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【ワルキューレ】簡単なあらすじと相関図

ワルキューレ, オペラ, ワーグナー

「ワルキューレ(ヴァルキューレ)」は「ニーベルングの指輪」の四作の中でも一番人気のある作品です。単独での上演回数が多く、実際に劇場で見る機会を得やすいです。ワルキューレとは、戦場で死んだ勇者を神々の城ヴァルハルに運ぶ「戦の乙女」を指します。戦の乙女の仕事はヴォータンとエルダの9人の娘が担っており、9人の娘の長女はブリュンヒルデ(作品の主要な人物)です。「ワルキューレ」の見どこは、映画などでよく耳にする「ワルキューレの騎行」Der Ritt der Walkueren(Ride of the Valkyries)、「ジークムントの愛の歌・冬の嵐は過ぎ去り」Winterstürme wichen dem Wonnemond、「ヴォータンの告別・さらば勇敢で気高い我が子」Leb’ wohl, du kühnes, herrliches Kind!からの「魔の炎の音楽」です。

目次

ワルキューレ、オペラ:人物相関図

ブリュンヒルデ

「ワルキューレ」Die Walküreとは、9人娘のワルキューレたちのことではなく、ブリュンヒルデだけを指します。もし「ワルキューレたち」ならば、Die Walkürenになります。私に注目して作品をみてね。

オペラ・楽劇「ワルキューレ」の相関図
ワルキューレ、オペラ:人物相関図

ワルキューレ、オペラ:登場人物

人間
ジークムントヴォータンと人間の女との子テノール
ジークリンデジークムントの双子の妹ソプラノ
フンディングジークリンデの夫バス
ヴォータン神々の長バリトン
フリッカ結婚の女神、ヴォータンの妻メゾソプラノ
9人のワルキューレたち
ブリュンヒルデヴォータンとエルダの娘ソプラノ
ゲルヒルデソプラノ
ヘルムヴィーゲソプラノ
オルトリンデソプラノ
ヴァルトラウテメゾソプラノ
ジークルーネメゾソプラノ
ロスヴァイセメゾソプラノ
シュヴェルトライテアルト
グリムゲルデメゾソプラノ
  • 原題:Die Walküre
  • 言語:ドイツ語
  • 作曲:リヒャルト・ワーグナー
  • 台本:リヒャルト・ワーグナー
  • 原作 北欧神話「ヴォルスンガ・サガ」、古代北欧歌謡集「エッダ」、ドイツ叙事詩「ニーベルンゲンの歌」他
  • 初演:1870年6月26日 バイエルン宮廷歌劇場
  • 上演時間:3時間50分(第1幕65分 第2幕95分 第3幕70分)

ワルキューレ、オペラ:簡単なあらすじ

「ラインの黄金」から「ワルキューレ」までの出来事

ヴォータンはエルダに会いに行った。彼は彼女から指輪の情報を得た。ヴォータンはエルダとの間に娘ブリュンヒルデをもうけた。

彼は指輪の奪還を人間に任せることにする。ヴォータンは狼の一族になりすまし、人間との間に双子の兄妹を産ませる。女は死に、双子の兄妹は離ればなれになってしまう。ヴォータンは娘の家の木に剣を刺し、その場を離れる。そして、息子に「困ったことがあったら、勝利を約束した剣を見つけなさい」と言い残し、去っていく。

「ワルキューレ」本編のあらすじ

嵐から逃れた兄ジークムントは、妹ジークリンデの家に辿り着く。二人は血のつながりがあることを知らずに恋に落ちる。ジークリンデの家では、ヴォータンの残した剣が木に刺さっている。翌日、ジークムントと妹の夫は決闘することになった。ジークムントは剣を手に入れ、彼女と結婚する。

それを見ていたヴォータンは、ヴァルキューレのブリュンヒルデに、ジークムントに勝利を与えるよう命じる。

ヴォータンと妻はジークムントをめぐって言い争う。ヴォータンは、自分とは関係のない人が指輪を手に入れる必要があるので、ジークムントを助けたいと言います。しかし妻のフリッカは、あなたが関わっているから兄妹が強いのだと言います。ヴォータンはジークムントを助けることをあきらめる。

ヴォータンはブリュンヒルデにジークムントを助けてはいけないと言い直します。

ブリュンヒルデは命令通りジークムントに死を宣告しに行くが、ジークムントの愛の情熱に感動し、二人を救う決意をする。ジークムントと姉の夫の決闘で、ブリュンヒルデはジークムントを救おうとするが、突然現れたヴォータンがジークムントに死をもたらす。ジークリンデも死を願うが、ブリュンヒルデは腹の中に子供がいることを彼女に告げる。

ブリュンヒルデが命令に背いたことに怒ったヴォータンは、娘に神通力を失わせる。彼は娘に神通力を失わせ、長い眠りにつかせ、目覚めさせた男と結婚させ、仕えさせる。ブリュンヒルデは、自分が眠る場所を炎で囲むようヴォータンに頼む。ヴォータンは娘の願いを聞き入れ、その場を離れる。

ワルキューレ、オペラ:第1幕のあらすじ

第1場

序奏

森の中

古代ゲルマンの森。嵐の中、ジークムントが木造の家に入り込む。部屋の中央にトリネコの木の大きな幹が見える。

ジークムント

ここが誰の家であっても、休まずにいられない。

ジークムントは気絶し、別の部屋からジークリンデが姿を見せる。

ジークリンデ

知らない人だわ、聞いてみないと。(近づき様子を見て)疲れて倒れているのね。病気ではないようだわ。勇敢な人のように見える。

ジークムント

水を!

