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【運命の力】簡単なあらすじと相関図

運命の力, オペラ, ヴェルディ

ヴェルディの「運命の力」は、過酷な運命に翻弄される公爵の娘レオノーラと複雑な出自を持つアルヴァーロ、復讐心に燃えるレオノーラの兄カルロという、3人の運命が悲劇的に描かれているオペラです。初演版では絶望のあまりアルヴァーロが自殺して幕を閉じましたが、改訂版では、初演の結末のままだとあまりに暗い内容になってしまうため、結末を変えてオペラが作られました。運命の力の見どころは、序曲「天使の中の聖母」La Vergine degli Angeli「平和を神よ」Pace, pace, mio Dio!「天使に抱かれた君よ」O tu che seno agli angeliなどがあります。

目次

運命の力、オペラ:人物相関図

運命の力、オペラ:人物相関図
運命の力、オペラ:人物相関図

運命の力、オペラ:登場人物

ドンナ・レオノーラ侯爵の娘ソプラノ
ドン・アルヴァーロインカ帝国の末裔テノール
ドン・カルロレオノーラの兄バリトン
グァルディアーノ神父修道院長バス
プレツィオジッラジプシー女メゾソプラノ
メリトーネ修道士バリトン
運命の力、オペラ:登場人物
  • 原題:La Forza del Destino
  • 言語:イタリア語
  • 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
  • 台本:初版:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ
    • 改訂版:アントーニオ・ギスランツォーニ
  • 原作:リヴァス侯ドン・アンヘル・デ・サーヴェドラの戯曲「ドン・アルヴァーロ、または運命の力」、フリードリヒ・フォン・シラーの戯曲「ヴァレンシュタインの陣営」
  • 初演:1862年11月10日サンクトペテルブルグ マリインスキー劇場
  • 上演時間:2時間45分(第1幕25分 第2幕50分 第3幕55分 第4幕35分)

運命の力、オペラ:簡単なあらすじ

レオノーラとアルヴァーロは愛し合っている。しかし、彼女の父親は二人の交際を反対している。駆け落ちしようとしたとき、アルヴァーロの銃が暴発し、彼女の父親は死んでしまう。逃避行の最中、ふたりは離れ離れになってしまう。

レオノーラの兄カルロはふたりを探し回る。絶望したレオノーラは修道院の洞窟に引きこもる。アルヴァーロは身分を隠して戦場へ。そこでカルロとアルヴァーロは友人になる。カルロはアルヴァーロが妹の恋人であることを知る。二人は決闘するが、仲間に止められる。

5年後、カルロは修道院でアルヴァーロを見つけ、再び決闘の申し入れをする。アルヴァーロはやむなく引き受ける。カルロは重傷を負う。アルヴァーロは助けを求めに洞窟へ行くと、そこにはレオノーラがいた。レオノーラは瀕死のカルロのもとに駆けつける。レオノーラはカルロによって刺殺される。

運命の力、オペラ:序曲

「運命の力」の序曲は、ヴェルディの最後の序曲として有名であり、単独で演奏される機会が多いです。金管が主音を3度鳴らして始まります。オペラの中で流れる複数の音楽がうまく使用され、作品全体の流れを聞くことができます。ヴェルディの「運命の力」以降のオペラ(ドン・カルロ以降)では、序曲は使用されなくなり、前奏曲もアイーダだけになります。

ナブッコ序曲
マクベス前奏曲
リゴレット前奏曲
トロヴァトーレなし
椿姫前奏曲
シモン・ボッカネグラ初版・前奏曲 改訂版・なし
仮面舞踏会前奏曲
運命の力序曲
ドン・カルロなし
アイーダ前奏曲
オテロなし
ファルスタフなし

運命の力、オペラ:第1幕のあらすじ

スペインのセビリア、侯爵の屋敷

夜、レオノーラの部屋。カラトラーヴァ侯爵が娘のレオノーラに挨拶に来る。部屋の奥には、女中がひとり控えている。

父(カラトラーヴァ侯爵)
おやすみ。まだ窓が開いているな。

侯爵は窓を閉じる。

レオノーラ

(心苦しい。)お父さん。

父(カラトラーヴァ侯爵)
なぜ悲しそうにしている?田舎の澄んだ空気は、お前の心に平和を与えたのだよ。お前は自分にふさわしくない人物から逃れたのだ。私に未来を託しなさい。お前を愛している父を信じなさい。

