オペラ「ボリス・ゴドゥノフ」あらすじと相関図|ムソルグスキー

ボリス・ゴドゥノフは、ムソルグスキーが作曲したオペラです。プーシキンの劇詩「ボリス・ゴドゥノフ」ニコライ・カラムジン「ロシア国家史」を原作としています。ムソルグスキーは数作オペラを作曲しましたが、この作品以外は未完成に終わっています。ボリス・ゴドゥノフが唯一の完成したオペラであり、彼の最高傑作とされています。

目次

オペラ・歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」の簡単なあらすじ

オペラ前の出来事

ボリス・ゴドゥノフは、イヴァン4世(イヴァン雷帝)の腹心の部下であった。イヴァン雷帝には、二人の息子フョードルとドミトリーがいた。フョードルはボリスの妹と結婚。ボリスはイヴァン雷帝の死後、フョードルの摂政として権力を持った。ドミトリーが不審死する。フョードル1世も続いて死亡した。(リューリク朝の断絶)

歴史上では、ボリスがドミトリーを暗殺したかどうかは、不明。最近では事故死が支持されている。

オペラ

ロシア皇帝の座が空白になる。ボリスは一時的に隠居していたが、貴族議員たちによってボリスがロシア皇帝に選ばれる。ロシアでは大飢饉が起こり、人々の不満が溜まっていた。

修行僧グリゴリーは、老僧ピーメンから「ボリスがドミトリーを暗殺した」ことを教えられる。グリゴリーは死去したドミトリーになりすまして、ロシア皇帝の座を手にしようと野心を燃やす。

ボリスは暗殺したドミトリーの亡霊を見るようになり、急死する。偽者ドミトリー(グリゴリー)は、ポーランド貴族とイエズス会を後ろ盾にして、反体制派を作りロシア皇帝の座を目指す。

「ボリス・ゴドゥノフ」の相関図

ボリス・ゴドゥノフの相関図
オペラ「ボリス・ゴドゥノフ」の相関図

「ボリス・ゴドゥノフ」の登場人物

ボリス・ゴドゥノフロシアの皇帝(ツァーリ)バス
ピーメン修道僧バス
グリゴリー偽者ドミトリーテノール
シュイスキー公首席顧問テノール
マリーナポーランド貴族の娘ソプラノ
ヴァルラーム逃亡僧バス
ミサイール逃亡僧テノール
ランゴーニ隠れイエズス会士バス
白痴イヴァヌイチ聖愚者テノール
シチェルカーロフ書記官バリトン
フョードルボリスの息子メゾソプラノ
クセニヤボリスの娘ソプラノ
乳母クセニヤの乳母アルト
女主人旅籠屋の女主人メゾソプラノ

「ボリス・ゴドゥノフ」の基本情報

  • 題名 ボリス・ゴドゥノフ Boris Godunov Борис Годунов(ロシア語)
  • 作曲 ムソルグスキー
  • 初演 1874年1月27日 ペテルブルク マリインスキー劇場
  • 原作 プーシキンの劇詩「ボリス・ゴドゥノフ」ニコライ・カラムジン「ロシア国家史」
  • 台本 ムソルグスキー
  • 言語 ロシア語
  • 上演時間 3時間10分(プロローグ20分 第1幕40分 第2幕30分 第3幕40分 第4幕60分)

オペラでは、ボリスとグリゴリーの場面が交互に進んでいきます。ボリスとグリゴリーが出会うことはありません。

ボリス・ゴドゥノフの図

「ボリス・ゴドゥノフ」プロローグ

第1場

モスクワ近郊・ノヴォデヴィチ修道院の裏庭 1598年

修道院には、ボリスが一時的に隠居している。修道院の裏庭に民衆が集まっている。門から警備の役人が出てきて、民衆を脅す。

人々
誰の手に我らを任せるのか、我らの父よ。誰の手に我らを渡すのか?哀れみたまえ。

「民衆の合唱」Na kovo ti nas pokidayesh’, otec nash!