ジークリンデ

持ってきます。水ですよ。

ジークムント

水で元気になりました。あなたはどなたですか?

ジークリンデ

この家と私はフンディングの持ち物です。彼が家に帰るまでお待ちください。

ジークムント

私は武器を持っていないので、ご主人は傷ついた客人を断らないでしょう。

ジークリンデ

傷を見せて下さい。

ジークムント

たいした傷ではありません。槍と盾が壊れてしまったので、敵から逃げてきたのです。戦いによる疲れは消えました。瞼の上に夜が訪れていたのに、今太陽が微笑んでいてくれるから。

ジークリンデは蔵に行き、蜂蜜酒を親しみを込めて渡す。

ジークリンデ

蜂蜜酒をどうぞ。

ジークムント

あなたが味見をして下さい。

ジークリンデが飲むのを優しく見て、自分も飲む。ジークムントは酒を飲んで感激するが、すぐに深刻な顔になる。

ジークムント

あなたは不幸な者を元気づけてくれました。私は先に進みます。

ジークリンデ

もう去るとは、何かに追われているのですか?

ジークムント

不運に付きまとわれている身なのです。あなたに不運が近づかぬように私は目と足を外に向けます。

ジークリンデ

ここに留まって下さい。不幸が住む家に、あなたの不幸が持ち込まれることはないでしょう。

ジークリンデの必死な様子を見て、出ていこうとするのをやめて戻ってくる。

ジークムント

私はヴェーヴァルト(悲しき者)と言います。フンディングを待ちます。

二人は黙ったまま熱く見つめ合う。

第2場

部屋の外から馬の音が聞こえる。ジークリンデは慌てて扉を開けに行く。フンディングは部屋に入ると、見知らぬ男ジークムントを見つけ、無言で尋ねる。

フンディング(ジークリンデの夫)
(ジークムントを見て)…。

ジークリンデ

かまどに倒れていたのを見つけました。必要に迫られて、この家に入ったようです。

ジークムント

雨宿りと飲み物に感謝します。あなたの妻を怒りますか?

フンディング(ジークリンデの夫)
私のかまどは神聖だ。客にも家を神聖と思ってもらいたい。男たちに夕食を準備しろ。

ジークリンデが食卓の準備を始める。フンディングはジークムントを見ている。

フンディング(ジークリンデの夫)
(この男は、妻に似ている。)

(ジークムントに)遠い道を来られたようですね。馬に乗らずに、この場所にたどり着くとは、とても大変だったでしょう。

ジークムント

嵐に追い立てられ、どうやってここまで来たのかわかりません。どこに迷い込んだのか、教えていただけますか?

フンディング(ジークリンデの夫)
家の持ち主である私の名は、フンディング。もしあなたがここから西に足を向けるなら、フンディングに忠誠を誓う一族たちが住んでいる。客人に名を名乗ってもらえれば、光栄だが。

ジークリンデは興味を示して、ジークムントを見ている。

フンディング(ジークリンデの夫)
(二人を見ながら)私に言うのが不安なら、この女に告げるといい。聞きたそうだから。

ジークリンデ

お客様、どなたか知りたいです。

ジークムント

フリームント(平和な者)と名乗ることはできない。フローヴァルト(喜びの者)でありたいが、ヴェーヴァルト(悲しき者)と名乗らねばなりません。

私の父はヴォルフェで狼族です。双子として生まれました。ある日、父に連れられ狩りに出かけて家に戻ると、母は殺され、妹は行方知れずに。ナイディング族の仕業でした。父と私は森へ逃げ、追手と勇敢に戦ったのです。(フンディングを見て)あなたに語る私は、ヴェルフィング族の者です。

フリームント(Friedmund)…frieden(平和)mund(人)…平和な人
フローヴァルト(Frohwalt)…froh(喜び、愉快)waltan(支配する)…喜びを支配する者
ヴェーヴァルト(Wehwalt)…weh(痛み、悲しみ)waltan(支配する)…悲しみを支配する者

ヴォルフェ…ジークムントが考えた父の偽名。本当の父の名は、ヴェルゼで後ほど出てくる。

フンディング(ジークリンデの夫)
作り話ではないか?そのような勇敢な二人の話を聞いたことはあるが、ヴォルフェやヴェルフィングは聞いたことがない。

ジークリンデ

もっと聞かせてください。あなたのお父様は今どこに?