レオノーラ

(後悔しそう。)お父さん。

レオノーラは泣いて父の胸に飛び込む。おやすみの挨拶をして、侯爵が部屋を出ていく。泣いているレオノーラのもとに、女中が近づく。

女中(クルラ)
侯爵様が明日までここにいるのでは、と心配しました。(窓を開ける。)準備を整えて出発しましょう。

レオノーラ

愛しいお父さん。お父さんは私の望みを嫌がるのでしょうね。ここを去ると決めたのに、決心がつかない。

先ほどのお父さんの言葉は私の心に短剣のように刺さった。あのままお父さんがここに残っていたら、真実を言ったかもしれない。

女中(クルラ)
(働くのをやめて)そうすれば、明日には、アルヴァーロ様は血の中にいるでしょう。セビリアの囚人になり、その後は絞首台へ。

それもこれも、彼が愛してはくれない人を愛したからです。

レオノーラ

私が彼を愛していないですって?私がどれだけ彼を愛しているのかをあなたは知っているでしょう。彼のために、故郷、家族、父を捨てるのよ。

私は自分の生まれ育った場所を離れて、巡礼者であり孤児になる。どうしようもない運命が私を見知らぬ岸辺へと運んでいく。

「私を放浪の孤児にしようと」Me, pellegrina ed orfana

女中(クルラ)
手伝ってください。急いで準備をしましょう。

レオノーラ

もし彼が来なかったら?遅いわね。もう真夜中よ。

女中(クルラ)
馬の踏みつける音です。

レオノーラ

彼だわ!

レオノーラがバルコニーへ駆けよる。アルヴァーロが、窓を開けていたバルコニーから部屋に入る。

アルヴァーロ

永遠に、私の天使よ。天が私たちを結び付け、宇宙が私たちの抱擁を喜んでいる。

「二重唱」Ah, per sempre, o mio bell’angiol

レオノーラ

アルヴァーロ。

アルヴァーロ

何があなたを動揺させているのか?

長い間、あなたの屋敷には千の障害があり、私が入ることを妨げていた。だが、純粋で神聖な愛の魔法には、何も逆らえないのだ。

(女中クルラに)バルコニーから彼女の服を投げてくれ。

レオノーラ

(女中クルラに)やめて。

アルヴァーロ

このような牢獄は出ていこう。

レオノーラ

どうしたらいいのかわからない。

アルヴァーロ

用意した馬はすでに待ち、祭壇には司祭が待っている。太陽、インディオの神、私の王家の血筋の主が、世界を輝きで満たすとき、新郎新婦になるのだ。

レオノーラ

明日に…。明日に出発します。もう一度私の父に会いたいのです。あなたは私を愛していて、私の決断に反対しませんよね。私もあなたを愛しています。愛しています!

アルヴァーロ

全てを理解しました。私が苦しみましょう。無理な結婚は、私たちに死をもたらします。

レオノーラ

私はあなたのもの。最後まであなたについていきます。あなたに従います。私たちの運命を分けることはできません。

二人がバルコニーから外に出ようとすると、部屋の外から物音が響く。

女中(クルラ)
階段を上がる音です。

レオノーラ

(アルヴァーロに)あなたは身を隠してください。

アルヴァーロ

(銃を抜き)いいえ、あなたを守ります。

レオノーラ

武器をしまってください。私の父に向けるのですか?

アルヴァーロ

いいえ、自分に向けるのです。

レオノーラ

恐ろしい。

カラトラーヴァ侯爵が剣を持ち、ふたりの従者を連れて入る。

父(カラトラーヴァ侯爵)
誘惑者よ!悪名高い娘よ!

