ジョルダーノのオペラ「アンドレア・シェニエ」は、フランス革命前後の人々が描かれています。実在のフランスの詩人「アンドレ・シェニエ」(フランス語読みでは、アンドレ)が題材のオペラです。
詩人のアンドレア・シェニエ、没落する伯爵令嬢のマッダレーナ、伯爵家の使用人で後に革命政府の一員になるジェラール。3人の心の動きが描かれた、ヴェリズモ・オペラです。
「アンドレア・シェニエ」の見どころ、聴きどころとしては、「ある日青空を眺めて」Un dì all’azzurro spazio、「五月の美しい日のように」Come un bel dì di maggio があります。
オペラ「アンドレア・シェニエ」の相関図

オペラ「アンドレア・シェニエ」の登場人物
アンドレア・シェニエ | 詩人 | テノール |
マッダレーナ | 伯爵家の令嬢 | ソプラノ |
ジェラール | 伯爵家の召使い、後に革命政府の役人 | バリトン |
ベルシ | マッダレーナの侍女 | メゾソプラノ | |
ルーシェ | シェニエの友人 | バス |
オペラ「アンドレア・シェニエ」の基本情報
- 題名 Andrea Chénier アンドレア・シェニエ
- 作曲 ウンベルト・ジョルダーノ
- 初演 1896年3月28日 ミラノ・スカラ座
- 原作 ジュール・バルビエ「アンドレア・シェニエ」
ポール・ディモフ「アンドレア・シェニエの生涯と作品」 - 台本 ルイージ・イリッカ
- 言語 イタリア語
- 上演時間 2時間(第1幕30分 第2幕30分 第3幕40分 第4幕20分)
オペラ「アンドレア・シェニエ」の簡単なあらすじ
フランス革命前、詩人のアンドレア・シェニエとマッダレーナは、伯爵家の晩餐会で知り合う。伯爵家の使用人ジェラールが騒ぎを起こすが、人々は意に介さない。
5年後、伯爵家は没落し、シェニエは革命後のフランス政府から追われる身となっていた。マッダレーナとシェニエは再び出会う。シェニエは裁判にかけられ、死刑を宣告される。マッダレーナは彼と共に死ぬことを選択する。
オペラ「アンドレア・シェニエ」第1幕のあらすじ
パリ郊外・伯爵家
今夜行われる舞踏会の準備をしている、召使いたち。忙しく働く父を見て嘆く、伯爵家の召使いジェラール。

(貴族が座っている椅子に向かって)お前は知っているのだろう。着飾った者たちの気取った会話を。
年老いた父さん。あなたは傲慢な者たちに仕えてきた。まだ苦しみが足りないとばかりに、同じ苦しみを子供にも受け継がせたのだ。
「お前は知っている」Compiacente a’ colloqui
ジェラールの側を、伯爵夫人、伯爵令嬢のマッダレーナ、マッダレーナの侍女が通りかかる。



(侍女に)あら、もうすぐ日が暮れそうね。



(彼女は美しい。この苦しみの中で、唯一の救いだ。)
伯爵夫人はジェラールに横柄に指示を出した後、自分の娘の服装に気がつく。
伯爵夫人
マッダレーナ。まだ部屋着のままなの?早く着替えなさい。



(侍女にこっそり)美しく着飾るのは、窮屈だわ。コルセットなんて身につけたくないの。仕方がない。着替えてくるわ。
マッダレーナと侍女が去り、サロンに招待客が入ってくる。伯爵夫人は、客人に挨拶する。老いた小説家、アンドレア・シェニエ、修道院長がサロンにやってくる。老いた小説家の指示で、劇中劇が催される。
伯爵夫人
(シェニエに)あなたのミューズは何も言わないの?



私のミューズは内気ですから。
その様子を見た、マッダレーナが女友達に耳打ちする。



私が彼に「愛」という言葉を言わせてみせるわ。賭けをしない?
マッダレーナと女友達はシェニエに近づく。



不躾をお許し下さい。あなたの詩を聞いてみたいのです。できれば、修道女や花嫁にぴったりなものを。



慎ましい願いですね。ですが、命令や慎ましい願いでも、詩を読むことはできないのです。
「愛」のように自然にわき出るものですから。
「愛」と言った途端に、マッダレーナと女友達は笑い出す。伯爵夫人や招待客は、突然笑い出した女性たちに注目する。



お母様が彼に詩を読むようにお願いして断られたじゃない?だから、この方が「愛」という言葉を言うかどうか、賭けたのよ。
彼は言ったわ、私に向かって「愛」と。「愛」なんて、あなた(修道院長)も、あなた(他の男)も、簡単に言うことができる言葉なのに。