ジークムント

敵に襲われ、父とは離れ離れになりました。どれほど探しても、見つけたのは狼の毛皮だけ。

人恋しい気持ちが私を森の中から連れ出しました。友や女を求めても、災難に付きまとわれたのです。どこにいても争いに巻き込まれ、喜びを求めても災いばかり。だから、私はヴェーヴァルト(悲しき者)と名乗るのです。

フンディング(ジークリンデの夫)
悲しい運命を与えるとは、あなたはノルン(北欧神話の女神)に愛されていないのかもしれない。客人として迎えるには喜ばしくないな。

ノルン…北欧神話の運命の女神。ニーベルングの指輪・第三夜「神々の黄昏」の序幕で、3人のノルンが登場する。

ジークリンデ

武器を持たない孤独な男を恐れるのは、臆病者ですよ。あなたが戦いで武器を失ったいきさつを教えてください。

ジークムント

哀れな娘が私に助けを求めてきました。親族が娘に愛のない結婚をさせようとしていたのです。私はすぐに立ち上がり、無理強いする者を殺しました。娘は亡くなった親族を悲しみ、涙を流していました。私に殺された男たちの一族があらわれ、私は娘を助けようとしましたが、娘は死に、私は武器が壊れ逃走したのです。これでおわかりでしょう、なぜフリームント(平和な者)と名乗らないかを。

フンディング(ジークリンデの夫)
ある野蛮な一族を知っている。私は敵討ちの戦に呼ばれた。家に帰り、その犯人を見つけるとは。今日はお前を家に泊めてやる。決闘は昼だ。死んだ者に償いをしてもらう。

(うろたえるジークリンデに)寝酒を用意して待っていろ。

ジークリンデは迷っている様子だが、決意して寝酒を用意し始める。戸棚から香料を取り、酒に振りかける。ちらりとジークムントを見た後に、酒を持って寝室に向かう。もう一度振り返り、ジークムントを見て、部屋の中央のトリネコの木の幹を意味ありげに見る。フンディングに追い払われるように、寝室に入っていく。

フンディング(ジークリンデの夫)
(ジークムントに)覚悟しておけ。

フンディングは自分の武器を持ち、寝室に入る。

第3場

一人残ったジークムント。

ジークムント

もし私が苦境に陥った時には、父は一本の剣を約束してくれた。何も武器を持たず、敵の家に入ってしまった。休息はできるが、人質だ。一人の愛らしく気高い女に出会った。彼女に惹かれている。彼女も夫により軟禁状態だ。ヴェルゼ、あなたの剣はどこにあるのか?

ヴェルゼ…ジークムントの記憶にある父の名前。

かまどの火が崩れ、光がトリネコの木の幹にあたる。ジークリンデが意味ありげに見ていた場所。

ジークムント

トリネコの木の幹から光るものはなんだろう?この光はなぜか胸を熱くする。あの女性の視線のような。広間から去るときの眼差しがここに残っているのだろうか?

かまどの火は弱くなり、消える。暗闇の中、白い服のジークリンデがそっとやってくる。

ジークリンデ

寝ているのかしら?

ジークムント

(喜びで)どなたですか?

ジークリンデ

私です。フンディングは眠っています。眠り薬を盛りました。この夜を幸せに使わなくては。

ジークムント

あなたが来たことが幸せです。

ジークリンデ

武器のありかを教えます。それを手にすることができたら、気高い勇者と言えるでしょう。私の物語を聞いて下さい。

一族の男たちが、フンディングから結婚式に招かれて、この部屋に集まっていました。彼は盗賊から贈られた一人の女を嫁にしました。男たちが酒盛りをしていると、一人の灰色の服を着た老人が入ってきました。帽子を深くかぶり、片目を隠していました。

男の目の輝きは、一族の男たちに恐れをいだかせましたが、私ななぜか悲しみと慰めを感じました。男は私を見てから、剣をトリネコの木の幹に刺して言いました。これを抜くことができる者がこの剣にふさわしい男だと。

誰もが挑戦しましたが、刺さったままです。私には誰が剣を抜くことができるのかわかりました。哀れな女のもとにあなたがやってきてくれました。苦しみは償われ、すべて取り戻すでしょう。勇者の腕に抱かれることでしょう。

ジークムント

(ジークリンデを抱きしめて)有難い女を抱き、武器と女性を手に入れようとしている。かつて憧れたすべてをあなたの中に見つけた。私は迫害され、あなたは名誉を奪われた。だが、私は笑っている。気高いあなたを抱き、私の心臓が脈打つのを感じるのだから。

家の扉が大きく開く。

ジークリンデ

誰が出ていったの?入ってきたの?

ジークムント

出ていった者はいない。入ってきた者はいる。見てごらん。春が部屋で笑っている。

冬の嵐は過ぎ去り、穏やかな光に輝いている。妹の下に春は飛んできた。愛が春を呼び寄せたのだ。若い二人は挨拶し、春と愛は一つになった。

「ジークムントの愛の歌・冬の嵐は過ぎ去り」Winterstürme wichen dem Wonnemond

ジークリンデ

あなたこそ春、厳しい冬に求めていた春だった。

ジークムント

あなたこそ、私が心に描いた姿。

ジークリンデ

静かに。私は幼い頃にその声の響きを聞いたことがあるわ。いいえ、つい最近だわ。あの老人が私を見たとき、眼差しで私の父だと気が付いたの。…あなたは本当にヴェーヴァルト(悲しき者)という名前なの?