修道院から、書記官シチェルカーロフが人々の前に現れる。

書記官シチェルカーロフ
正教徒たちよ、ボリスは王位を受け入れてくれない。この国は王位の空白に苦しんでいる。主に祈るのだ。

シチェルカーロフは修道院の中に戻る。巡礼者の行列が賛美歌を歌いながら現れる。彼らは修道院に入っていく。

第2場

モスクワ・大聖堂前の広場 1598年

シュイスキー公が現れ、モスクワの民衆にボリスを称えるように呼びかける。

人々
空に輝く美しい太陽のように、栄光あれ。ロシア皇帝ボリスに栄光あれ。

「民衆の合唱」Uzh kak na nebe solncu krasnomu

ボリスが大聖堂の入り口に現れる。

ボリス・ゴドゥノフ

我が魂は悲しむ。不吉な予感が我が心を苦しめる。万能の神よ、我が涙をご覧ください。我が権力を祝福ください。かつてのロシアの支配者のように、皆を宴に招こう。貴族から貧しき者まで、皆が客人だ。

「ボリスのモノローグ」Skorbit dusha!

民衆は「栄光あれ」と叫びながら、大聖堂に押し寄せる。

「ボリス・ゴドゥノフ」第1幕

第1場

モスクワ・チュードフ修道院・老僧ピーメンの部屋 1603年

夜、老僧ピーメンはロシアの歴史の年代記を書いている。ピーメンの側で、グリゴリーは眠っている。

ピーメン

あと一つの物語で書き終わる。神が私に命じた仕事が終わる。

「あと一つ物語を書き終えて」Jeshchyo odno posledneye skazan’e

眠っていたグリゴリーは、悪夢から目覚める。

グリゴリー

いつも同じ夢だ。嫌な夢だ。あなたはいつも眠気もなく、記録を書き続ける。だが、私は悪夢に惑わされている。

ピーメン

若さゆえだろう。修行をしなさい。私の夢も穏やかなものではないよ。若い頃の騒々しい酒盛りや、戦いの記憶だ。

グリゴリー

あなたは若い頃、楽しく過ごされたのですね。私は修道院ばかりです。

ピーメン

早くに世間を捨てたことを嘆いてはいけない。偉大な皇帝たちを考えなさい。彼らは安らぎを求めて修道院に来ていた。イヴァン雷帝は、修道院で涙を流していた。息子のフョードルは、宮殿を祈りの場に変えた。だが、今やそのような皇帝を見ることはできない。我々は、暗殺者をロシアの支配者に選んだのだから。

グリゴリー

ずっとお聞きしたかったのです。あなたはウーグリチにいたのですか?

ピーメン

私はウーグリチに派遣されていた。朝に、騒ぎが起こり駆けつけると、血まみれで皇子が亡くなっていた。逃げる暗殺者たちはすぐに捕らえられた。暗殺者たちを皇子の亡骸に連れて行くと、亡骸は震えだしたのだ。暗殺者たちは、ボリスの計画だと白状した。

グリゴリー

皇子様は何歳でしたか?

ピーメン

7歳だった。あれから11年、いや、12年か。お前と同じ年齢だな。お前に私の仕事を譲ろう。この世のすべてを記録に残しなさい。

ピーメンは朝の修業に向かう。

グリゴリー

ボリスよ!神の裁きも人々の裁きも逃れることはできないだろう。

第2場

リトアニア国境・旅籠 1603年

僧侶になりすましたヴァルラーム、ミサイールと、普通の服を着たグリゴリーが旅籠を訪れる。3人は酒を飲み始める。

ヴァルラーム
カザンの町で、イヴァン雷帝は陽気に酔っ払い、タタール人を痛めつけた。彼らが二度と町をうろつかないように。

「カザンの町で」Kak vo gorode bilo vo Kazani

関所の役人たちがやってくる。彼らは指名手配のグレゴリーを探しているが、手配書の文字が読めない。

グリゴリー

私が読めます。(ヴァルラームを見ながら)その男は、50くらいで、白髭で…

ヴァルラーム
ちょっと待った。俺だって少しくらいなら、文字を読める。(たどたどしく)年は20、赤毛で、背は…おまえじゃないか!

グレゴリーは短剣を振り回して、窓から逃げる。男たちが追いかける。

「ボリス・ゴドゥノフ」第2幕

クレムリン宮殿・皇帝の居間 1604年

ボリスの娘は、亡くなった婚約者を思い悲しんでいる。ボリスの息子と乳母は彼女を励ます。ボリスが居間に入り、娘を励ます。

ボリス・ゴドゥノフ

可愛そうに。泣きどおしとは…。娘よ、部屋に行き、友と語り合いなさい。

ボリスの娘と乳母は部屋を出ていく。ボリスの息子はロシアの地図を見て勉強している。

ボリス・ゴドゥノフ

息子よ、何をしている?それは何か?