レオノーラ

お父さん。

父(カラトラーヴァ侯爵)
父という者は、ここにいない。

アルヴァーロ

私ひとりの罪です。私に復讐してください。

父(カラトラーヴァ侯爵)
お前の行動は、忌まわしい出自がやったことだとわかっている。

アルヴァーロ

(怒って)侯爵!(銃を抜いて)動く者がいれば、災いになる。

レオノーラ

(アルヴァーロに駆け寄り)何をするの?

アルヴァーロ

あなたの娘は天使のように純粋だ。私が罪深いのです。私の人生を終わらせてください。

父(カラトラーヴァ侯爵)
私の手で死ぬだと。死刑執行人の手で命を消してやろう。

アルヴァーロ

私は無力です。

アルヴァーロが銃を投げ捨てると暴発して、侯爵に致命傷を与えた。

アルヴァーロ

(絶望して)不吉な武器よ。

レオノーラ

(侯爵に駆け寄り)お父さん。

父(カラトラーヴァ侯爵)
私から離れろ。お前の姿は私の死を汚す。お前たちを呪う。

二人の従者が、侯爵の遺体を運ぶ。アルヴァーロは嘆くレオノーラを連れて出ていく。

この後、レオノーラとアルヴァーロは逃亡の際に離れ離れになる。

運命の力、オペラ:第2幕のあらすじ

第1場

スペインの村、宿屋にある食堂

夕方、食堂の人々は夕食の準備をしている。学生に扮装したドン・カルロや農民がテーブルにつき、酒を飲んでいる。農民たちが躍っている。

農民たち
夕食だ!夕食だ!

カルロ

(私は妹と誘惑者を無駄に探すのか。)

村長
(カルロに)こちらの学生さんに、食事の祈りをお願いしよう。

男装したレオノーラが二階の宿屋から食堂に入り、兄カルロを見つける。レオノーラと同時に、ラバ曳きの親方(トラブーコ)が食堂に入る。

レオノーラ

(私の兄!)

慌ててレオノーラは引き返す。食事が始まり、カルロはラバ曳きの親方に質問する。

カルロ

(ラバ曳きの親方に)先ほど一緒に入ってきた小柄な人は?

質問途中で、騒々しくジプシー女プレツィオジッラが食堂に入る。

全員
運命を占える女だ。

ジプシー女(プレツィオジッラ)
儲けたい人はいない?兵士になるんだ。ドイツと戦うイタリアへ。

全員
死を。ドイツ人に。

ジプシー女(プレツィオジッラ)
太鼓の響きに、馬の活気、ざわめく戦場、士気は高揚する。戦争万歳。臆病者は忘れられ、勇気ある兵士には名誉と栄光が褒美になる

カルロ

(手を出して)私のような学生に、何が予想できる?

ジプシー女(プレツィオジッラ)
あんたはみじめな出来事を起こすだろう。(小声で)私はあんたを信用しない。学生ではないね。何も言わないよ。でも私をだまそうだなんて無理よ。トララララ!

食堂の外から、巡礼者の歌が聞こえる。

巡礼者らの声
永遠の父なる主よ。私たちに憐れみを。

「合唱」Padre Eterno Signor

全員
彼らは何者?

村長
巡礼者だ。

陰から様子を伺う、レオノーラ。

レオノーラ

(逃げることができれば。)

全員
巡礼者とともに祈ろう。

レオノーラ

(私の血を求める兄から私をお救い下さい。誰も私を救ってくれない。神よ、憐れみを。)

カルロは再びラバ曳きの親方に質問する。

カルロ

トラブーコ親方に聞きたい。先ほど見かけた小柄な人も巡礼なのか?女性なのか男性なのか?

ラバ曳きの親方(トラブーコ)
私は客が金さえ払えば、ラバに乗せる旅人の素性など気にしないよ。あんたしつこいな。今日は馬屋で寝よう。

トラブーコは食堂を出ていく。

カルロ

小柄な奴にはひげがないから、口ひげを二本つけてやろう。

全員
いいぞ、いいぞ。

村長
私は旅人を守る立場なので、それには反対だ。それよりも、君は何者だ?