ジークムント

そのように呼ばないでくれ。私は喜びにいるのだから。

ジークリンデ

フリームント(喜びの者)とも名乗れないのね?

ジークムント

あなたに名前をつけてもらおう。

ジークリンデ

あなたの父の名前はヴォルフェと聞いたけれど。

ジークムント

父は卑怯な狐の前では、ヴォルフ、狼だった。素晴らしい女性よ。父の名は、ヴェルゼだった。

ジークリンデ

ヴェルゼがあなたの父の名なら、あなたはヴェルゼの子。ヴェルズング。その父が木に剣を刺した。私は愛するままに名をつけます。ジークムントと名付けましょう。

「ジークムントと名付けましょう」Siegmund – so nenn’ ich dich!

ジークムント

私はジークムント。勝利の者。ヴェルゼは私の苦難の時に剣を見つけるだろうと約束した。私は剣を掴んでいる。

ノートゥングと名付けよう。恐るべき剣。今こそ切れ味を示せ。

「私はジークムント」Siegmund heiss’ ich und Siegmund bin ich!

ジークムントは、トリネコの木の幹から剣を引き抜く。

ジークムント

花嫁の贈り物として剣を捧げる。敵の家からあなたを連れ出そう。私に従ってくれ。

ジークリンデ

あなたがジークムントならば、私はジークリンデ。あなたは妹と剣を得るのです。

ジークムント

あなたの兄であり、私の花嫁にして妹。ヴェルズングの血よ、栄えよ。

ジークムントは抱き寄せ、ジークリンデは叫び声をあげる。

ワルキューレ、オペラ:第2幕のあらすじ

第1場

序奏

岩山

岩山に、槍を構えるヴォータンと、戦いの服を着たブリュンヒルデ。

ヴォータン

馬の準備を。女戦士よ。ヴェルズング(ジークムント)に勝利を。(決闘で負けて死んでも)フンディングの行先は、ヴァルハルではないぞ。

「馬の準備を、女戦士よ」Nun zäume dein Ross, reisige Maid!

ヴァルハル…神々の城のこと。意味は、戦士の広間。ニーベルングの指輪・序夜「ラインの黄金」で、ヴォータンが自分の城に、ヴァルハルと名付けた。

ヴォータンは、戦で死んだ勇者をヴァルハル(城)に迎え入れていた。戦場から勇者の亡骸を運ぶのが、ワルキューレ(ヴォータンの娘)たちの役目。

ブリュンヒルデ

ホヨトホー、ホヨトホー!ハイアハー!父上もご自身の戦への準備を。奥様のフリッカが牡羊に車をひかせてこちらに向かっていますよ。荒々しく怒りに満ちて進んでいます。このようなケンカを私は好みません。父上を置いて去りますね。ホヨトホー、ホヨトホー!

「ホヨトホー」Hojotoho! Hojotoho!

ブリュンヒルデは去り、フリッカがヴォータンのもとに近づく。

ヴォータン

(独り言)昔からのひと騒動だな。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
隠れても無駄です。あなたの助けを約束してもらいますよ。

フンディングは、私に仇を討ってくれと呼びかけたのです。結婚の女神である私は、彼の言い分を聞き、夫の心を傷つけた二人の行いを罰を与えると約束しました。

ヴォータン

愛によって結ばれた二人がどんな酷いことをしたというのか?愛の力を誰が償うというのか?

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
結婚の誓いが破られました。

ヴォータン

愛し合っていない者を結び付けた誓いなど、神聖ではない。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
結婚を壊すことが神聖だと言うなら、続けて褒めるといいでしょう。双子に血の汚れが花開いたことを。兄妹が愛し合うなど、いつ見たことがあるでしょうか。

ヴォータン

今日あったようだな。お前もあるがままを受け入れよ。彼らが愛し合っているのは、お前の目にも明らかだろう。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
それならば、神はおしまいですね。あなたが野蛮なヴェルズングたちの父となったからには。はっきり言います。あなたには神聖な神の一族はどうでもよいのでしょう。

欲望のまま不貞の果実を作った結果、不埒な双子がのさばることになったのです。貞淑な妻をあなたはいつも欺いてきました。岸辺を変えて楽しみ、妻の心を傷つけました。

あなたが戦いに、あなたの不貞でできた娘たち(ワルキューレたち)を連れていく度に、私は耐えているのです。妻の怒りをわかっていたあなたは、ワルキューレたちに女神に従うように言い聞かせていましたよね。

ですが、この度あなたは、ヴェルゼという名前が気に入り、森で狼になりきった上に、下品な一組を作り出して、妻の前に投げ出したのです。いっそのこと、欺かれた妻を踏みにじればよいじゃないですか。

ヴォータン

お前はまだ起こっていないことを認識しないのだ。私はまだ起こっていないことに対処しようとしている。お前が聞くべきことはひとつだ。神々の庇護を受けず、神の掟から自由な英雄が必要なのだ。神にできないことを彼に実行してもらいたいのだ。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
騙そうとしているのね。あなたが庇護しているから、彼らは強くあるのです。彼らの中に、あなたの存在を見ることができます。

ヴォータン

私は彼に庇護を与えたことはない。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
ならば、あの剣を取り上げなさい。神であるあなたが息子に与えた剣を。

ヴォータン

(声を強めて)ジークムントは、危機の中で自らの力で手に入れたのだ。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
あなたが作り出した危機でしょう。私を騙すつもりですか?あなたは彼のために木に剣を刺し、剣を与える約束すると言いました。手に入れるように誘導したことを否定するのですか?

