オペラ「ローエングリン」台本の簡単な対訳

目次

オペラ「ローエングリン」第1幕の対訳

前奏曲

アントワープ郊外のシェルデ河畔

ロタリンギア王国にハインリヒ王が訪問している。王はハンガリーと戦うために兵の募集に来た。

王の伝令
聞くがいい、ブラバントの伯爵、貴族、民よ。ハインリヒ王が来られる。

男たち
よくぞ、来られました。

ハインリヒ王

ブラバントの親愛なる民たちよ、神のご加護を。ドイツは危機にある。東方の敵に備えなければならない。

ブラバントに、兵を要請しに来た。だが、ブラバントは領主が決まらず、反目しあっていると聞いている。だから、私はあなたを呼んだ。テルラムント伯爵。この不和の原因を教えてくれ。

「ブラバントの民よ、神のご加護を」Gott grüss’ euch, liebe Männer von Brabant!

公国中の貴族や兵たちが集まっている中、テルラムント伯爵がハインリヒ王に申し立てる。

テルラムント伯爵

王よ、裁きに来て頂きありがとうございます。私はブラバントの領主が亡くなった後、二人の子供を委ねられました。娘のエルザと、息子のゴットフリートです。

ある日ふたりが森に出かけた後、エルザだけが戻りました。エルザは何も言わず、少年は見つかりませんでした。

私は、亡き領主からエルザの婚約者と決められていましたが、婚約を辞退して、オルトルートという娘を娶りました。

ここにエルザの弟殺しの罪を告発したい。また、公国を治める権利がある私を、領主に任命して欲しい。

「王よ、裁きに来て頂きありがとうございます」Dank, König, dir, dass du zu richten kamst!

ハインリヒ王は、ブラバント公国の公女エルザを呼ぶ。

エルザ

暗い孤独の中で、神に祈りました。私の嘆きははるか遠くに響きました。そして、甘い眠りに落ちたのです。光の武具が輝く騎士が近づいてきました。彼は私を慰めてくれました。夢の中で見た騎士が私のために戦ってくれます。

「エルザの夢」Einsam in trüben Tagen

歌詞と対訳

「エルザの夢」Einsam in trüben Tagen|ローエングリン

エルザは夢見心地で「エルザの夢」を歌います。

男たち
なんて奇妙なんだ。彼女は夢を見ているのか?

テルラムント伯爵

彼女の戯言に惑わされてはいけない。私は確かな証拠を持っている。ここに私の剣がある。私の名誉に挑む者はいるか?

ハインリヒ王

神が決着をつけてくれるだろう。テルラムント伯爵に尋ねる。神明裁判にて決着をつけると誓うか?

テルラムント伯爵

はい。

ハインリヒ王

ブラバントのエルザに尋ねる。神明裁判にて、お前のために代理の戦士が戦うことを望むか?

エルザ

はい。

神明裁判をするためのラッパが鳴る。誰も来ないかと思われたときに、白鳥のひいた船に乗って騎士がやってくる。

男たち
見よ!なんという不思議。

ローエングリン

さあ、感謝を捧げよう、愛しい白鳥よ。

白鳥が去る。

ローエングリン

エルザのために戦います。戦いに勝った際には、結婚しましょう。ただ、ひとつ約束してほしい。私の名前や素性を、決して聞いてはいけない。

エルザ

わかりました。

ローエングリン

エルザ、愛しています。

人々
何という奇跡を見ているのだろうか?