カルロ

私はペレーダ。学生でもうすぐ博士になるところだ。1年前、友人ヴァルガスが訪ねてきてしばらく休学していた。

これは友人ヴァルガスの話だ。彼の妹は異国の者と恋に落ち、父親を殺した。友人は妹と異国の者に復讐を誓った。私は友人のために心を痛めた。しばらくして、彼は犯人を追ってアメリカに渡った。そして、私ペレーダは学生に戻ったのだ。

「私はペレーダ」Son Pereda

村長
きちんとした人だ。

ジプシー女(プレツィオジッラ)
侯爵は殺された?殺人者は妹を誘拐した?でも私をだまそうだなんて無理よ。トララララ!

夕食が終わり、人々が食堂から出ていく。

第2場

スペイン、山中にある修道院

夜、月明かりの中、男装したレオノーラが修道院にたどり着く。

レオノーラ

到着しました。神様、ありがとう。ここが私の終の棲家になるでしょう。私の兄が語っていた恐ろしい話。アルヴァーロは大西洋に向かったと。彼は生きていたのね。あの夜に離れ離れになった。私を置いていくなんて。憐れみの聖母よ。私の罪を許してください。

「憐れみの聖母」Madre, pietosa Vergine

レオノーラは、修道院の呼び鈴を鳴らす。扉の小窓が開き、修道士と会話する。

レオノーラ

修道院長をお願いします。

修道士(メリトーネ)
教会は五時に開きます。

レオノーラ

クレト神父の紹介です。緊急なのです。

修道士(メリトーネ)
クレト神父が!扉を開けましょう。入りなさい。

レオノーラ

できません。

修道士は不審がりながらも、修道院長を呼びにいく。修道院長グァルディアーノ神父が来る。

グァルディアーノ神父

誰が私を求めるのか?

レオノーラ

私です。秘密の…

グァルディアーノ神父

(修道士に)去りなさい。さあ、私たちだけだ。

レオノーラ

私は女性です。地と天に呪われています。私を地獄から救い出してほしいのです。

グァルディアーノ神父

私のような哀れな修道士に何ができようか。

レオノーラ

クレト神父はあなたに手紙を送りましたか?

グァルディアーノ神父

(驚いて)あなたがレオノーラなのか。さあ、十字架に向かってください。天の声があなたの心を励ますでしょう。

レオノーラは十字架の前にひざまずく。

レオノーラ

この地に訪れてから心は静まっています。血を流す父の幻影が見えません。娘を呪う恐ろしい父の声が聞こえません。だから、ここを私の墓としたいのです。ある女性が住んでいたという岩の間に。

グァルディアーノ神父

ご存じなのですか?

レオノーラ

クレト神父がそう言ったのです。

グァルディアーノ神父

あなたの望みは?

レオノーラ

神に身を捧げます。

グァルディアーノ神父

自分を欺く者に災いあれ。一瞬の気の迷いでしかないのです。若いあなたにはもっと致命的な悔い改めが訪れるでしょう。

あなたの心を不変のものにすることができますか?あなたの恋人は?

レオノーラ

彼は、意図せずに私の父を殺しました。

グァルディアーノ神父

あなたの兄は?

レオノーラ

兄は、自分の手で私の死をと誓っています。

グァルディアーノ神父

女子修道院の聖なる扉があなたには良いでしょう。

レオノーラ

女子修道院!いいえ。悔い改めた者を追い出すなら、岩山に入ります。私は山に避難し、森で食べ物を求めます。獣でさえ同情するでしょう。

グァルディアーノ神父

慈悲深い神よ、哀れな者のための神よ。あなたの意思は満たされるでしょう。誓いは固いですか?