あなたの権力に戦いを仕掛けてもいいのですよ。ジークムントは、私にとってしもべにすぎません。神である夫が、配偶者で神である私に、しもべである男に従えと言うのですか?

ヴォータン

何が望みだ?

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
彼の庇護をやめなさい。

ヴォータン

私は庇護をやめる。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
私の目を見なさい。騙すことを考えないで。ワルキューレたちに手を引かせなさい。

ヴォータン

ワルキューレたちには自由にさせる。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
彼女たちはあなたの意思を実行する。ジークムントの勝利を禁じなさい。

ヴォータン

ジークムントを倒すことはできない。彼はすでに剣を手に入れた。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
剣から魔力を抜き取り、折りなさい。

ブリュンヒルデ

(遠くからブリュンヒルデの声)ホヨトホー、ホヨトホー!

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
乙女がやってきましたね。

ヴォータン

ジークムントのために行けと命じたからな。

ブリュンヒルデが二人の前にたどり着く。不穏な雰囲気を感じて、洞窟に馬を入れる。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
あなたの妃の名誉を彼女の盾で守らせなさい。もし今日、正義が行われないならば、人間に嘲笑され、神は滅びるでしょう。ヴォータンはそう誓いますね?

ヴォータン

(不機嫌そうに)誓う。

フリッカは、ブリュンヒルデに近づいていく。

フリッカ(ヴォータンの妻・結婚の女神)
(ブリュンヒルデに)戦いの神であるお前の父が、待っているわよ。運命をどう決断したか、聞くといい。

馬に乗って去る、フリッカ。

第2場

ブリュンヒルデは困惑し、ヴォータンは深く悩む。

ブリュンヒルデ

私は何を知らされるのでしょうか。とてもつらそうに見えます。

ヴォータン

自分の罠に、自分で掛かってしまったのだ。神々の危機だ。

ブリュンヒルデ

私に話すことはヴォータン自身に話すことなのですよ。あなたの意思は私の意思です。

ヴォータン

お前に話をしたとしても、自分自身に話すことと同じだ。

私は権力を手にして、欲望に満ちていた。軽はずみに、誠実ではない契約(築城の報酬に、女神フライアを売る契約)をしてしまった。

小人アルベリヒは愛を呪うことで、ラインの黄金から計り知れない権力を手に入れていた。私はその指輪を、罠にはめて奪い取った。指輪を(最初の持ち主である)ライン川に返さず、城の支払に使った。

すべてを知る女神エルダは、私に指輪から離れるようにと、そして永遠の終末を警告した。不安になり、世界の下に降りた。私はエルダを誘惑して、情報を受け取り、彼女は9人の娘を得た。最も賢い女が産んだ娘が、お前、ブリュンヒルデである。

お前たちワルキューレによって、エルダの予言した神々の終末をひっくり返そうと考えた。勇敢な戦士たちをヴァルハルに集めるように命令した。

ブリュンヒルデ

広間には、戦士をたくさん連れてきました。なぜ心配するのですか?私たちは頑張ったのに。

ヴォータン

そうではないのだ。エルダが言ったのは。

ニーベルングは私を恨んでいる。あいつが闇の軍勢を作っても心配ない。こちらも城の広間に戦士を集めて戦ってくれるから。

だが、彼が指輪を取り戻したら、ヴァルハルはおしまいだ。指輪の力で神々に恥を与えるだろう。巨人が仕事の報酬として指輪を持っている。彼から指輪を奪い取らねばならないが、私は契約に縛られている。契約を結んだ相手に手をかけることはできない。

私が手を差し伸べなかった戦士で、私と関係がなく、彼が自らの意思で私のできないことを成し遂げてほしいのだ。

だが、その戦士にと願ったジークムントは私自身が森を連れて歩き、彼のもとに剣を残したが、剣は神の恩恵を受けたものであった。フリッカは私の受け答えから、ごまかしを見破ったのだ。妻の願いを叶えるしかなかった。

ブリュンヒルデ

ジークムントから勝利を取り上げるのですね。

ヴォータン

私はアルベリヒの指輪を手に取り、黄金を掴んだ。呪いから逃れたが、呪いは私から逃げない。私の築いたすべては、壊れよ。望むことは終末だ。終末を引き起こすのはアルベリヒだ。

エルダは言っていた。「敵が息子を作れば、神々の終末はすぐに起こるだろう。」最近、ニーベルングの噂を聞いた。ひとりの女に黄金を渡し、彼女は彼の子を宿している。愛のない男に奇跡が起こったのだ。私は愛によって女を求めたが、自由な男(ジークムント)を得ることはできなかった。

ブリュンヒルデ

私は何をしたらいいのですか?