あなたは私を傷つけました。この場で嘲笑されている「愛」を詩にしましょう。
ある日、青空を眺めていると、神に祈りたくなりました。教会に行くと、司祭は供物を盗み、貧しき者の声に耳を塞ぐ有様です。
私は、苦しむ人々を見てきました。子供たちですら苦しみにいます。そのような苦しみを見て、貴族の子孫は何をしますか?
(マッダレーナを見て)この場所であなただけが人間らしく見えました。ですが、あなたは愛を冒涜したのです。
あなたは愛を知らない。愛は、神の贈り物なのですよ。
「ある日青空を眺めて」Un dì all’azzurro spazio
「ある日青空を眺めて」Un dì all’azzurro spazio|アンドレア・シェニエ
5年後の再会の時に、ふたりをつなぐ言葉が出てくる重要なアリア。





お許し下さい。
マッダレーナは立ち去り、シェニエもまた立ち去る。
伯爵夫人
彼はおかしな人ね。さあ、踊りましょう。
貴族が 踊る中、屋敷の外から騒々しい声が。使用人のジェラールが貧しい民衆を引き連れて屋敷に入る。
伯爵夫人
誰かこの者らを追いだして!ジェラール、あなたが一番先に出ていくのよ。



ええ、出て行きますよ。このような召使いの服はいらない!父さん、一緒に行きましょう。
ジェラールは、伯爵夫人に謝罪しようと跪く父を立たせて、屋敷を出て行く。
伯爵夫人
ジェラールは、本を読むからあのようになったのだわ。私はあの者を哀れんで、施しをしてあげたのに。
何もなかったのように、貴族は同じように踊り始める。
オペラ「アンドレア・シェニエ」第2幕のあらすじ
5年後・フランス革命後のパリの街角
人々が行き交う街角のカフェで、テーブルの端にアンドレア・シェニエが座っている。
マッダレーナの元侍女(現在は娼婦)は、シェニエに声を掛けたいが、自分を見ている密偵に気がついて、にらみつける。
密偵
なにか私を恐れることでもあるのか?
マッダレーナの元侍女
恐れるですって?なぜ?私は何も恐れるものはないわ。気楽に生きているのよ。向こうでは、死や陰謀があるけれど、こっちでは、お金に快楽があるわ。
「恐れる?なぜ?」Temer? Perchè?
密偵
(やっぱり彼女だ。彼女は、私が探しているブロンドの女と一緒にいるに違いない。シェニエに接近しようと様子を伺っているのが、その証拠だ。)
立ち去る侍女。彼女を追いかけて密偵が去り、シェニエの友人がやって来る。
シェニエの友人
探したぞ。君はここにいると危ない。私の名前を使って、遠くに逃げてくれ。



いいや、断る。私は不思議な力を信じる。それが良いものでも、悪いものでも。愛のために、ここに留まるのだ。
私は見知らぬ女性から、何度も手紙を受け取っている。魂の喜びを感じるが、彼女が誰なのかわからない。
「不思議な力を信じる」Credo a una possanza arcana
シェニエの友人
(シェニエの手紙を見る)手紙からバラの香りがするな。ああ、これは娼婦の手紙だぞ。さあ、通行手形を受け取り、ここを去るんだ。



そうなのか?わかった。
街角に革命政府の議員一行と、部下になったジェラールが現れる。密偵がジェラールに声を掛ける。
密偵
(ジェラールに)あなたが探しているのは銀髪?金髪?



青い瞳に金色に輝く髪をもつ女だ。どうか彼女を探してくれ。
密偵
今夜には会えますよ。
革命政府の議員らと、娼婦の一行がすれ違う。マッダレーナの元侍女(娼婦)がシェニエに伝言を伝える。隠れて密偵も話を聞いている。
マッダレーナの元侍女
(シェニエに)今夜あなたのもとに女性が訪れます。待っていて下さい。



彼女の名前を教えてくれ。
マッダレーナの元侍女
彼女の名前は…「希望」です。



わかった。彼女を待とう。
マッダレーナの侍女が、立ち去る。
シェニエの友人
本当に行くのか。ワナかも知れないぞ。



大丈夫。武器を持っていくさ。
シェニエの友人
物陰から見守ろう。
夜、密偵とシェニエの友人が隠れている中、召使いの服を着たマッダレーナが現れる。



まだ誰もいない…彼だわ、アンドレア・シェニエ!
「二重唱」Ecco l’altare



あなたは誰です?



あなたは愛を知らない。愛は神からの贈り物です。



マッダレーナ。あなただったのか。
隠れてみていた密偵が、マッダレーナを確認してジェラールに報告をするため去って行く。



あなたがこれまで手紙を?私の隠れた友だったのですね。



かつてあなたは力を持っていました。あなたが心の救いでしたが、あえてあなたに助けを求めませんでした。
ですが、1ヶ月前から誰かに追われているのです。とても孤独で、あなたに助けを求めました。私を守って下さいますか。
「二重唱」Eravate possente



愛の瞬間だ。私の腕で、あなたは何も恐れることはないのです。死ぬまで一緒にいましょう。
ジェラールが現れる。マッダレーナは、その場で隠れていたシェニエの友人と去り、その後を密偵が追いかける。
シェニエとジェラールの決闘。ジェラールが傷を負う。ジェラールは闘っていた男が、シェニエだったと気がつく。