レオノーラ

固いです。

グァルディアーノ神父

あなたが誰であるかは、私だけが知っています。崖の間には窪みがあります。7日おきに、わずかな食べ物を私自身があなたに運びます。

修道士(メリトーネ)が呼ばれる。

グァルディアーノ神父

(修道士に)ほかの兄弟たちに、祭壇に集まるように伝えなさい。

(レオノーラに)あなたは夜明けに洞窟に入りなさい。その前に、天使の糧で魂を慰めなさい。新しい道を、神は助けてくれるでしょう。

グァルディアーノ神父と修道士たちによって、レオノーラに儀式が行われる。

グァルディアーノ神父

祝福あれ。嘆く者が崖の間に避難所を求めている。聖なる避難所に誰も近づいてはいけない。

修道士たち
私たちはそれに従います。

グァルディアーノ神父

(レオノーラに)さあ立つのです。生きている者を見ることはないでしょう。あなたに危険があるときは、洞窟にある鐘を鳴らしてください。

レオノーラ

天使の中の聖母様よ、私をマントでお包みください。私を見守り下さい。

「天使の中の聖母」La Vergine degli Angeli

レオノーラは、ひとりで洞窟に入っていく。

運命の力、オペラ:第3幕のあらすじ

第1場

イタリア・ヴェッレトリの野営地

夜の森。ドン・アルヴァーロは身分を偽りスペイン軍の兵士としてイタリアに従軍している。野営地で、兵士たちは賭けをしているが、アルヴァーロは物思いに沈んでいる。

アルヴァーロ

不幸な者の人生は地獄だ。レオノーラ。あの夜を思い出すとつらい。

かつて、私の父は異国からの支配を排除しようと望んだ。そのために、インカ帝国の最後の王女と結婚した。だが、それは無駄だった。私は牢で産まれ、見捨てられて育った。私が生きているのは、王家の血筋だと知られなかったからだ。

「不幸な者の人生は地獄」La vita è inferno all’infelice

天使に抱かれた君よ。あなたはあの世に旅立ってしまった。私は疲れ果て、死に出会うことを求めている。レオノーラ、私を憐れんでくれ。

「天使に抱かれた君よ」O tu che seno agli angeli

歌詞と対訳

「君は天使の腕に抱かれて」O tu che seno agli angeli|運命の力

喧嘩騒ぎの声が聞こえてくる。

カルロ

(カルロの声)卑怯者!

アルヴァーロ

なんだろう。助けに行こう。

騒動にアルヴァーロは駆けつけ、カルロを助ける。

アルヴァーロ

大丈夫か?ここは野営地なのになぜ?

カルロ

実は、賭けで口論になった。

アルヴァーロ

そうか。だが、あなたは高貴な方に見えるのに、なぜ賭けを?

カルロ

私は来たばかりで不慣れなんだ。昨日、将軍の命令でここに来たのだ。君に命を救われたので、友情を結びたい。

互いに偽名を名乗り、握手をする。

アルヴァーロとカルロ
生死にかかわらず友であることを、世界は見るだろう。

「二重唱」Amici in vita e in morte

遠くから戦闘を告げるラッパが聞こえてくる。2人は武器を手に取り、戦場へ走った。

第2場

将校の宿舎

朝。戦で負傷し、意識を失ったアルヴァーロが野営地に運ばれてくる。軍医やカルロが付き添っている。

軍医
胸の傷が思わしくないな。

アルヴァーロ

(意識を取り戻し)ここはどこだ?

カルロ

友人のそばだ。きっと救って見せる。カラトラーヴァの褒美は君のものだ。

アルヴァーロ

カラトラーヴァ!決して、決していりません。

レオノーラは、カラトラーヴァ侯爵の娘。

カルロ

(なぜカラトラーヴァの名前におびえるのだ?)

アルヴァーロ

友と話したい。(軍医に)ふたりにしてくれ。

軍医は出ていく。

アルヴァーロ

この厳粛な時に、私に誓ってほしい。私との誓いを果たすことを。

カルロ

誓おう。

アルヴァーロ

私の胸に鍵がある。(自分の荷物を指差し)鍵のかかった小箱の中に封筒がある。私が死んだとき、それを燃やしてほしい。

カルロ

誓ってそのようにする。

アルヴァーロは、軍医と兵士によって負傷者用のベッドに運ばれる。ひとり残ったカルロ。

カルロ

死ぬ。彼のような勇敢な者でも死ぬのか。だが、彼はカストラーヴァの名前に震えていた。もしかして、彼が妹の誘惑者なのか。

(荷物の中から小箱を取り出す。)
これが封筒か。だが、私は誓った。誰も見ていないが、私がその行いを見ている。

(封筒を下に落として)
この中には、私の運命がある。不名誉を洗い流すためにここに来たのに、新たな恥をさらすことになる。誓いは名誉ある者には神聖なのだ。封筒には謎を残しておこう。ほかの証拠があるかも?