ヴォータン

フリッカの名誉を守るのだ。

ブリュンヒルデ

嫌です。あなたはジークムントを愛している。あなたはジークムントを愛せと言ってきた、次に彼に敵対しろと言う。あなたの命令は聞けません。

ヴォータン

生意気な。ジークムントを倒せ、それがワルキューレの務めだ。

怒ったままヴォータンは立ち去る。

ブリュンヒルデ

あのような父を見たことはなかった。…哀れなヴェルズング(ジークムント)、お前に忠実であった私は、苦境にあるお前を見捨てなければならない。

第3場

ブリュンヒルデは、岩山に逃れてきたジークムントとジークリンデを見つける。馬と共に洞窟に入り二人の様子を隠れて見る。

ジークムント

少し休もう。

ジークリンデ

少しでも先に行かなければ。

ジークムント

これ以上はやめよう。ここまで少しも休憩しないで、君は黙ったまま走り続けた。休憩してもいいだろう。

ジークリンデ

離れて、汚れた私を捨てて。私は愛のない男の言いなりになってきた。私は汚れている。純真無垢なあなたの側にはいられない。

ジークムント

お前に不名誉をもたらした者がこれから血で償うのだ。敵を待とう。ここで彼は私の手にかかるだろう。

ジークリンデ

角笛が聞こえる。(夫の)フンディングが目覚めたのよ。彼は一族と犬を集めている。結婚の誓いが破られたことを天に訴えているわ。恐ろしい一団が近づいてくる。あなたの剣はあの犬には役に立たない。

ジークムント、どこにいるの?あなたが犬に襲われる光景が見える!兄さん、ジークムント!

ジークムント

妹よ、愛しい人!

ジークリンデは、ジークムントの腕に気絶する。

第4場

洞窟から二人を見ていたブリュンヒルデが出てくる。

ブリュンヒルデ

ジークムント、私を見なさい。私はあなたがもうすぐ従うべき者です。私の姿は死にゆく者にしか見えないのです。

ジークムント

私はどこに行くのですか?

ブリュンヒルデ

あなたを選んだ戦の父のもとに行きます。ヴァルハルに連れていくことになるでしょう。そこでは、戦場で名誉の死を遂げた戦士があなたを迎えます。

ジークムント

私の父、ヴェルゼに会えるでしょうか?

ブリュンヒルデ

ヴェルゼの子は、そこで父を見出すでしょう。

ジークムント

妹は共に行くことができますか?

ブリュンヒルデ

ジークリンデはまだ地上の空気を呼吸しなければなりません。

ジークムント

ヴァルハル、ヴォータン、ヴェルゼによろしくお伝えください。私は行きません。

ブリュンヒルデ

あなたは生きている限り自由ですが、死は有無を言わせません。私を死を告げるために来ました。

ジークムント

それなら誰が私を仕留めるのですか?

ブリュンヒルデ

フンディングがあなたを倒します。

ジークムント

脅すのならもう少しましにして下さい。私はあいつを一騎打ちで倒すつもりなのですよ。私にこの剣を与えくれた方は、剣に勝利を約束しました。

ブリュンヒルデ

(声を強めて)あなたに剣を与えた方が、あなたを死なせると決めたのです。

ジークムント

声を荒げるな、寝ている者がいる!(ジークリンデの上に被さり)かわいそうに。私はお前を守ることができない。なんてことだ。この剣をくれた者は勝利ではなく、侮辱を与えるというのか。死ぬ定めなら、ヴァルハルには行かない。地獄のヘラよ、私を捕まえてくれ。

ブリュンヒルデ

(感動して)神々の祝福を軽んじるのですか?…あの哀れな女が大事だと?

ジークムント

美しいが心は冷たい女よ、早く去って下さい。

ブリュンヒルデ

あなたの苦しみはわかります。あなたの妻を私に委ねてください。私が守ります。

ジークムント

私以外の誰にも彼女を触らせない。私が死ぬのなら、彼女を殺す。この剣は忠実な息子に、嘘つきが与えた剣だ。敵に役に立たないなら、二つの命を奪ってくれ。

ブリュンヒルデ

やめなさい。ヴェルズング。ジークリンデは生きよ、ジークムントも彼女とともに生きよ。決めました。戦の結末を変えます。

戦の合図です。準備を。安心して剣を振るいなさい。ワルキューレがあなたを守ります。

ブリュンヒルデが去り、ジークムントはそれを見送る。

第5場

まだ寝ているジークリンデ。雷雲が近づき、薄暗くなってくる。

ジークムント

眠りが魔法のように彼女の苦しみを押さえている。(戦いの呼び出しの角笛)戦いが終わり、お前を喜ばせるまで平和に眠っているといい。ノートゥングが決着をつける!

