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【ファルスタッフ】簡単なあらすじと相関図

ファルスタッフ, オペラ, ヴェルディ

ファルスタッフは、ヴェルディ最後のオペラです。太った老いた騎士ファルスタッフが主役で、周囲にこてんぱんにやられながらも「世の中はすべて冗談だ」という全員合唱のフーガで幕を閉じます。ヴェルディが、シェイクスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」「ヘンリー4世」に登場するファルスタッフを主人公とするアイデアを思いつき、台本作家のボーイトがヴェルディのアイデアを形にしました。

目次

ファルスタッフ、オペラ:人物相関図

ファルスタッフ、オペラ:人物相関図
ファルスタッフ、オペラ:人物相関図

ファルスタッフ、オペラ:登場人物

ファルスタッフ老騎士バリトン
アリーチェ資産家の夫人ソプラノ
フォード資産家バリトン
ナンネッタアリーチェの娘ソプラノ
フェントンナンネッタの恋人テノール
クイックリー夫人アリーチェの友人メゾソプラノ
メグ・ページ夫人アリーチェの友人メゾソプラノ
パストーラファルスタッフの子分バス
バルドルフォファルスタッフの子分テノール
カイウス医者テノール
ファルスタッフ、オペラ:登場人物
  • 原題:Falstaff
  • 言語:イタリア語
  • 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
  • 台本:アリゴ・ボーイト
  • 原作:ウィリアム・シェイクスピア「ウィンザーの陽気な女房たち」「ヘンリー4世」
  • 初演:1893年2月7日 ミラノ スカラ座
  • 上演時間:2時間10分(第1幕30分 第2幕50分 第3幕50分)

ファルスタッフ、オペラ:簡単なあらすじ

太った老騎士ファルスタッフはお金が必要である。彼は同時に2人の女性にラブレターを送る。

彼からラブレターを受け取った女性たちは友人だった。4人の女性たちはアリーチェを中心に団結する。彼女たちはファルスタッフを懲らしめることにした。

ファルスタッフの横暴に業を煮やした従者二人は、ファルスタッフがフォードの妻にラブレターを送ったことをフォードに告げる。フォードと5人の男たちは、ファルスタッフを罰するために団結する。

アリーチェはファルスタッフに罠を仕掛ける。そうとは知らず、フォードはこれを浮気と勘違いしてしまう。フォードの屋敷は騒然となる。ファルスタッフは洗濯籠に入れられ、さらに川へ投げ込まれる。

アリーチェは再びファルスタッフに罠を仕掛ける。ファルスタッフはまたもや騙される。夜の公園で人々が騒ぎを起こすが、問題は解決する。

ファルスタッフ、オペラ:解説

ファルスタッフの説明図

「9人対ひとり」なんて、分が悪い、可哀相という感じがしますが、ファルスタッフ(シェイクスピアでは「フォルスタッフ」)は当時人気の憎めない悪人キャラでした。

ファルスタッフ、オペラ:第1幕のあらすじ

第1場

居酒屋・ガーター亭

安楽椅子に座りのんびり酒を飲む、太った老騎士、ファルスタッフ。近くには、ファルスタッフの従者がふたり。遠くには、居酒屋の主人がいる。怒った男が怒鳴り込んでくる。

医者
ファルスタッフ、よくもうちの召使いを殴ったな!お前が我が家に来て、家の中はめちゃくちゃだ。申し開きはあるか!裁判所に訴えてやる!

「うちの召使をよくも殴ったな」Hai battuto i miei servi!

ファルスタッフ

ああ、すべて私がやったことだ。わざとな。裁判に訴えたいならどうぞ。だが、お前が笑いものになるだけだぞ。

医者
それだけじゃない!お前の従者たちが私を酔っ払わせて、財布の金を盗ったんだ。

ファルスタッフ

従者よ。どちらが金を盗んだんだ?

ファルスタッフの従者
こちらのお医者様は酔っ払うと正体不明になるのですよ。

ファルスタッフ

すべて否定されました。お引き取り願いますかね。

医者
次に居酒屋で酒を飲むときは、善人で真面目な人と飲みますよ!!

医者は怒って、酒場から去る。ふたりの従者らが、医者を馬鹿にして調子に乗っている。

ファルスタッフ

「盗みは優雅にすばやく」だ。さあ、勘定でも済ませようか。金が足りないじゃないか!