(荷物をあさる。)
肖像画がある。彼は何も言わなかった。開けてみよう。ああ、レオノーラだ。彼がアルヴァーロ。彼は生きていて、これから私の手で死ぬ!

「この中に私の運命がある」Urna fatale del mio destino

軍医
助かったぞ。

カルロ

彼が助かった。私は復讐できる。悪名高い男に復讐できる。レオノーラ、どこに隠れているのか?なんて幸せなことだろうか、剣で二人を地獄に送ることができるなら。

「彼が助かった」Egli è salvo!

第3場

野営地

夜の野営地。多くの屋台が並んでいるが、辺りは静か。

兵士たち
同志たちよ、一息入れよう。野営地を見て回ろう。物音はなく、光もない。同志たちよ、進むのだ。もうすぐ起床の合図が鳴るのが聞こえるだろう。

「合唱」Compagni, sostiamo

夜明け、アルヴァーロがひとり。

アルヴァーロ

平和な時間を味わうこともできない。私の魂は残酷な戦いで疲れている。私が天に平和と忘却を求めても、無駄なことだ。

「心が休まらない」Né gustare m’ è dato un’ ora di quiete

アルヴァーロのもとに、カルロが現れる。

カルロ

傷は完治したのか?決闘を受けられるか?

アルヴァーロ

誰との決闘?

カルロ

言伝は届いていないのか?インディオのアルヴァーロ。

アルヴァーロ

卑怯者。裏切ったのか。

カルロ

封筒は見ていない。だが、肖像画を見た。ここを出て決闘だ。

アルヴァーロ

私があなたの父親を死なせたのではない、運命だった。あの晩、私は怪我を負い、レオノーラを見失った。行方を捜したが、亡くなったとわかった。

カルロ

いいや、妹は身内の修道院を頼ったのだ。私はそこに駆けつけたが、すでにいなかった。

アルヴァーロ

レオノーラは生きている。ならば、一緒に探そう。

カルロ

なぜお前と?お前を亡き者にした後、その次は妹だ。あいつは自らの血で償うのだ。

アルヴァーロ

黙れ!私の剣で、レオノーラを狙う暗殺者を消そう。

アルヴァーロとカルロは、剣を抜いて戦う。野営地の警備隊が駆けつけて、二人を引き離す。

カルロ

(引き離されながら、アルヴァーロに)我が父の死刑執行人め。

アルヴァーロ

私に何が残ったのだろう?慈悲深い神よ。修道院の祭壇へ、戦士は忘却と平和を求めよう。

警備兵によって、ふたりは引き離されていく。


日が昇り、太鼓とトランペットで起床の合図。スペインやイタリアの兵士がテントから出てくる。酒、果物、パンなどの物売りが野営地を回る。ジプシー女のプレツィオジッラが現れる。

ジプシー女(プレツィオジッラ)
占い師のもとにおいで。遠くから来たんだ。謎を解き明かし、未来を見よう。

ラバ曳きだったトラブーコ親方が、兵士相手に物売りになっている。

物売り(トラブーコ)
安く買いたい人はいないかい?はさみに、ピン、石鹸。なんでも売ったり買ったりするぞ。どんな商売でもやるよ。

兵士ら
「宝石があるが、いくらで売れるか?」
「ネックレスは売れるか?」
「お金を出して買ってくれるのか?」

物売り(トラブーコ)
どれもガラクタだな。だが、サービスで買取価格に少し足そう。(取引成立)なんとお得なんだろう。さあ、安く買いたい人はいないかね。

子供を抱えて、物乞いをする農夫たちが現れる。野営地に連れられてきた、不安そうな新兵たちが来る。

ジプシー女(プレツィオジッラ)
泣くんじゃないよ、若者よ。新しい恋人ができるよ。勇気を持て。

女たちと新兵たちが躍っている。慰問に訪れた修道士(メリトーネ)が来る。

修道士(メリトーネ)
なんて騒ぎだ。皆さんの傷を癒すために、私はスペインから来たのに。聖なる日曜日を、兵士たちが冒涜している。けしからん。

イタリア兵士たち
悪名高い修道士!つかまえろ。

スペイン兵士たち
神父様。逃げてください。

修道士のメリトーネが逃げていく。

ジプシー女(プレツィオジッラ)
(修道士を追いかける兵士たちに)彼を行かせてあげなさい。神父と戦争するつもり!それなら、見事だね!太鼓であんたたちを守ってあげよう。

