オペラ「ナクソス島のアリアドネ」台本の簡単な対訳

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「ナクソス島のアリアドネ」プロローグの対訳

ウィーンの大邸宅

18世紀前半、ウィーンの資産家の大邸宅。音楽教師が執事長を呼び止める。

音楽教師
今日の祝宴で、私の弟子のオペラ・セリアの後に、耳を疑うような演目が予定されているそうですね。作曲家はそのようなことを許さないですよ。

執事長
許す?慈悲深い私のご主人様以外に、許可や命令を出すことができましょうか?

音楽教師
アリアドネは今日の宴のために作曲したオペラですよ。

執事長
報酬は、惜しみない謝礼と共に支払われます。祝宴の後に、お客様にどのような催しを見せるかは、ご主人様の心次第です。

執事長が出ていく。

音楽教師
このことを弟子にどうやって知らせたらいいものか?

すぐに音楽教師も立ち去る。ツェルビネッタとプリマ・ドンナは、それぞれ控室で準備している。

ツェルビネッタ

退屈していたお客さんを笑わせるのは大変だわ。

別室では、プリマ・ドンナが召使を呼んでいる。

プリマ・ドンナ

急いで!私は伯爵にお会いしたいわ。

作曲家が、ツェルビネッタに気が付く。

作曲家

あの娘は誰だ?

音楽教師
彼女はツェルビネッタです。オペラの後に、彼女と4人のパートナーが歌って踊ります。

作曲家

オペラの後?歌って踊るだって?

ツェルビネッタの控室から4人の出演者が出て、忙しそうに準備している。その破天荒な様子を見て、作曲家は怒って出ていく。プリマ・ドンナがやってくる。

プリマ・ドンナ

あの娘は何なの?私たちとあの人たちを同列に扱うなんて!

ツェルビネッタ

(わざと大きな声で)つまらないんだから、私たちが先に出演させてもらえればよかったのに。1時間も退屈していたら、笑わせるのは2倍大変だわ。

舞踏教師
(ツェルビネッタに)彼らの舞台は、観客は自分を起こすために拍手するようなものだ。それに比べて私たちの舞台は、陽気で心地よい音楽、わかりやすい筋書きだ。帰りには、ツェルビネッタの踊り以外、観客は覚えていないさ。

音楽教師
(プリマ・ドンナに)むやみに怒るのはやめましょう。アリアドネを観るために、金持ちのパトロンや著名人が集まるのです。明日には、アリアドネ以外忘れられていますよ。

執事長がやってくる。

執事長
あなた方に、急なお知らせがあります。喜劇とオペラを同時に演じてもらうことになりました。

全員が驚いて、抗議する。

執事長
演目が長引かないようにして下さい。なぜなら、21時ちょうどに庭で花火をするように命じられているからです。

音楽教師
伯爵はどのような演目を想定しているのでしょうか?

執事長
ご主人様は、この屋敷で無人島のような惨めな光景を見せられるのを不愉快に感じており、無人島に他の劇の演者を配置するという素晴らしい考えに至ったのです。

舞踏教師
もっともですね。無人島ほど味気ないものはない。

作曲家

アリアドネは、人間の孤独の象徴です。

舞踏教師
だからこそ、彼女には仲間が必要だ。

作曲家

彼女の周りには、海、石、木、静かな響き以外必要ありません。もし彼女が人間を見たら、私の音楽が意味をなさなくなる。

執事長
申し訳ないですが、急いで下さい。

執事長は出ていく。

音楽教師
どうしたらいいのか。考える時間が2時間ほどあれば。

舞踏教師
このような合理的な提案を前にして、なぜあなたたちは大げさな難癖をつけるんだ?理解に苦しむよ。変更が加えられたっていいじゃないか。作品を残すことが大切です。

作曲家

そうだな。ペンを!