夜飲み歩くときに、お前らが酒を飲み過ぎるからだ。もし私がやせたら、もうファルスタッフではなくなるんだぞ。この腹には、皆の称賛が詰まっているんだ。

「夜飲み歩くときに」So che se andiam, la notte

ファルスタッフの従者
偉大なファルスタッフ様!

ファルスタッフ

よし、私らは知恵を絞るんだ。この町には、フォードというお金持ちのお人好しがいる。そしてフォードの奥さんは美人だ。

「この町にはフォードという男が」V’è noto un tal, qui del paese

ファルスタッフの従者
それに彼女は金庫を握っている!

ファルスタッフ

彼女の家の近くを歩いたことがある。フォード夫人は私を見て、優しく微笑んだ。「私はファルスタッフ様のものです。」とでも言うように。

もうひとりの女。彼女もまた、私に心を奪われているだろう。そして、彼女も金庫を握っている。私だって、盛りを過ぎてはいないぞ。

さあ、ふたりの女性のために、2通の愛あふれる手紙を書いた。届けるのだ。

ファルスタッフの従者ふたり
私らは剣を持つ者ですから、使用人みたいなことはできません。名誉がその行いを禁じています。

ファルスタッフ

もういい、小姓よ。おまえが手紙を届けろ。お前ら二人は、私の従者をやめるがいい。とっとといなくなれ。

なにが名誉だ。泥棒め!いつまでも名誉に従っていられないんだ。私だって、神への恐れはある。だが、それは横に置いておく。名誉が金になるか、名誉に病気が治せるか、死者に名誉が分かるのか。

さあ、出て行け。早く早く。出て行くんだ。

「名誉だと!泥棒め!」L’onore!Ladri.

ファルスタッフは、ほうきを振り回して従者らを追い払う。

第2場

フォード家の庭園

フォード夫人と娘が庭を歩いていると、二人の夫人が出くわす。(舞台の上、女4人)

フォード夫人(アリーチェ)

ちょうどよかったわ、あなたに会いに伺うところだったのよ。ここに1通の手紙があるの!

手紙をもらった夫人(メグ・ページ夫人)
あら、わたしもあなたに見せたい手紙があるのよ。交換して読んでみましょう。「光輝く、アリーチェへ」ですって。

その場にいた4人で、手紙を確認してみる。フォード夫人が手紙を読み上げると、手紙の内容が全く同じだった。4人はクスクス笑いが止まらない。

4人の女性(フォード夫人、娘、クイックリー夫人、メグ・ページ夫人)
同じ文章、同じインク、同じ筆跡、同じ紋章!

フォード夫人(アリーチェ)

手紙の締めはこうよ。「返事をお待ちしています。あなたの従者、騎士ジョン・ファルスタッフ」みんなで、懲らしめてやりましょう!

「光輝くアリーチェ!(手紙の四重唱)」Fulgida Alice!

「気晴らしになるわ!」「楽しくなりそう。」「からかってやるのよ」と一致団結。


女性たちと入れ替わりに、資産家のフォード、医者、ファルスタッフの従者ふたり、フォードの娘と隠れて交際している男がやってくる。(舞台の上、男5人)

医者
フォードさん、聞いて下さい。ファルスタッフは、本当に悪漢ですよ。こいつらは信用できません。ファルスタッフの従者なのですから!

ファルスタッフの元従者ふたり
フォードさん。あなたに危険が迫っています。確かにファルスタッフの従者でしたが、今は違います。あんな男のもとで働けません。

フォードの娘と隠れて交際中の男(フェントン)
フォードさん。あなたのためになんでも協力します。頼りにして下さい。

フォード

(何でみんな一度に言うんだ。4人がしゃべって、聞く男はひとり。)おい、お前、もう一度言ってくれ。

ファルスタッフの元従者
ファルスタッフが、あなたの奥さんとあなたのお金を狙っています。すでに、愛の手紙を送っています。ファルスタッフは、熱烈に愛を口説くのですよ。油断しないで下さい。

フォード

妻に気をつけないと!ファルスタッフにも!