ジークムントは戦いに向かう。ジークリンデは、落雷で目を覚ます。戦いの角笛の音。ジークムントとフンディングの声が聞こえてくる。

フンディング(ジークリンデの夫)の声
不届きな間男め。フリッカにお前を倒してもらう。

ジークムント

ジークムントの声
お前の家の木の幹から、剣を引き抜いたぞ。この剣を味わうといい。

暗闇で戦う二人を雷光が照らす。

ジークリンデ

やめて。私を先に殺して。

戦う二人のもとにブリュンヒルデが現れて、ジークムントを助ける。

ブリュンヒルデ

彼を仕留めなさい、ジークムント。

ヴォータンが現れ、ジークムントの剣を自分の槍で折る。

ヴォータン

槍から下がれ、剣は砕けろ。

ジークムントの剣は折れ、その隙にフンディングに胸を突き刺されて倒れる。ジークムントの死を知り、ジークリンデの気絶。

ブリュンヒルデ

救ってあげるわ。

ブリュンヒルデがジークリンデを馬に乗せ去る。

ヴォータン

(フンディングに)行け。フリッカに、ヴォータンの槍がお前の恥を取り去ったと伝えろ。

神の力により、フンディングの死。

ヴォータン

(怒りに満ちて)ブリュンヒルデめ。生意気な娘には罰を与える。

雷がなり、ヴォータンは立ち去る。

ワルキューレ、オペラ:第3幕のあらすじ

第1場

ワルキューレの騎行 Der Ritt der Walkueren

岩山

岩山に、馬に乗ったワルキューレたちが現れる。

ホヨトーホー、ホヨトーホー!ハイアハー!

あなたの馬を私の隣にしなさいよ。二頭の馬は一緒に草を食べるのが好きよ。

二つの馬を離した方がいいわ。あなたたちが乗せているその勇者たちは敵同士だったのよ。

牡馬が牝馬に飛びかかろうとするわ。

人間たちの諍いが馬にも影響するのね。

ホヨトーホー、ホヨトーホー!ハイアハー!

森の中で馬を休ませましょう。

その二頭の馬は離しなさいよ。私たちの戦士の怒りが収まるまで。

戦士の怒りで馬がとばっちりね。

全員そろったのなら、ヴァルハルに行きましょう。

8人しかいないわ、一人足りない。ブリュンヒルデがヴェルズングのもとにいるのね。

ホヨトーホー!勢いよくブリュンヒルデがやってくるわ。

見て、戦士ではなく、馬に女を乗せている!

ワルキューレたちが、ブリュンヒルデを迎えに行く。

ブリュンヒルデ

私を守って、助けて!最大の危機よ!

8人のワルキューレたち
何があったの?何かに追われているみたいね。

ブリュンヒルデ

父に追われているの。誰か見張りをして!

2人のワルキューレが岩山の上で見張りをしに行く。

ブリュンヒルデ

この女を助けたいの。誰か馬を貸して。

6人のワルキューレたち
私の馬では父の馬から逃れられない。私は父に従うわ。

ジークリンデ

私を心配しないで。私に必要なのは死だけです。あの戦いで、ジークムントを殺した剣で一緒に死にたかったのです。

ブリュンヒルデ

愛のために生きるのです。あなたの胎内にはヴェルズングがいます。

見張りのワルキューレ
嵐が迫ってきているわ!

6人のワルキューレたち
その女と逃げなさい。私たちはその女を守ることはしない。

ジークリンデ

(ブリュンヒルデに跪いて)私を守って下さい。

ブリュンヒルデ

急いで一人で逃げなさい。私は残って、父の怒りを受け止めます。あなたは父の怒りから逃れるでしょう。

ジークリンデ

どこに行けばいいのでしょうか?

ブリュンヒルデ

妹たちの中で、東にさすらったことはある?

東には森が広がっている。巨人が大蛇に姿を変えて、ニーベルングの指輪を森の洞窟で守っているわ。女には恐ろしい場所よ。

ブリュンヒルデ

森ならヴォータンの怒りから、ジークリンデを守ってくれるに違いない。神であっても、森を恐れている。

見張りのワルキューレ
父が近づいてくる!

ブリュンヒルデ

急いで東に行きなさい。(剣の破片を渡し)その子のために、威力ある剣の破片を大事に持っていなさい。新たに作り直した剣をその子は振るうでしょう。彼はその名を私からもらうのです。ジークフリート、勝利を喜ぶ者。

ジークフリート(siegfried)…sieg(勝利)frieden(平和)…勝利を喜ぶ者

ジークリンデ

神聖な奇跡、気高い乙女。あなたが与えてくれた聖なる慰めに感謝します。さようなら。

ジークリンデは去り、遠くからヴォータンの声が聞こえてくる。

ヴォータン

ヴォータンの声
待て、ブリュンヒルト。

怒りを表すために、ブリュンヒルデをブリュンヒルトと呼んでいる。

ブリュンヒルデ

妹たち、助けて!

8人のワルキューレたち
隠れていなさい。

第2場

ワルキューレたちのもとに、ヴォータンが怒りに満ちてやってくる。

ヴォータン

ブリュンヒルデはどこだ?お前たちは悪い女を私から隠そうというのか?