舞踏教師
私がツェルビネッタに筋書きを教えます。彼女は即興で演じるのが、上手なんです。彼女に合わせて、他のメンバーも時計仕掛けのように上手くやるでしょう。

プリマ・ドンナ

(音楽教師にこっそり)テノールの出番を削って。あの男が歌うのを聞くのが堪えられないの。

テノール歌手

(作曲家にこっそり)アリアドネを短くして。あの女が長々と歌っているのを聞くのは、誰も耐えられないだろう。

舞踏教師
(ツェルビネッタに)アリアドネは王の娘です。彼女が救ったテセウスと一緒に島に逃げてきました。彼女に嫌気がさしたテセウスは、夜の無人島に彼女を置き去りしてしまう。

ツェルビネッタ

なんて悪党なの!

舞踏教師
彼女は死を望むようになる。

ツェルビネッタ

死ぬ?新しい恋人が出てくるんでしょ。

舞踏教師
そういうこともあるでしょう。

作曲家

いいや、そんなことはない。彼女は一生のうち一人だけのもので、そのあとは誰のものにもならないのです。

ツェルビネッタ

ハッ!

作曲家

(混乱して彼女を見つめて)死以外にはない。

ツェルビネッタ

死はやってこない。賭けてもいいわ。

音楽教師
その通りだ。彼女のもとにやってきたのは、若き神バッカスだった。

作曲家

彼女は彼を死神だと考えるだろう。

ツェルビネッタは、4人の仲間たちに声を掛ける。

ツェルビネッタ

劇の内容は、あるお姫様が花婿に裏切られ、次の求婚者がしばらく訪れないという話よ。私たちは、たまたま無人島にいる活気のある仲間です。私に倣って、うまくやってちょうだい。

作曲家

彼女は死に身を委ね、変容の神秘に飛び込み、生まれ変わり、彼の腕の中で再びよみがえるのだ。

ツェルビネッタ

瞬間は儚く、眼差しは多くを語る。人々は私を知っているが、その目は曇っている。

「瞬間は儚く」Ein Augenblick ist wenig

作曲家

君は、美しく不可解な娘だ。

ツェルビネッタは舞台の持ち場に行く。

プリマ・ドンナ

私の舞台から彼女たちを追い払って。

音楽教師
あなたと彼女の間にある計り知れない差を、彼女に知らしめるのに、これはいい機会ですよ。

プリマ・ドンナ

そうあってほしいわ。

作曲家が音楽教師を抱きしめる。

作曲家

もう一度良い作品にしよう。今までとは違う目で、すべてを見ることができます。音楽は、輝く玉座のためにケルビムのようにあらゆる勇気を集める神聖な芸術です。それゆえ芸術の中で最も神聖なものなのです。

「作曲家のアリア」Sein wir wieder gut

歌詞と対訳

「作曲家のアリア」Sein wir wieder gut|ナクソス島のアリアドネ

ケルビム…知天使。天使の階級で第二位。

ツェルビネッタは後ろ向きで舞台に登場して、口笛を吹いて4人の仲間たちを呼び寄せる。作曲家は、舞台の様子を見て気絶する。

「ナクソス島のアリアドネ」オペラの対訳

ナクソス島の洞窟前

アリアドネは、洞窟前で地面に倒れて動かない。彼女のそばに3人のニンフたちがいる。

3人のニンフたち
私たちは彼女の涙や嘆きに、もう慣れてしまった。

アリアドネ

私はどこにいるの?生きているの?死んでいるの?