ボリスの息子
ロシアの地図を見ています。

ボリス・ゴドゥノフ

なんと素晴らしい。空から見るように、お前は国を見ているのだな。もうすぐお前のものになる。

私は最高の権力を手に入れた。だが、私の心は落ち着かない。国は貧困と疫病に覆われて、私には血まみれの子供が見える。

「私は最高の権力を手に入れた」Dostig ya vyshey vlasti

首席顧問のシュイスキー公が訪ねてくる。

シュイスキー公
私はあなたに重大な知らせを持ってきました。リトアニアに偽者が現れました。彼の背後には、ポーランド王や貴族、法王がいるようです。

ボリス・ゴドゥノフ

その男は、何と名乗っているのか?

シュイスキー公
ドミトリーと名乗っているそうです。

ボリス・ゴドゥノフ

ドミトリー…。息子よ、さがれ。

息子は出ていく。

ボリス・ゴドゥノフ

ロシアとリトアニアの国境を厳しくするように。誰も国内に入れてはならない。すぐに行け。いや、待て。お前はドミトリーの遺体を確認した。本当にドミトリーだったのか?

シュイスキー公
確かに確認しました。遺体は傷んでいましたが、皇子の顔は明るく微笑んでいました。

ボリス・ゴドゥノフ

もういい。去れ。

シュイスキー公が去る。ボリスは錯乱状態になる。大時計が鳴る。ドミトリーの亡霊を見る。

ボリス・ゴドゥノフ

苦しい。私の良心が恐ろしい罰を与える。血まみれの子供がいる!神よ、罪深い魂を哀れみたまえ。

「時計の場」Uf, tyazhelo!

「ボリス・ゴドゥノフ」第3幕

第1場

ポーランド・サンドミエシュ城内・マリーナの部屋 1604年

マリーナは自室で女中に髪を梳かしてもらっている。マリーナを褒めたたえるように、娘たちが歌を披露している。

マリーナ
もういいわ。帰って。私に必要なのはそんな甘い歌ではないわ。ポーランドの英雄の歌、勇敢なポーランド娘の歌よ。(女中に)あなたも、去って。

娘たちや女中が去る。

マリーナ
なんて悩ましく憂鬱で、退屈なんだろう。ロシアからきたあの人が私の心を捕らえる。ドミトリーを得て、ロシアの皇后になるのだ。

「なんと悩ましく憂鬱で」Dovol’no!…Skuchno Marine

イエズス会のランゴーニが訪ねてくる。

ランゴーニ
ロシアにカトリックを広めるのだ。偽者を誘惑しなさい。

マリーナ
私がそんなことをする必要があるのかしら?

ランゴーニ
神の罰が当たりますぞ。神のしもべになれ。私のしもべになるのだ。

第2場

ポーランド・サンドミエシュ城内・噴水のある庭 1604年

グレゴリーはひとりでマリーナを待っている。

グリゴリー

来てくれるだろうか?マリーナ。

ランゴーニが現れる。

ランゴーニ
皇子様。マリーナの使いできました。マリーナはあなたを愛しています。

グリゴリー

お前の言葉が嘘でないなら、ロシアがあの娘を褒めたたえるだろう。だが、マリーナの愛は、お前の嘘だろう?彼女に会わせてくれ。

ランゴーニ
君は隠れて見ていなさい。彼らに見つかるとまずいだろう。

ポーランド貴族たちがポロネーズを踊りながら城から出てくる。マリーナは年老いた領主と腕を組んでいる。グリゴリーはショックを受ける。

グリゴリー

もういい。私はロシアに向かう。

グリゴリーが去ろうとすると、マリーナが声をかける。

マリーナ
皇子様。私があなたに会いに来たのは、逢引きのためではありません。あなたはいつになったら、ロシア皇帝を目指すの?