プレツィオジッラが太鼓をたたく真似をする。彼女に続いて、他の人も太鼓をたたく。群衆や兵士たちが彼女を取り囲む。

ジプシー女(プレツィオジッラ)
ラタプラン、ラタプラン、栄光の!兵士の中に熱情が戻ってくる。
勝利のラタプラン、ラタプラン!この音は、勝利の合図。

「ラタプラン」Rataplan

ラタプラン(Rataplan)…フランス語で太鼓の音「ドンドン」を表す

運命の力、オペラ:第4幕のあらすじ

第1場

スペイン、修道院の中庭

木々が植わる中庭。グァルディアーノ神父は、聖書を読みながら厳粛に歩いている。粗末な椀や容器、皿などを持った老若男女の物乞いの群れが入ってくる。修道士のメリトーネが大きな鍋を抱えて庭に来る。

修道士(メリトーネ)
ここは居酒屋なのか!静かにしろ!

乞食の女
もっとくれ。私には子供がたくさんいる。

修道士(メリトーネ)
なぜそのように子だくさんなのか。私のように戒律を守って夜を過ごせば、神は子をたくさん授けることはない。物乞いは繁殖力がすごいな。

グァルディアーノ神父

慈善事業を行いなさい。

乞食たち
ラファエル神父は、たくさんの施しをしてくれた!

ラファエル神父…アルヴァーロ。名前を隠して修道院にいる。

修道士(メリトーネ)
ああ、彼は8日はこの仕事を引き受けてくれたが、今は部屋にこもっている。私に面倒な仕事を押し付けるなんて。そんな悪党にいい言葉をかけるのか。

乞食たち
天使のようだった。まるで聖人。ラファエル神父は優しかった!

修道士(メリトーネ)
なんだと、出ていけ!

修道士のメリトーネは怒って、乞食たちを中庭から追い出す。

修道士(メリトーネ)
ああ、これ以上我慢できません。

グァルディアーノ神父

慈善活動をすることで、義務を果たすのです。謙虚になりなさい。ラファエル神父が人々に好まれても、気にしないことです。

修道士(メリトーネ)
私は彼の友人ですが、よく独り言を言っていて少し変です。それに彼はたまに鋭い目つきをしますね。

昨日、冗談で「あなたはムラート(白人と黒人の混血)みたいですね。」と言ったら、外に飛び出て叫んでいました。彼は奇妙な神父です。

グァルディアーノ神父

世界に幻滅し、ゆるしの苦行をしているのです。徹夜と禁欲により、彼の魂が混乱しているのでしょう。

修道院の門の鐘が鳴る。グァルディアーノ神父は去り、修道士メリトーネが門を開けに行く。

カルロ

ラファエル神父を。騎士が来たと伝えろ。

修道士(メリトーネ)
なんて横柄な態度。

メリトーネが、ラファエル神父であるアルヴァーロを呼びに行く。

カルロ

アルヴァーロ、お前が偽善的な装いで世間から身を隠しても、無駄だったのだ。お前の血だけが、私の怒りを洗い流してくれる。

神父の格好をした、アルヴァーロがやってくる。

アルヴァーロ

ドン・カルロ。あなたは生きていたのか?