アリアドネとニンフたちが嘆いていると、ツェルビネッタと4人の道化たちがやってくる。

ハルレキン
愛、憎しみ、望み、恐れ。あなたを暗闇から救わなければならない。たとえ新たな苦悩のためであっても。生きなければならない。もう一度生きるのです。

「愛、憎しみ、望み、恐れ」Lieben, Hassen, Hoffen, Zagen

アリアドネは動かずにぼんやりしている。

アリアドネ

すべてが清らかな国がある。もうすぐヘルメースと呼ばれる使者が来るだろう。美しく静かなる神よ。アリアドネがあなたを待っています。

「すべてが清らかな国がある」Es gibt ein Reich

歌詞と対訳

「すべてが清らかな国がある」Es gibt ein Reich|ナクソス島のアリアドネ

ヘルメース…ギリシア神話の旅人の守護神。死者の案内人。

4人の道化たちが踊りで励まそうと準備をしている。

4人の道化たち
憂鬱な気持ちを抱えた女性よ、あなた自身を悲しませすぎですよ。どんな災難が降りかかっても、時間が過ぎ、痕跡を消していくでのです。

4人が踊って励ましても効果がない。

ツェルビネッタ

もういいわ。みんな、踊るのをやめて。

ツェルビネッタは、アリアドネにお辞儀する。

ツェルビネッタ

偉大なる王女様。私には高貴な人の悲しみは理解できないのかもしれない。でも、私たちは女性同士。心は女性同士なのではないですか?王女様。あなたは一人ではないのです。

「偉大なる王女様」Grossmächtige Prinzessin

歌詞と対訳

「偉大なる王女様」Grossmächtige Prinzessin|ナクソス島のアリアドネ

4人の道化たち
頑固な人を慰めるために、こんなバカげたことをするのはやめよう。彼女を慰めるなんて無理だ。泣かせておこう。

4人の道化たちは踊りながら、ツェルビネッタを口説き始める。

4人の道化たち
アリアドネに私たちをうらやましがらせよう。

3人の道化たちが動き回る。ツェルビネッタはハルレキンを選ぶ。3人のニンフたちが急いで現れる。

3人のニンフたち
奇跡が起こったわ。若い男性!若い神が来ています。名前は、バッカスよ。アリアドネ!聞こえていますか?

ニンフたちが洞窟の中にいるアリアドネに声を掛けるが、出てこない。バッカスの声が聞こえてくる。アリアドネが洞窟から出てくる。バッカスは岩の上に現れて、アリアドネやニンフたちには彼の姿が見えない。

バッカス

チルチェ(キルケー)、私の声が聞こえるか?あなたから何とか逃げ切れた。私はこうやって休んでいる。

バッカスは、魔女のキルケーから逃れてきた。

バッカス…ギリシア神話のディオニューソス。豊穣の神。ローマ神話では、バックス(バッカス)。

アリアドネ

死の使者よ。あなたの声は甘美である。あなたを待ち望んでいた。私を連れて行って。

バッカスは、アリアドネの前に立つ。3人のニンフたちは立ち去る。

バッカス

なんて美しい人だ。あなたはこの島の女神ですか?魔法の歌を歌いますか?魔法の薬を使いますか?あなたは魔女なんですか?

アリアドネ

何を言っているのかわかりません。私は慰めもなく、長く眠りについており混乱しています。私はここに住み、何日も何日も、あなたを待っていました。

バッカス

私を知っているのですか?

アリアドネ

あなたは闇の航路を案内する、暗黒船の船長でしょう。

バッカス

私は一隻の船の船長です。

アリアドネ

私を連れて行って。私はこの世では何の価値もないのです。

バッカス

では、私の船で一緒に行きますか?

アリアドネ

準備はできています。私を試したいのですか?どうやって変化するのでしょうか?魔法の薬ですか?

バッカス

魔法の薬の話はしたが、それ以上は知らない。

アリアドネ

連れて行かれるところはそのような感じなんですね。すべてを忘れるのでしょう。

バッカス

聞きなさい、我の前に立ちはだかる人よ。死にたい者よ、私の声を聞いてくれ。今こそ命が蘇る時だ。あなたと私のためにキスする。

3人のニンフたちとツェルビネッタが二人を見守る。

バッカス

すべてにおいて私はあなたが必要だったのだ。

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