庭園に、さきほどの女性たち4人が通り過ぎる。男たちは去る。


フォードの娘と、隠れて交際中の男がこっそり抱き合う。人の気配を察して、ふたりはまた別々に。


フォード夫人とふたりの夫人。どうやってファルスタッフを懲らしめるか相談中。

フォード夫人(アリーチェ)

懲らしめる手紙を一筆、書いてやろうかしら!

フォードの娘がさりげなく合流。

フォードの娘(ナンネッタ)
直接会って、口で伝えた方がいいわ。

フォード夫人(アリーチェ)

そうね。ワナの逢い引きを用意して、直接懲らしめてやりましょう。それでは、手紙をもらっていない夫人に、私との逢い引きをえさにして、彼を誘い出してもらうわ。

立ち聞きの気配を感じて、女性たちは立ち去る。フォードの娘と男は、また密会。愛を語り合う。

男性たち4人が集まり、フォードの娘と交際中の男も合流。

フォード

従者たちに彼と会えるように紹介を頼もう。私は偽名でファルスタッフと会ってみよう。あいつをどうやって罠にかけるか、考えなくては。それでは、男性陣の皆さん、他言無用ですよ。

その場に女4人が現れる。男5人、女4人、それぞれが心の内を歌う。「九重唱」

医者…真実を知るために、あくどい試みは必要。
元従者その1…酒を飲ませてうまく振る舞ってください
元従者その2…注意深く賢くないと、あいつに負けるぞ
フォード…悪党をうまく懲らしめよう
娘の恋人(フェントン)…実はどうでもいい。僕たちふたりが結ばれれば

フォード夫人(アリーチェ)…ペテンにかけて、懲らしめよう
手紙をもらった夫人(メグ・ページ夫人)…罠に引っかかれば、欲望も冷めるでしょう
フォードの娘(ナンネッタ)…うまくいけば、大男は冷や汗をかくでしょう
ワナの逢い引きをこれから伝えに行く夫人(クイックリー夫人)…陽気な私たちの面白い企み

男たちが去る。女たちは、ニセの逢い引きを伝えに行く夫人に「よろしく頼むわ」と去って行く。

ファルスタッフ、オペラ:第2幕のあらすじ

第1場

居酒屋・ガーター亭

ファルスタッフは安楽椅子に座り、酒を飲んでいる。従者ふたりが、謝罪中。

ファルスタッフの元従者ふたり
改心しました。従者に戻して下さい。

ファルスタッフ

悪い癖はすぐにもとに戻るものだ。

ファルスタッフの元従者
とある夫人があなたに会いたいと申していますが。

ニセの逢い引きを誘いに来た夫人が、ファルスタッフに大げさに挨拶する。

ワナの逢い引きを伝える夫人(クイックリー夫人)
ごめん下さい。人払いをお願いしますわ。あなたからの手紙を受け取ったフォード夫人が、ファルスタッフ様とご自宅でお会いしたいと。2時から3時にご主人が外出している時間に来て欲しいとのことです。

ファルスタッフ

2時から3時ですね。

ワナの逢い引きを伝える夫人(クイックリー夫人)
あなたから手紙をいただいた、もうひとりの夫人からも伝言です。好意を感じていますが、あの方のご主人は外出なさらないそうで。会うことは無理だそうですよ。ああ、あなたは女性の心を掴むのが上手ですね。

ファルスタッフ

ところで、ふたりは手紙のことをお互いに知っているのかね?

ワナの逢い引きを伝える夫人(クイックリー夫人)
とんでもない。女は賢いですから。ご心配なく。

夫人は帰っていく。上機嫌なファルスタッフ。

ファルスタッフ

行け、老練なジョン!老いた体は、女たちに夢を見させる。サー・ジョンの立派な肉体に感謝だ!

「行け、老練なジョン」Va, vecchio John

ファルスタッフの元従者
ファルスタッフ様、今度は別の方があなたにお会いしたいと。お近づきの印に、酒の大樽を持ってこられていますよ。

ファルスタッフ

もちろん、会うとも!お通ししなさい。

フォードが恭しく挨拶する。

フォード

突然お伺いしてすみません。私は裕福で気ままに暮らしている男です。ところで、私はあなたにお願いがあるのです。

実は、フォード夫人に恋をしています。ですが、彼女には相手にされません。手紙も贈り物も無駄でした。

ファルスタッフ

なぜ私にそのことを言うのです?