神明裁判が行われる。

ハインリヒ王

神よ、私はあなたに呼びかける。さあ、あなたの真の審判を。

男たち
純粋な腕に英雄的な力を与えてください。あなたの本当の裁きを下さい。

女たち
神よ、彼に祝福を。

白鳥の騎士はテルラムント伯爵と戦って勝つ。

ローエングリン

伯爵よ。神の判断により、お前の命は私のものだ。命だけは助けよう。

ハインリヒ王は白鳥の騎士を祝福。テルラムント伯爵夫婦が悔しがる。

オペラ「ローエングリン」第2幕の対訳

前奏曲

アントワープの城内

夜。テルラムント伯爵と妻オルトルートは、くやしがっている。

テルラムント伯爵

起きろ、恥の道ずれめ。私たちはこの地で朝を迎えることはできない。

オルトルート

私はここを離れることはできない。敵の宴に恐ろしい猛毒を吸わせてやろう。私たちの恥と彼らの喜びを終わらせてやる。

テルラムント伯爵

名誉や名声を失い、これからどうしたらいいのか。お前を信じたばかりにこんなことに!

森に住んでいたおまえが「エルザが弟を沼で殺しているのを見た」と言ったのだぞ。

さらに「あなたこそ領主がふさわしい」と私にささやき、結局お前と結婚するはめになってしまった!

オルトルート

私を罵ってどうするの?あんな男など扱い方がわかれば、大したことない。彼は子供よりも弱いわ。

テルラムント伯爵

弱いだと?彼に神の力を感じたぞ。占い師よ、お前はまた私をたぶらかそうとしているのか?

オルトルート

いいことを教えてあげるわ。あの騎士は「私の名前と素性を聞くな」と言っていたわ。きっと名前を知られれば、すべての力を失ってしまうのよ。

その質問を禁止したのは、エルザだけ。彼女が質問すれば、こっちのものよ!

あの男は魔法の力で強くなっていたのだろう。ああ、あの決闘の時、あなたが彼の体を指一本でも傷つけていたら、意のままに操れたのに。

テルラムント伯爵

恐ろしい、なんてことを聞いたんだ。私は神の裁きに負けたと思っていたが、魔法の力で私は名誉を失ったのだな。男の策略を暴いて、私の名誉を新たに得ることができるだろうか?

オルトルート

今こそ復讐の成功を念じよう。甘い眠りに落ちているお前らを、災いが見ていることを知るがいい。

エルザは、ひとりでバルコニーにいる。

エルザ

そよ風よ、あなたがこれまで私の嘆きを包んでくれた。

エルザを見つけたオルトルートは、夫を追い払い、ひとりでエルザに話しかける。

オルトルート

エルザ!夫が不幸な妄想のために、あなたを陥れて申し訳ありません。罪を償うために、生きているのです。

エルザ

そんな…待っていて。あなたを入れてあげるわ。

エルザがその場を離れ、オルトルートがひとりになる。

オルトルート

冒涜された神々! 私の復讐を手伝ってください。ここで行われた不名誉を罰してください。ヴォータン、あなたに呼びかけます。フライア、お聞き入れを!

「冒涜された神々よ」Entweihte Götter!

ワーグナーの後の作品、楽劇「ニーベルングの指環」に登場する、ヴォータン(神々の長)、フライア(美の女神)の神の名前。

エルザが戻る。

エルザ

どこにいるの?みじめなあなたを見ていると、胸が詰まりそう。明日の朝、騎士に慈悲を求めてみます。

オルトルート

お礼は何も出来ないけれど、あなたに助言します。幸せに目をくらませないでください。あなたに災いがふりかからないように。

エルザ

災いとは?

オルトルート

不可思議な現れ方をし、名前も素性もわからない騎士が、突然去ることがないとでも?