カルロ

5年間探して、ついに見つけた。お前の血によってのみ、お前の悪名と罪を洗い流せる。運命の書には、私がお前を罰すると書かれているのだ。

アルヴァーロ

この庵と衣服が告げるだろう。罪を償っているのだと。私は悔い改めており、このままにしておいてほしいのです。

カルロ

お前は私の名を汚した。お前が裏切り見捨てた妹を私に残すことで。

アルヴァーロ

いいや、私は彼女を愛していた。そしてまだ愛している。もし彼女が私を愛しているなら、望むものはない。

カルロ

私の怒りは収まらない。武器を手に取れ。

アルヴァーロはカルロにひざまずく。

アルヴァーロ

後悔と涙があなたに語り掛けるでしょう。

カルロ

その行為でお前の汚れた出自が明らかだな。ムラートの血で汚れている。

アルヴァーロ

(これ以上抑えきれずに)武器を手に取れ。外に出ろ。いや、地獄が勝つことはない。ここを出ていけ。

カルロ

臆病者め。心がないのか。お前に不名誉を与えよう。

カルロはアルヴァーロを平手打ちする。

アルヴァーロ

運命は決まった。死だ。

互いに武器を手に取り、出ていく。

第2場

洞穴

薄暗くなり、月が見える。レオノーラが洞窟の外に出てくる。

レオノーラ

平和よ。私の神よ。残酷な不幸に苦しんでいます。長い年月の間、私の苦しみは深いのです。彼を愛していました。そして今でも彼を愛しています。彼の姿が私の心から奪われることはありません。

「神よ平和を与えたまえ」Pace, pace, mio Dio!

歌詞と対訳

「神よ平和を与えたまえ」Pace, pace, mio Dio!|運命の力

洞窟に戻り、鍵をかける。舞台裏から剣のぶつかり合う音が聞こえる。

カルロ

(舞台裏から声だけ)私は死ぬ。最後の告解を。魂を救ってくれ。

洞窟の近くにアルヴァーロが現れる。洞窟の扉をノックする。

アルヴァーロ

またもや、血が流れてしまった。ここには隠者がいたはずだ。死にゆく者を慰めてくれ。

レオノーラ

(洞窟の中から)できません。

彼女はグァルディアーノ神父に緊急を伝える鐘を鳴らす。アルヴァーロが必死に頼むので、彼女は外に出てくる。

レオノーラ

恐れ知らずの方よ、天の怒りから逃れなさい。

アルヴァーロ

女性なのか?レオノーラ。

レオノーラ

再び会えるなんて。

アルヴァーロ

離れて。私のこの手は血が滴っている。あそこに死にかけた男が。私は戦いを避けるためにあらゆることをした。修道院で日々を過ごしていた。だが、彼は私を追いかけ、侮辱した。私が彼を殺した。

レオノーラ

誰なのですか?

アルヴァーロ

あなたの兄だ。

レオノーラは森に入っていき、舞台裏に行く。

アルヴァーロ

なんと不幸な運命。私を嘲笑しているのだろうか。レオノーラは生きていて再び会えたのに、彼女の兄の血を流してしまった。

舞台裏でレオノーラの悲鳴。

アルヴァーロ

叫び声!何が起こったのか!

兄によって負傷させられたレオノーラが、グァルディアーノ神父に支えられて戻ってくる。

レオノーラ

最期の時になっても、兄は私を許さなかった。私の血で恥を討ったのです。

アルヴァーロ

神の復讐よ、呪ってやる。

グァルディアーノ神父

呪ってはいけない。ご覧なさい。天使が神のもとへ飛び立つのです。

レオノーラ

泣いて祈っています。神にあなたの許しを求めます。

アルヴァーロ

私は呪われた者だ。二人の間には血がある。

グァルディアーノ神父

ひれ伏しなさい。

レオノーラ

神にあなたの許しを求めます。

アルヴァーロ

レオノーラ、私は贖われました、天から私は許されたのです!

レオノーラと神父
神を称えなさい。

レオノーラ

幸せな今、私はあなたより先に約束の地へ行きます。そこでは、戦争が終わり、愛は聖なるものとなる。

「三重唱」Lieta or poss’io precederti

アルヴァーロ

あなたは私を置いていく。罪のある私が罰せられないなんて。

グァルディアーノ神父

殉教なのです。彼女を主のもとへ昇天させよう。彼女の死があなたに信仰と憐れみを教えてくださいますように。

レオノーラ

天国でお待ちしています。

アルヴァーロ

死んだ。

グァルディアーノ神父

彼女は神に向かって昇った。

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