フォード

あなたは魅力的な騎士でございます。女性たちはすぐに振り向くでしょう。難攻不落のフォード夫人をぜひとも口説き落として欲しいのです。あなたが成功すれば、私も希望が持てるでしょう。私が持ってきた一袋の金を使って、フォード夫人を落としてみて下さい。

ファルスタッフ

そういうことなら、遠慮なく頂こう。騎士の名誉にかけて、フォード夫人を落としましょう。あなたも彼女を手に入れることが出来るでしょう。あなたに隠すこともないですね。私はもうすぐ彼女を腕に抱くことができるのです。

フォード

誰だって?

ファルスタッフ

フォード夫人ですよ。彼女が秘密の使いを送ってくれて、ご主人のいない2時から3時に彼女の家を訪れる予定なのです。それでは支度があるので、ちょっと失礼。

ファルスタッフは着替えのために席を外し、フォードがひとり。

フォード

夢なのか、現実なのか。目を覚ませ、起きるんだ。女房が過ちを犯し、家と名誉とベッドが汚される!

ふたりが会うのを待って、現場を押さえよう。

着替えて戻ってきたファルスタッフ。

ファルスタッフ

お待たせしました。ご一緒に出ませんか?

ファルスタッフとフォードは一緒に酒場を出て行く。

第2場

フォード家の応接室

フォード夫人とふたりの夫人が大笑いしながら部屋に入ってくる。

ワナの逢い引きを伝えた夫人(クイックリー夫人)
奥様方!ファルスタッフは、喜んで誘いに応じましたわ。「手紙を送ったふたりの夫人があなたに夢中ですよ」と伝えると、その話を信じていましたよ!

「うまくいった」と女性たちは大喜び。フォードの娘が部屋に入ってきて、悲しそうにしている。

フォード夫人(アリーチェ)

もうすぐ2時だわ。(使用人に向かって)大きな洗濯かごをここに運んでおいて。あら、娘よ。どうしたの?泣いているじゃない。

フォードの娘(ナンネッタ)
お父さんが、医者と結婚しろって。

フォード夫人(アリーチェ)

あんな学識をひけらかす嫌なヤツと?

女性たちは全員、「ありえないことよ!」と、医者との結婚を反対する。

フォード夫人(アリーチェ)

安心しなさい。怖がることなんてないわ。

フォードの娘(ナンネッタ)
よかった。あんな医者と結婚なんてしないわ。

先ほどのフォード夫人の命令によって、使用人らが大きな洗濯かごを部屋に運び入れる。

フォード夫人(アリーチェ)

使用人たちよ。私が呼んだら、この洗濯かごをどぶに捨ててちょうだい。それまでは下がっていて。

使用人らは部屋から下がる。夫人たちが部屋の屏風を動かし、リュート(楽器)を机に置いて、ファルスタッフをはめる準備をする。

フォード夫人(アリーチェ)

もうすぐ喜劇が始まるわ。ウィンザーの陽気な女房たち。男たちに教えてあげましょう。女の中で一番罪深いのは、猫かぶりな女ってことを!

フォード夫人を残して、他の女性たちは部屋から出ていく。入れ替わりに、ファルスタッフ。フォード夫人は椅子に座りリュートを鳴らしている。

ファルスタッフ

あなたを愛している。本能に従って愛し合おうではないか。かつて私が小姓をしていた時は、スリムでイケていたのですよ。

「かつて私が小姓だった時は」Sirena!… Quand’ero paggio

フォード夫人(アリーチェ)

でも、あなたに裏切られるのが恐ろしいわ。他に女でもいらっしゃるのでは?

ファルスタッフ

そんなものはいない。

クイックリー夫人が慌てたように入って来て、言づてした後に去る。

ワナの逢い引きを伝えた夫人(クイックリー夫人)
血相を変えて、夫人(ファルスタッフが愛の手紙を渡した夫人)が乗り込んできています。ここに来たがっています。止められません。

手紙を送った夫人(メグ・ページ夫人)が自分を目当てに怒鳴り込んできたと思って、慌てるファルスタッフ。

ファルスタッフ

どこか隠れる場所は?