グリゴリー

お前の愛だけが大事なんだ。

マリーナ
いつまで私への愛に焦がれているの?そんなに怠け者なら、どこかへ去って下さい。

グリゴリー

皇帝の座に座り、お前をあざ笑ってやる。

マリーナ
おお皇子様、お願い。マリーナはあなたを裏切りません。私を忘れて皇帝の座を目指すのです。私はあなたを愛しています。

「二重唱」O, tsarevich, umolyayu

グリゴリー

もう一度言ってくれ。

マリーナとグリゴリーが抱き合う。ランゴーニが二人の様子を陰から見ている。

「ボリス・ゴドゥノフ」第4幕

第1場

モスクワ・聖ワシリイ大聖堂前、赤の広場 1605年

赤の広場には、貧しい人々が集まっている。大聖堂の中では、亡きドミトリーのために祈りが捧げられている。

人々
グリゴリーが破門になったぞ。

グリゴリーが破門になろうが、皇子様には関係がない。

大聖堂では亡きドミトリー様を祈っている。

生きている人を祈るなんて、罰当たりな。

白痴イヴァヌイチと子供たちが現れる。子供が白痴から銅貨を奪う。その場にボリスが付き人を伴って現れる。

白痴イヴァヌイチ
ボリスよ。聞いてくれ。子供たちが銅貨を奪った。子供たちを亡き者にしてくれ。皇子を殺したように。

役人たちが白痴を捕らえようとすると、ボリスは止める。

ボリス・ゴドゥノフ

聖人よ、私のために祈ってくれ。

ボリスたちは去る。

白痴イヴァヌイチ
ヘロデ王のために祈ることはできない。流れよ、流れよ、苦い涙。泣け、泣け、正教徒たちよ。まもなく敵が訪れ、闇に覆われるだろう。泣け、泣け、ロシアの民よ。貧しき人々よ。

「白痴の歌・流れよ、流れよ、苦い涙」Leytes’, leytes’, slyozy gor’kiye

ヘロデ王…ユダヤの王、ヘロデ王がユダヤ近くの2歳以下の男児を処刑するように命じた出来事

第2場

クレムリン宮殿 1605年

貴族議員たちによって、偽物のドミトリーと賛同者たちを処刑する決議がされる。シュイスキー公が少し遅れてやってくる。

シュイスキー公
遅れて申し訳ありません。皆様のために忠告があります。私はボリスが死んだ子供の亡霊を追い払おうとしているのを見ました。

ボリスが、亡霊を振り払うように錯乱状態で現れる。

ボリス・ゴドゥノフ

去れ!子供よ。去れ!

ボリスは、しばらくすると落ち着く。

シュイスキー公
敬虔な老人がロシア皇帝に話をしたいと言っております。彼は高潔な人物で、あなたに秘密を打ち明けたいそうです。

ボリス・ゴドゥノフ

よかろう。私の心を晴らしてくれるかもしれない。

老僧ピーメンが現れる。

ピーメン

ある日の晩のこと、私のもとに老人が訪ねてきて不思議な話をしました。「私は幼い頃に目が見えなくなり、夢を見ることがなくなりました。ある日、夢の中で子供の声が聞こえてたのです。

おじいさん。ウーグリチの町に行き、私の墓を参ってください。私は皇子ドミトリーです。奇跡を起こす者になりました。

私は孫と共にその町に行きました。私が墓で涙を流すと、目が見えるようになったのです。」

「ある日の晩のこと」Odnazhdy, v vecherniy chas

ボリスは再び錯乱する。ピーメンが去る。貴族たちは混乱する。ボリスは息子を呼ぶ。

ボリス・ゴドゥノフ

息子を呼んでくれ。皆は下がってくれ。

息子が駆けつける。貴族たちは去る。

ボリス・ゴドゥノフ

さらば、わが息子よ、私はもう死ぬ。お前がロシアを統治するのだ。

「さらば我が子よ、私はもう死ぬ」Proshchay, moy syn, umirayu!

ボリスが死ぬ。

第3場

モスクワ近郊・クロミーの森 1605年

貴族のひとりが捕らえられ、群衆に嘲笑されている。白痴が子供たちに追いかけられている。子供たちが白痴から銅貨を奪う。ボリスを非難する民衆の声が響く。2人のイエズス会士が遠くからやってくる。イエズス会士が民衆に捕らえられそうになると、グレゴリーが現れる。

グリゴリー

ボリスに迫害された者よ、集まれ。モスクワに行くのだ!

民衆、イエズス会士らは、グレゴリーとともにモスクワに向かっていく。一人残った白痴が嘆く。

白痴イヴァヌイチ
流れよ、流れよ、苦い涙。泣け、泣け、正教徒たちよ。まもなく敵が訪れ、闇に覆われるだろう。泣け、泣け、ロシアの民よ。貧しき人々よ。

「白痴の歌・流れよ、流れよ、苦い涙」Leytes’, leytes’, slyozy gor’kiye

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