エルザ

哀れな人、あなたにはわからないでしょう。純粋に人を信じる喜びを、あなたにも教えてあげます。

朝。王の伝令が次のことを言う。

王の伝令
伯爵の追放の刑が決定した。エルザと騎士の結婚式を行う。騎士は領主になることを固辞したので、ブラバント公国の守護者として、戦にでることになった。

城内に、貴族や兵士たちが集まっている。

貴族たち
朝になるとラッパが我らを集める。

貴族たちのもとに、テルラムント伯爵が現れる。

テルラムント伯爵

私は大胆なことをするつもりだ。あの男を神を欺いた罪で告発する。

貴族たち
なんてことを言うのか。人々に聞かれたら、あなたは終わりだ。

テルラムント伯爵と貴族たちがその場を離れる。


豪華なドレスを着た、女性たちの長い行列。

人々
祝福された彼女が歩く。慎ましく長く苦しんだ人だ。神よ、彼女を導いてください。神よ、彼女の歩みを守ってください。

「エルザの大聖堂への行列」Gesegnet soll sie schreiten

歌詞と対訳

「エルザの大聖堂への行列」Gesegnet soll sie schreiten|ローエングリン

吹奏楽で有名。

エルザは彼女たちと共に、結婚のために教会へ向かう。行列の最後にいたオルトルートが、エルザに走り寄る。

オルトルート

もう我慢できない。お前の侍女にはなりたくない。

エルザ

私はあなたの夜の振る舞いにだまされたのね。

オルトルート

私の夫はこの国では名前も素性も知られ、尊敬されていた。あなたの夫は、誰も名前を知らず、あなたも彼の名前を知らない。どのような素性で、どこから来て、どこへ帰るのか?魔法で力を得ているから、言えないのだわ。

エルザ

なんて酷いことを言うの。

ハインリヒ王や白鳥の騎士、貴族たちが行列を作ってやってくる。女性たちの行列が礼拝堂まで進まずに、止まっているのに驚いている。

エルザ

私を救ってくれた人よ。オルトルートは、私があなたを信じすぎていると言うのです。

ローエングリン

悩む彼女を見なければならないのか。

オルトルートが去り、ハインリヒ王と白鳥の騎士、エルザが、教会に進もうとすると、今度はテルラムント伯爵がやってくる。

テルラムント伯爵

私はこの男の魔法の力に負けたのです。名前も素性もわからない、あやしいやつ。野生の白鳥が船をひくのは、おかしい。

ローエングリン

おまえにも王の問いにも答えない。私が質問に答えないといけないひとは、ただひとり、エルザ。

ハインリヒ王

勇者よ、不届き者には毅然と立ち向かえ。伯爵の疑いを避けるには、あなたは高貴すぎるのだ。

テルラムント伯爵がエルザに駆け寄り、小声で話しかける。

テルラムント伯爵

エルザ!!私を信じてください。彼の体を少し傷つければ、彼の隠し事はなくなり、あなたのそばにいるでしょう。夜にまた訪ねます。呼んでくれれば駆けつける。

白鳥の騎士が二人の様子に気がついて、テルラムント伯爵を追い払う。

ローエングリン

私たちの幸福はあなたにかかっている。私への疑いはありますか?

エルザ

私の愛は疑いなど、ものともしません。

多くの人たちに祝福されて、ふたりは教会の入り口へ進む。

オペラ「ローエングリン」第3幕の対訳

第1場

前奏曲

新婚の部屋

新郎新婦の寝室。エルザを中心にした女性の行列と、白鳥の騎士を中心とした男性の行列が、部屋に入ってくる。

人々
真心に導かれて行きなさい、愛の祝福があなたを守る場所へ。勇気を出して愛を勝ち取り、最も祝福された二人は忠誠を誓い会うのだ。

「結婚行進曲・婚礼の合唱」Treulich geführt ziehet dahin

歌詞と対訳

「結婚行進曲・婚礼の合唱」Treulich geführt|ローエングリン

ワーグナーの結婚行進曲。

ハインリヒ王が二人を祝福して去る。エルザと白鳥の騎士は、二人きりになる。

エルザ

私の心があなたのために甘く燃えているのを感じます。神様だけが与えてくれる喜びを、吸い込むのです。

ローエングリン

あなたが幸せを感じているならば、あなたは私に天国の至福を与えてくれるのですよ。

エルザ

これはただの愛ですか?何と呼べばいいのでしょう。言葉にならないほどの至福の時をもたらしてくれます。でも残念ながら、あなたの名前を知ることはできませんが。私は最愛の人の名を呼ぶことができない。

ローエングリン

エルザ!あなたは私と一緒に甘い香りを吸わないのでしょうか?何と甘美な感覚に酔いしれることでしょう。不可思議な魔法でにより、あなたと結ばれているのです。初めて会った時、私はあなたの素性を知る必要がなかった。あなたの純粋さが私を魅了したのです。

エルザ

あなたにとって私が価値のある存在なら、秘密を教えて欲しい。全世界に黙っていないといけないような暗い秘密なのですか?