シェニエ、逃げろ。お前の名は議員によって処刑リストに書かれている。マッダレーナを救ってくれ。
シェニエは立ち去り、騒動を聞きつけ人が集まる。人々が誰にやられたのか聞くが、ジェラールは答えない。
オペラ「アンドレア・シェニエ」第3幕のあらすじ
革命裁判所の大広間
第2幕から数週間後。男が民衆に寄付を募るが集まらない。ジェラールがあらわれて、人々に呼びかける。



フランスが今、危機にある。金品や子息をフランスに預けてくれ。他国と戦わねばならない!
市民たちが金品を差し出す。その中で老いた女性が進み出る。
老いた女性
私は老いたマデロンです。息子や息子の子供は革命で亡くなりました。この男の子は、息子の最後の子供です。少年だとは言わないで下さい。最後まで戦います。
「私は老いたマデロン」Son la vecchia Madelon



受け取ろう。今夜にでも出発させる。
募金活動が終わり、人々は立ち去る。ジェラールのもとに密偵が来る。
密偵
シェニエが捕まりました。マッダレーナもすぐに捕まるでしょう。恋に落ちた女は、あなたのもとにやってきて、男の命を救うように嘆願するはず。
シェニエはそもそも上の者に睨まれている。あなたがその書類に、アンドレア・シェニエの名前を書けばいいのですよ。



それでは私が卑劣ではないか。
祖国の敵だと?古い手だが、人々には好まれる。(書類を書きながら)彼は異国生まれで、兵士であり、人々の心を惑わせた。
かつては楽しかった。苦しみの中にいても、自分は強いと信じられたから。ああ、これでは召使いのままではないか。自らの暴力的な情熱に従っている。私をこのように変えたのは、皮肉にも愛だった。
「祖国の敵」Nemico della Patria
「祖国の敵」Nemico della Patria|アンドレア・シェニエ
理想に燃えていた過去と理想とは違う現実に葛藤する、ジェラールの歌。


密偵が去り、書記官が書類を受け取り出て行く。入れ替わりに、マッダレーナ。



ジェラール。私を覚えていないしょう。ですが、お話があるのです。



お待ちしていました。あなたを探していたのです。



探していた?なぜ私がここに来ることを望むのです?



幼い頃から、あなたを見ていました。憧れていたのです。私の愛に、あなたは何と答えますか?



路上で私の名を名乗り、死を選びます。



いいえ、あなたは死んではいけない。あなたは私のものだ。



ああ、あなたは私が欲しいのね。彼の命を救うためにあなたに体を差し出しましょう。



そこまで彼を愛しているのか。



私を守るために母は亡くなりました。私が病に倒れると、侍女が私のために体を売ってくれました。純真な娘が。私は愛する者に不幸をもたらすのです。
絶望の中、シェニエの「愛」の詩を思い出しました。愛が私を救ってくれたのです。
「亡くなった母を」La mamma morta



負けました。彼を救いましょう。だが、彼を憎んでいる者が多いのです。



あなたなら彼を救えます。
ジェラールは、シェニエの助命を願う手紙を書き始める。裁判所に人々や裁判官が集まる。何人かが裁判で裁かれる中、シェニエが裁かれる番になる。



そう、私は兵士だった。ペンを武器に私は闘ってきた。私は祖国を愛する者であり、裏切り者ではない。
「私は兵士だった」Si, fui soldato



私が証言する。彼への告発は間違えだ。
市民は聞き入れず、シェニエに死刑が宣告される。マッダレーナは嘆く。
オペラ「アンドレア・シェニエ」第4幕のあらすじ
サン・ラザール監獄
夜の監獄。シェニエのもとに友人が訪れている。



五月の美しい日に、風や太陽の光が空に消えていく。言葉や詩により、私は極限まで昇るだろう。死を前にして、最後の女神よ、詩人にまばゆい発想を与えておくれ。
「五月の美しい日のように」Come un bel dì di maggio
「五月の美しい日のように」Come un bel dì di maggio|アンドレア・シェニエ
実在のフランス詩人アンドレ(フランス語読み)・シェニエの辞世の詩とリンクした歌詞になっています。


友人とシェニエは抱き合い、別れの挨拶をして去る。
ジェラールとマッダレーナが一緒に監獄を訪れ、看守と会話をする



彼女は死刑囚の面会が許されている。



(看守に)死刑囚に若い女性がいたでしょう。私が彼女の代わりになります。
(看守に宝石を渡し)あなたは宝石を受け取り、知らないふりをしてください。
看守
そういうことなら…知らないふりをします。
ジェラールは、泣いている。



運命を祝福し、死を祝福します。



あなたは死を望むのか。私は彼らを救わなくてはいけない。
ジェラールは走り去る。シェニエとマッダレーナが再会する。



君の側にいると、私の魂は鎮められる。
「二重唱」Vicino a te



あなたから離れません。あなたと共に死にます。
夜明け、点呼があり、シェニエは本人として、マッダレーナは別人として名乗り出る、二人は馬車に乗り込み、処刑場へ向かう。