フォード夫人(アリーチェ)

屏風の裏にどうぞ。

ファルスタッフは屏風の裏に隠れる。手紙をもらった夫人(メグ)がやってきて、隠れているファルスタッフに向かって聞こえるように演技をする。

手紙をもらった夫人(メグ・ページ夫人)
(演技)あなたの旦那さん(フォード)が「あの男を追え」と怒鳴っているわ。「あいつを殺してやる!」と大声で叫ぶのよ。

メグは演技をしながら笑ってしまう。

フォード夫人(アリーチェ)

(あなた、笑っちゃダメよ。)

別の夫人(クイックリー夫人)が本当に血相を変えてやって来る。

ワナの逢い引きを伝えた夫人(クイックリー夫人)
(本当)フォード夫人。お逃げなさい。フォードさんがやって来るわ。

フォード夫人(アリーチェ)

本当なの?お芝居なの?

ワナの逢い引きを伝えた夫人(クイックリー夫人)
本当です。フォードさんがこちらに!!

扉が開き、フォードや医師、ファルスタッフの従者ら、娘の恋人が部屋に飛び込んできた。

フォード

扉を閉めろ、階段をふさげ!誰も逃がすな。

男たちは家捜しを始める。フォードは「ここか、ここにいるのか」と大きな洗濯かごの中身を取り出すが、誰もいない。そのまま大騒ぎしながら、フォードは部屋を出て行く。

隠れているファルスタッフに聞こえるように、フォード夫人らは大きい声で会話を始める。

フォード夫人(アリーチェ)

あの人、どうしたのかしら?ファルスタッフ様をどうしようかしら?

手紙をもらった夫人(メグ・ページ夫人)
洗濯かごの中は?

フォード夫人(アリーチェ)

無理よ。彼は大きすぎる。この中に入らないわ。

屏風からファルスタッフが飛び出してきた。大きな洗濯かごの中に入る。

ファルスタッフ

いいや、私は入るぞ。隠してくれ。

フォード夫人(アリーチェ)

私は、使用人を呼びに行くわ。

フォード夫人が去り、ふたりの夫人がファルスタッフの上に洗濯物を被せていく。騒動の中で、フォードの娘と恋人が屏風の裏に隠れて、逢い引き。フォードと男たちが部屋に戻ってきて、家捜しを始める。屏風から、キスの音が聞こえてくる。

フォード

捕まえるんだ!私の合図で、屏風を倒すぞ。1、2、3!!

「捕まえろ・九重唱」Se t’agguanto!

屏風の裏にいた、娘と恋人を発見。ふたりは逃げだし、フォードは追いかけていく。フォード夫人が使用人たちを連れて戻ってきた。

フォード夫人(アリーチェ)

この洗濯かごを、川に投げ入れてちょうだい。あと、私の夫を呼んでくるのよ。ファルスタッフが川にいる姿を見れば、この事件の顛末がわかるはずよ。

川に落とされたファルスタッフ。女たちの笑い声が響く。フォード夫人が夫を呼び寄せて、川を見せる。

ファルスタッフ、オペラ:第3幕のあらすじ

第1場

ガーター亭前の大きな広場

夕暮れ時、ファルスタッフはびしょ濡れで広場の椅子に座っている。

ファルスタッフ

おーい。ガーター亭の主人よ。熱いワインを持ってきてくれ。

泥棒の世界!世の中悪人だらけだ!ひどい世の中。私は長い間、勇敢な騎士として生きてきた。それなのに、かごに入って、汚れた洗濯物と一緒に川に捨てられるなんて!

「泥棒の世界だ」Mondo ladro

ガーター亭の主人が酒を届ける。

ファルスタッフ

うまい!体が温まる。うまい酒があるし、まあいいか。

酔っ払うファルスタッフを、影から見る男女9人。以前、ニセの逢い引きを伝えた夫人がファルスタッフに近づいていく。

以前、ワナの逢い引きを伝えた夫人(クイックリー夫人)
ごめん下さい。少しよろしいですか。あのフォード夫人が。

ファルスタッフ

近づくな!私を洗濯かごに入れて、川に落としたくせに。あんたらみたいな悪人には関わりたくない。

以前、ワナの逢い引きを伝えた夫人(クイックリー夫人)
誤解ですわ。罪は大騒ぎした男たちにあるのです。フォード夫人は泣いておられます。彼女はあなたを愛しています。この手紙をお読み下さい。