ローエングリン

あなたはすでに私を信頼してくれています。私はあなたの誓いを喜んで信用しますよ。あなたの誓いが揺らがないからこそ、どの女性よりもあなたに価値を感じています。

私を疑う必要はないのです。夜の世界から来たのではなく、輝く喜びの世界から来たのですから。

エルザ

そんなにも、魅力的な国からやってきたのね。それならば、すぐに去ってしまうかもしれない。私への愛が冷めて、いなくなってしまったら?あなたがいてくれる保証がどこにあるの?疑いが止まらない。あなたの名前と素性を、教えてください。

部屋にテルラムント伯爵と家臣たちが押し入ってくる。白鳥の騎士がテルラムント伯爵を殺す。エルザは気絶。

ローエングリン

私たちの幸せは、全て消え去った。

騒ぎを聞きつけて、女官たちがやってくる。

ローエングリン

彼女の身なりを整えてくれ。

騎士は部屋から出て行く。

第2場

シェルデ河畔

ハインリヒ王と民衆たちが集まっている。

男たち
ハインリヒ王、万歳。

ハインリヒ王

ブラバントの人々に感謝する。誇らしげに胸を熱くした。今、王国に敵が近づいているが、勇気を持って彼を迎え討とう。ドイツの国のために、ドイツの剣を!

「ドイツの国のために、ドイツの剣を」Für deutsches Land das deutsche Schwert!

男たち
ドイツの国のために、ドイツの剣を!

「ドイツの国のために、ドイツの剣を」Für deutsches Land das deutsche Schwert!
ナチスドイツに利用された言葉。

テルラムント伯爵の遺体が運ばれる。エルザが顔面蒼白で、女官らに連れられてやってくる。

ローエングリン

ハインリヒ王。私は、あなたと一緒に戦うことができません。昨夜、テルラムント伯爵に押し入られ、彼を打ち倒しました。そして、エルザは、私の名前と素性を聞いてしまったのです。

皆がざわつく。

ローエングリン

あなた方が近づくことの出来ない国。そこには城がある。聖杯によってここに来ました。私は、パルツィヴァルの息子、ローエングリンだ。

「名乗りの歌・グラール語り」In fernem Land

歌詞と対訳

「グラール語り」In fernem Land|ローエングリン

グラールとは、ドイツ語で聖杯のことです。

ローエングリン

エルザ。もはや私は去るしかありません。

エルザ

ここから去らないで。

岸辺に白鳥がやってくる。

ローエングリン

愛しい白鳥よ、来てくれてありがとう。あと一年経てば、お前は別の姿になっていたのに。

エルザ。あと一年でもあなたを見守りたかった。弟はいずれ帰ってきます。さようなら、お元気で。

「愛しい白鳥よ」Mein lieber Schwan!

歌詞と対訳

「愛しい白鳥よ」Mein lieber Schwan!|ローエングリン

白鳥とエルザに最後の挨拶。

ローエングリンは、岸辺に走っていく。

オルトルート

帰れ!帰れ!愚かなエルザに教えてあげよう。私は、船をひいている白鳥が誰なのか、わかっていたのよ。白鳥がブラバント公国の世継ぎ(エルザの弟)だと。

エルザ。騎士を追い払ってくれてありがとう。騎士は白鳥と共に帰って行くのさ!

オルトルートの言葉を聞いていたローエングリン。彼が祈りを捧げると、白鳥が弟に戻る。

ローエングリン

彼はブラバント公爵である!

それを見たオルトルートは、倒れ込む。弟とエルザの再会。ローエングリンは去って行く。エルザは弟の腕の中で亡くなる。

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「ローエングリン」のあらすじ・相関図

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