8人のワルキューレたち
あなたの怒りで、ブリュンヒルデは怯えています。怒りを抑えてください。

ヴォータン

軟弱な女たちだ。私がお前たちの心を鍛え上げたのに。不実な娘を罰するのに、お前たちが泣くのか?彼女の犯した罪を聞くがいい。ブリュンヒルデほど、私の思いをわかっている者はいなかった。だが、私の命令に背いた。お前は卑怯にも罰を逃れようとするのか?

ブリュンヒルデ

私はここにいます。

ヴォータン

私がお前を罰するのではない。お前が罰を作り出したのだ。お前は私の意思で存在している。だが、お前は私の意思に逆らった。お前は私の申し子ではない。

ブリュンヒルデ

(驚いて)私を追放するのですか?

ヴォータン

お前をヴァルハルから送り出すことはない。永遠の神々の系統から追放される。

ブリュンヒルデ

私からすべてを奪うのですか?

ヴォータン

それは、いずれお前を手に入れる男がお前から奪うのだ。私はその男が現れるまでお前を山に縛り付ける。お前は無防備に眠りにつき、起こした男が乙女を手に入れる。

8人のワルキューレたち
やめてください、彼女に恥を与えないでください。私たちに彼女と同じ罰を与えて構いません。

ヴォータン

私の裁きを聞かなかったのか?不実な姉は追放されたのだ。これからは横柄な男に仕えて、かまどに座り糸を紡ぎ、あらゆる者からの蔑みに耐えるのだ。

ブリュンヒルデは叫び声をあげて倒れる。他のワルキューレたちは彼女から離れる。

ヴォータン

彼女の定めにおびえたか?それならばここから去るがいい。彼女の近くにいる者、かばう者がいれば、その者は彼女と運命を共にする。去れ!

8人のワルキューレたちは去っていく。

第3場

雷は収まり、夕方から夜になる。気絶したブリュンヒルデと、ヴォータンが残っている。

ブリュンヒルデ

私が犯した罪は恥ずべき事だったのですか?

ヴォータン

自らの行動が罪になったのだ。

ブリュンヒルデ

あなたの命令に従いました。

ヴォータン

ヴェルズングを助けよと命じたか?私は撤回したぞ。

ブリュンヒルデ

フリッカの手前のことで、本心ではありませんでした。

ヴォータン

(小声で)お前は私の本心がわかり、知ったかぶり故の反抗だと思っていた。それならば、罰を与えることはなかった。だが、お前は私を卑怯で愚鈍な者だと思ったのだ。

ブリュンヒルデ

私は賢くはありませんが、あなたはヴェルズングを愛していましたよね。あなたは一つのことに囚われて、ジークムントを庇護することを拒んだのです。

ジークムントに会わねばなりませんでした。彼の訴えと苦悩を聞き、私は恥じ入り、立ち尽くしました。勝利でも、死でも彼と共に分かち合おうと決めたのです。

ヴォータン

そのようにお前は決断したのだな。私が神々の危機に苦しんでいた時、お前は愛に感動していた。軽率な行いにより、お前は私に別れを告げた。

ブリュンヒルデ

愚かな娘はあなたのお役に立たなかったのでしょうね。私を手に入れる男は優れた者であってほしいのです。私はあなたの血筋を守りました。ジークリンデには尊い子が宿っています。彼女はあなたが与えた剣を大事に持っています。

ヴォータン

それは、私が粉々にしたものだ。私の心を乱そうとするな。刑を執行せねばならない。深い眠りに閉じ込め、目覚めさせた男がお前を妻とするのだ。

ブリュンヒルデ

一つだけは聞き届けて下さい。岩山を炎で囲うのです。この岩山に卑怯な男が近づかないように。

ヴォータン

さようなら、大胆で気高い我が子。花嫁のために引き出物の炎を燃やすことにしよう。岩山に炎が巡り、臆病者を追い払うだろう。ただ一人神よりも自由な男が、花嫁に求婚するのだ。

「ヴォータンの告別」Leb’ wohl, du kühnes, herrliches Kind!

ブリュンヒルデは感動して、ヴォータンの胸に抱かれる。

ヴォータン

輝く両目は、私に優しく微笑みかけ、大切にしていた。いまや、最後の祈りだ。別れの口づけだ。この瞳は、幸運な男のために輝け。神はお前に休みを与え、神性を口づけにより抜き取る。

「輝く両目よ」Der Augen leuchtendes Paar

ヴォータンはブリュンヒルデの瞼に長い口づけをする。岩山に横たえ、体をワルキューレの盾で覆う。

ヴォータン

ローゲ、聞け。私が最初にお前を見つけたとき炎だったが、私から離れたときも炎だった。お前を呪縛する。炎よ、岩山を火で囲め。(岩を槍で三度叩く)ローゲ、ローゲ、やってこい。

「ローゲ、聞け」Loge, hör’! Lausche hieher!

岩から火が上がり、炎がブリュンヒルデを取り囲む。

ヴォータン

槍の切っ先を恐れる者はこの炎を越えてはならない。

横たわるブリュンヒルデを見て、ヴォータンは去る。

ニーベルングの指環 …オペラの全体像がわかる

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