない。ナイフで決闘しろ。



ああ、なるほど。君がカルメンの恋人か。
ホセとエスカミーリョはナイフを構えて戦う。すぐに、エスカミーリョのナイフがホセの心臓を刺せる状態になる。



そのナイフの構えは、ナバラ出身だな。だが、その構え方では、勝てないぞ。
わかっただろう。君の命は私の思うがままだが、私の仕事は牛を刺すこと。人の心臓を刺さない。



遊びじゃないんだ。死ぬまでやる!
戦いが再開される。エスカミーリョが足を滑らせて、ホセに刺されそうになったときに、密輸から戻って来たジプシー男やカルメンたちがホセを止めに入る。



やめてホセ!
「やめてホセ」Holà, holà! José!



カルメンに命を救われるとは、嬉しいことだ。皆さんがた、今度セビリャでやる闘牛に招待しよう。
周囲は、ホセがエスカミーリョに飛びかかろうとするのを押さえる。エスカミーリョは悠然と去って行く。
ジプシーの男たちが、岩陰に隠れていた、ホセの幼なじみ・ミカエラを見つける。



ミカエラ!君がなぜここに。



あなたを迎えにきたのよ。お母さんが泣いているわ。小さな家で祈りながら、あなたの帰りを待っているわ。



ホセ、早く帰りなさいよ。あんた、私たちの仕事に向いていないのよ。



嫌だ。帰らないぞ。お前は新しい恋人のもとに行くだろう。絶対に帰らない。



最後に一言言わせて。お母さんは今日か明日の命なの。息子に一目会いたいと言っているわ。



母さんが!!わかった。喜べよ、カルメン。でも、僕はすぐに戻ってくるぞ。
ホセは、カルメンに未練を残しつつ、帰ることにする。
間奏曲「アラゴネーズ」
オペラ「カルメン」第4幕のあらすじ
セビリャの闘牛場前の広場
闘牛場の入り口が見える広場。闘牛試合がもうすぐ開催される。オレンジや扇の売り子たち、試合を見るために集まった観客で、混雑している。ジプシー女たちと中尉が、立ち話をしている。
ジプシー女
カルメンは、新しい恋人のエスカミーリョの応援にもうすぐ来るはず。そういえば、昔の恋人のホセはどうなったの?
中尉
ホセは、軍逃亡の罪で探されているぞ。母親の村に来たところを逮捕されそうになって、逃げたそうだ。もうすぐ捕まるだろう。
ジプシー女
私がカルメンなら、怖いわ。
ファンファーレが鳴り、闘牛士たちが入場していく。
人々
来たぞ、闘牛士のクアドリーリャだ。広場に出て来たぞ。次は大胆な男チューロだ。彼の勇気に栄光あれ。
「合唱」Les voici! voici la quadrille
入場をみて、群衆は盛り上がっている。エスカミーリョのそばには、美しく着飾ったカルメンがいる。



カルメン、もうすぐ私の仕事ぶりを見て、誇りに思うだろう!



エスカミーリョ。私は今までこれほど男を愛したことはなかったわ。
エスカミーリョは、闘牛場の入り口に入っていく。それを見送るカルメン。ジプシー女が声をかける。
ジプシー女
カルメン、ここにいたら危ないわ。ホセがいるらしいのよ。



今、あそこにいるホセを見つけた。あんな男にひるまない。私から声を掛けてやるわ。
広場に人がいなくなり、カルメンとホセだけになる。



あんたね。
「二重唱」C’est toi!



僕だよ。



あんたがいる。命に気をつけろ、と言われたわ。でも、平気よ。逃げる気はない。



脅迫しにきたわけじゃない。もう一度やり直そう。過去を忘れて、どこか遠くの土地で。
僕はお前の命を助けたいし、僕の命を助けたい。一緒に逃げよう。二人の命を救うんだ。



もう愛していないのよ!私は自分の心に嘘をつかないの。カルメンとホセの縁は切れたのよ。カルメンは自由に生きて、自由に死ぬの!!!
闘牛場から歓声が響き渡る。カルメンは、去ろうとする。



どこへ行く?あの喝采を浴びる男のもとに行くんだな。行かせない!お前は僕についてくるんだ。あいつが好きなのか?



そうよ!!死んでもエスカミーリョを愛しているわ。



あいつの腕に抱かれて、僕を笑うんだな。行かないでくれ。脅迫なんかしたくないんだ。



私を刺すか、このまま行かせるか決めてよ。いつまでこうやってないといけないのよ。いい加減決めて。
いらないわ。あんたに昔もらった指輪、あんたに返す!!
ホセからもらった指輪の投げつける。ホセは激高し、カルメンを刺し殺す。



僕を逮捕してくれ!カルメンを殺した!大事な女を!