手紙を受け取り、読むファルスタッフ。

以前、ワナの逢い引きを伝えた夫人(クイックリー夫人)
フォード夫人はあなたにお会いするために不気味な伝説を利用することにしました。ウィンザー公園は悪魔が集まる場所と言われています。そして、その場所で以前、男が首つりをした木があります。

ファルスタッフ

それでは、ガーター亭の中で話しましょうか。

ふたりは、ガーター亭に入っていく。


やりとりを見守っていた男女の集団が、広場に出てくる。

フォード

ひっかかったぞ。

フォード夫人(アリーチェ)

ファルスタッフに話す伝説は、こういうものですよ。

「真夜中に鐘が鳴ると、無数の魂が現れる。首つりをした男がゆらりゆらりと木に向かって歩く。その場には妖精たちの姿が。」

ファルスタッフには「頭に2本の鹿の角と、マントで変装するように」と伝える計画なのよ。

さあ、皆さんそれぞれ仮装の準備をして下さい。娘は妖精の女王。(手紙をもらった)夫人は、女神の精霊。今、ガーター亭で話している夫人は、魔法使い。仮装させた子供たちをたくさん用意しましょう。

妖精やこうもりに仮装した子供たちが、ファルスタッフに襲いかかり、彼が悪事を反省するまで懲らしめるの。反省が終われば、みんなで正体を明かして、家に帰りましょう。

集団は、それぞれ仮装の準備のためその場を離れる。フォートと医師が残る。ちょうどガーター亭から出てきた夫人がふたりの話を立ち聞きする。

フォード

必ず娘を医者のあなたと結婚させますよ。信じて下さい。娘は白いヴェールを被った、妖精の女王に仮装します。

医者
白いヴェールですな。

フォード

騒ぎの後で、娘は白いヴェールの姿、あなたは僧侶のマントで、ふたりとも顔を隠して下さい。私は新郎新婦のように、あなたたちを祝福しますよ。

フォードと医者は立ち去る。ガーター亭から出てきて、偶然立ち聞きした夫人が怒る。

先ほど、ガーター亭から出てきた夫人(クイックリー夫人)
そんなことはさせませんよ!!

フォード夫人、娘など、女性たちは合流して、去って行く。

第2場

ウィンザー公園

真夜中、中央には大きな樫の木。一番最初に到着したのは、フォードの娘の恋人。

フォードの娘の恋人(フェントン)
唇から喜びの歌が夜に広がる。乙女の唇を探すだろう。唇は返事を返す。

「喜びの歌は唇から」Dal labbro il canto estasiato vola

歌詞と対訳

「喜びの歌は唇から」Dal labbro il canto estasiato vola|ファルスタッフ

ルネサンスの詩人ボッカッチョの「デカメロン」からの引用があります。

フォードの娘がやってきて、ふたりは抱き合う。

フォードの娘(ナンネッタ)
今は急がないと。あなたはこの黒いマントを着てちょうだい。まるで修道院から抜け出た僧侶みたいね。

フォード夫人もやってきて、娘の恋人に帽子や仮面を渡す。

フォード夫人(アリーチェ)

夫がしようとしていることは、夫に不利になり、私たちに有利になるはずよ。

夫人らふたりも到着して、全員で影に隠れる。ファルスタッフが到着。頭には2本の鹿の角、大きな体にマントを着ている。

ファルスタッフ

これが伝説の樫の木か。神よ、守りたまえ。足音がする、フォード夫人だ。愛が君を呼んでいるよ。

フォード夫人(アリーチェ)

お会いしたかったですわ。ですが、すぐそこに(ファルスタッフが手紙を送った別の)夫人がいるのです。

ファルスタッフ

それなら、ふたりとも私が面倒を見よう。3人で愛し合おう。

木陰から、夫人が声を上げる。

手紙をもらった夫人(メグ・ページ夫人)
助けて、大変だわ。悪魔の集会が。

ファルスタッフが慌てている隙に、フォード夫人がこっそり去る。すかさず、フォードの娘が声を上げる。

フォードの娘(ナンネッタ)
森の妖精、木の妖精、空気の妖精。さあ、出てくるのよ。

ファルスタッフ

妖精なのか?妖精を見たら死んでしまう!!

ファルスタッフは地面にうつぶせになる。隠れていたフォード夫人やフォードの娘が用心深く、彼の様子を見ている。子供の妖精たちも出てくる。

フォード夫人(アリーチェ)

(これで隠れているつもりなのかしら。みんな笑っちゃダメよ。妖精の女王として、さあ歌いなさい。)

フォードの娘(ナンネッタ)
夏のそよ風、妖精たちよ、風に乗って駆け回りましょう。木々、月の光、歌って踊るのです。

「夏のそよ風に乗って」Sul fil d’un soffio etesio

歌詞と対訳

「夏のそよ風に乗って」Sul fil d’un soffio etesio|ファルスタッフ

仮装した男女、近所の住民までみんな集まってきた。従者のひとりが、わざとファルスタッフにつまずく。

クイックリー夫人(魔法使いに仮装)
ここに人間がいるぞ。

ファルスタッフ

どうか、お慈悲を。

ファルスタッフの元従者(帽子で顔を隠す)
妖精たちよ、こやつを懲らしめるんだ。さあ、飛びかかれ。

仮装した子供たちが、ファルスタッフに飛びかかる。従者の帽子が落ちて、顔がファルスタッフに見えてしまう。

ファルスタッフ

私の従者ではないか。見破ったぞ。馬鹿にするでない!ちょっと休ませてくれ。私は疲れた。

夫人が、正体がばれた従者にこっそり声をかける。

クイックリー夫人(魔法使いに仮装)
(ちょっとこちらにおいで。あなたに白いヴェールを被せてあげよう。)

夫人と白いヴェールの従者はその場を去る。同時に、医者が白いヴェールを被ったフォードの娘を探しに出て行く。

一人だけ変装していないフォードが、ファルスタッフに声を掛ける。

フォード

やあ、ファルスタッフ殿。

ファルスタッフ

あなたは酒の大樽を私にくれた、あの男。

フォード夫人(アリーチェ)

こちらは、私の夫フォードよ。

ファルスタッフが驚いているところに、何度もガーター亭でファルスタッフと会った夫人が戻ってきた。

クイックリー夫人(魔法使いに仮装)
ふたりの美しい女性があなたに夢中、なんてことは夢物語ですよ。老いて太った男に夢中になる女なんて、いませんわ。

ファルスタッフ

バカにされたってことが、だんだん分かってきた。

(冷静になって)平凡な人間っていうのは、私をからかって自慢するのさ。皆にユーモアがないから、私がみんなのユーモアを引き出してやったんだ。

フォード

あなたはユーモアにあふれた方だ。そうでなければ、許さなかったでしょう。さあ、この仮装大会を、妖精の女王の結婚式で締めくくるのです。私はふたりの結婚を認めます。

顔を隠した医者と白いヴェールを被った従者が、皆の前に。

フォード夫人(アリーチェ)

ちょっとお待ちを。もう一組。祝福されたい恋人たちがいますよ。

白いヴェールを被ったフォードの娘と仮面をした恋人。

フォード

2組を祝福しましょう。さあ、仮面やヴェールを取って下さい。

4人が変装をとく。医者と従者の男、娘のナンネッタと恋人の組み合わせができていた。フォードと医者以外は、みんなが大笑い。

医者
恐ろしいことが起こった。私は男と結婚したのか!!

フォード

娘が、別の男と結婚してしまった。

フォード夫人(アリーチェ)

罠を仕掛けた人が、罠に引っかかるってよくあることよね。

ファルスタッフ

ところで、フォードさん。この中で恥をかいたのは誰でしょうね。

フォードが医者を指さし、医者がフォードを、従者らがふたりを、とその場にいる男たちが、互いに相手を指さしていく。

フォード夫人(アリーチェ)

いいえ、3人ともよ。相思相愛なふたりを見なさい。

フォードの娘(ナンネッタ)
お父さん、結婚を許して下さい。

フォード

結婚を許そう。神の祝福がありますように。

医者をのぞいて、人々が喜ぶ。

ファルスタッフ

一緒に歌って、お芝居を終わりにしよう。

フォード

ファルスタッフさん、みんなで食事に行きましょう。

ファルスタッフ

世の中すべて冗談だ。人間はみんな道化師。理性なんて役に立たない。みんな愚か者。お互いをあざ笑うけれど、最後に笑う者が一番幸せなのだ。

「世の中はすべて冗談」Tutto nel mondo è burla

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